第28話:旅程3
グレアムは迷っていた。
オードリーを連れて急いで町を出るべきか。
それとも町の人を助けるために戦うべきか。
貴族として騎士としてどうするべきか、真剣に迷っていた。
だが、そんな迷いは愛馬が振り払ってくれた。
「ヒッィイイヒィンンン」
カポッという音がしそうなくらいの強さで頭を噛まれた。
流石に肉を喰い千切るような強さで噛まれたわけではない。
だが結構痛いくらいに噛まれた。
しかもこの大馬鹿者めという蔑んだ目で見降ろされてしまっていた。
そんな眼で見降ろされた事でようやく自分のすべきことに気がついた。
グレアムは自分の愚かさに穴があったら入りたい気分だった。
「ありがとう、スタリオン。
お陰で道を誤まらなくてすんだよ」
「ヒッィイイヒィンンン」
愛馬スタリオンが愚か者めと言わんばかりに嘶いた。
グレアムは心から反省しつつ、荷車にオードリーを乗せて逃げる準備をした。
荷車を曳くのは比較的おとなしい性格のラムレイ。
グレアムが騎乗するのは唯一の牡馬で気性も激しいスタリオン。
誰も背に乗せなくてもグレアムの想いを汲んで動いてくれスプマドールとバビエカが、モンスターが襲ってきても逃げずに戦ってくれる。
手早く馬と荷車の準備をしたグレアムは町を出て行った。
グレアムは町を守り民を助けるべきか悩んだが、それは間違いだと愛馬スタリオンに厳しく教えられたのだ。
何が一番大切なのか、頭を噛まれてようやく理解できたのだ。
グレアムが一番優先すべきなのは、全てを捨てる覚悟で助け出したオードリーだ。
町を護るために戦っている間に、心卑しい町の人間にオードリーが害されでもしたら、ルーパス様になんと詫びればいいのか分からない。
とても残念な事だが、多くの人間が欲望に満ちた極悪人なのだ。
さっきまで一緒だった村人のような善人はとても少ない。
この町の住民の大半が欲に満ちた普通の人間なのは、露店で用心棒代わりをしている間に気がついていた。
そんな町の人間を助けている間に、同じ町の人間にオードリーが害される可能性がとても高いのだと、スタリオンに噛まれて冷静になる事で思い至ったのだ。
そのグレアムの考えはとても正しかった。
いや、野生の勘で気がついたスタリオンがとても偉かった。
そもそもオードリーの良心で狭い範囲に閉じ込められているはずのモンスターが、オードリーのいる町を襲うこと自体がおかしいのだ。
守護石がモンスターをこの町に招き入れた理由。
それは町の有力者がオードリーを手に入れようとしたからだ。
いかにも貴族令息といった雰囲気のグレアムが恭しく護る眠れる美女。
どれほどの地位にいる令嬢か姫か分からない。
手に入れればどれほどの礼金や身代金が手に入るか分からない。
その欲望でオードリーを襲おうとしたのだ。
その下劣な欲望に守護石が反応して、オードリーに随伴させていたモンスターを町に招き入れ、品性下劣な人間を皆殺しにさせようとしていたのだ。
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