第26話:旅程1
オードリーはずっと懇々と眠り続けていた。
グレアムはオードリーを護りながら領地を目指していた。
だがいつまでも意識のないオードリーを抱きしめて二人乗りはできない。
糞真面目で融通の利かないグレアムだ。
意識のないオードリーを抱きしめることに猛烈な罪悪感を感じていた。
グレアムが典型的な勇者なら、村で馬者や荷車を徴発しただろう。
モンスターを斃すために必要だとか、大賢者ルーパス様の令嬢を助けるために必要だと言って、無理矢理民から奪っただろう。
だがグレアムにはそんな非道な真似ができるほどの図太さがなかった。
恋愛感情などの機微には極めて鈍感なのだが、両親に躾けられた良心があった。
グレアムが裕福な貴族令息なら、金にモノを言わせて馬車や荷車を買っただろう。
だがダグラス伯爵家は代々領民想いの領主が統治している。
当然だが裕福とは言い難い貴族家だ。
グレアムが有り余るお金を持っているわけがない。
仕方なく街道の村で護衛や片道輸送の仕事を探して引き受け、その代償として荷馬車や荷車にオードリーを乗せてもらった。
グレアムが予備の軍馬を三頭も連れて出た事が役に立っていた。
自分は護衛として一頭に騎乗して、残る三頭に荷車を曳かせることができる。
貧しい民の中には、自ら荷車を曳いて隣村まで物を売りに行ったり買い物に行ったりする者がいる。
片道だけでも馬に引いてもらえるのなら、荷車にオードリーを乗せる事くらいなんでもなかった。
だからグレアムは主に荷車を持つ民と移動する事が多かった。
途中でモンスターに出会う事もなく、順調な旅だった。
だが民の中には遠慮会釈のないガサツな人間もいる。
根っからの悪人などはグレアムも相手をしなかったのだが、人がよくてガサツな村人というのは結構多い
特に子供などは全く遠慮しない。
「御貴族様、この眠れる美女は御貴族様の獲物ですか。
どこかの国も王女様なのですか。
せっかく手に入れた獲物を寝かせておくのはもったいないのではありませんか。
おとぎ話のようにキスして起こした方がいいのではありませんか。
王女様を助けて起こしたら御貴族様が次の王様になるんですか」
三台もの荷車を用意した小さな村、そこの子供がグレアムに話しかけてきた。
あまりの内容にグレアムが返事を口にできないでいると、母親が加わってきいた。
「駄目だよ、余計な事言っちゃ。
御貴族様には御貴族様の段取りってもんがあるんだよ。
起きて抵抗されちゃ大変なんだよ。
眠っている間に子供を作っちまわなきゃいけないんだよ」
謹厳実直なグレアムには内容が衝撃的過ぎて、顔から火が出るほど恥ずかしくなり、真っ赤になって口をパクパクさせるしかできないでいた。
「子供ってどうやって作るの」
後ろに荷車からも子供が会話に加わってきて、収拾のつかない状態になった。
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