第27話:旅程2
「はぁあああああ、疲れたぁああああ」
グレアムは精神的に疲れていた。
身体は体力十分なのだが、精神がガリガリと削られていた。
遠慮会釈のないガサツだが心優しい村人の言葉についていけなかった。
彼らが親切や冗談で口にしている事は分かっていた。
だがそれでも、寝ているうちにオードリーを妊娠させちゃえと言う言葉を聞き捨てできず、真剣に言い争う事になってしまった。
「御貴族様、また手伝ってねぇええええ」
「御貴族様、王様に成れたら豊かな土地をくださいねぇええええ」
「御貴族様、王様に成れなかったらうちの村においでよぉおおおお」
自分達の村に帰る者達が大声で呼びかけてくる。
農作物を売ったお金で塩や生活必需品を買って帰るのだ。
来る時よりはるかに少なくなった荷物。
それでも人力で荷車を押すのは疲れる。
特に坂道を押すときは大変だ。
小さく貧しい村では子供でも貴重な労働力だ。
坂道で荷車を後ろから子供が押すか押さないかでも大きな違いがある。
子供達には小さい頃から町で商人と交渉する方法を教えなければいけない。
銅貨一枚高く売ることができるかどうかで、冬を乗り越えられるかどうかが決まる場合すらあるのだ。
「貴族には貴族、農民には農民の戦いがあるのだな。
生き残るために皆必死で戦っている。
俺も気を引き締め直さなければけない」
グレアムは決意を新たにしていた。
親切な村人がグレアムに代わって商人と交渉してくれたのだ。
今までは手持ちの金ではとても手に入れられないと思っていた荷車。
それを半額どころか三分の一にまで値切ってくれた。
多少壊れていた事も理由だったが、壊れている場所は村人が修理してくれた。
その代わりと言っては何だが、グレアムが露店の用心棒代わりをした。
グレアムがいなければ強引な値引きを要求したであろう強面も、死線を潜ったグレアムから自然に漏れる迫力に圧倒されて正統な値段で購入した。
グレアムがいる事を前提に、普段は怖くて売りに出せない高価な物を、この機会を利用して町に持って来ていたのだ。
村人たちの目は確かだったのだ。
グレアムにはそれほど高価な売買とは思えなかったが、小さく貧しい村から見れば、村の存亡がかかるほどの大きな取引だったのだ。
強い用心棒がいるかいないか、それも片道荷車に乗せるだけで利用できる強力な用心棒、グレアムを最大限に活用していた。
口にはできない罪悪感と詫びの心が、荷車の値段交渉と修理だった。
荷車を手に入れたグレアムは、この町で一泊してから領地を目指す心算だった。
だがその目論見は根底から崩れてしまった。
「モンスターだ、モンスターが襲ってきたぞぉおおおおお」
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