第66話:オードリー動く
オードリーにもルーパスとミネルバが苦しんでいるのが分かっていた。
感情的にはルーパスの事は許せないが、頭では事情を理解していた。
自分と母のためにルーパスが寝食を忘れて駆け回っているのを見ている。
母も先頭に立って人界を立て直そうとしている。
自分だけが何時までも過去の恨みや憎しみに囚われていてはいけないと、頭では理解しているのだ。
「何でもないのよ、オードリー。
貴女はずっと辛く苦しい思いをしていたのだから、無理をする事はないわ。
好きでもない人間のために命懸けで戦う必要などないのよ」
ミネルバが体裁を考えずに本気で話していた。
以前は命を捨てて無償の愛を与えていたミネルバだが、今は違う。
愛を与える相手を限定していた。
ルーパスの自分を捨てたオードリーへの愛と、オードリーの守護石から知らされた現実に、自分の身勝手な愛を心から反省していた。
自分の強張った愛のためにオードリーがどれほど辛く苦しい思いをしてきたのか、オードリーの守護石に現実を突き付けられていたのだ。
「私も憎い相手の為に命を賭ける気はありません。
ですが、母上と父上が苦しむのをこれ以上黙ってみてはおられません。
それに、私にも大切にしたい人はいます。
ずっと護ってくれていたグレアムと馬達は護りたいと思っています」
ルーパスの顔が一瞬で強張っていた。
命懸けでオードリーを護っていたグレアムを認めない訳ではない。
だが、余りにも愚直過ぎてオードリーを任せるには頼りなさ過ぎるのだ。
万が一にもオードリーが好きになっては困ると思っていたのだ。
あまりに不幸な育ちをしたオードリーが、私利私欲の全くない無償で助け続けてくれるグレアムに魅かれる危険性を感じていた。
その危機感を肯定するかのようなオードリーの発言に、ルーパスの心は大嵐となりその場で反対だと言いたくなっていた。
なっていたのだが、ミネルバの強い視線に射すくめられていた。
なぜならミネルバは逆にグレアムがオードリーに相応しと考えていたからだ。
確かにグレアムは誰が見ても愚直だ。
だが愚直と言えばミネルバ自身が生前とても愚直だった。
それに、グレアムがオードリーの護りの全てではない。
何といってもグレアムには守護石がついてくれている。
グレアムに足らない所を守護石が助けてくれていた事を聞いている。
これからも守護石がオードリーを護り、オードリーを護るためにグレアムを護ることが分かっていた。
「分かりました、オードリーの気持ちは受けましょう。
ですがどこまで使うかは、オードリーの守護石に決めてもらいましょう」
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