第10話:蘇生と復讐

 オードリーの命の灯が消えようとした時、守護石が解放された。

 大賢者に匹敵する魔力を十六年間蓄えた守護石が解放されたのだ。

 即座に毒が中和された。

 オードリーの身体が完全に修復された。


 普通なら食べた物を使って身体を修復する。

 身体に余力がない者はどれほどの高度な治癒魔術を使われても治らない。

 それがこの世界の常識だった。

 体力のない者に治癒魔術をかける時は、その前に食事をさせるのだ。

 そういう意味では餓死寸前のオードリーに自分の身体を癒す余力はない。

 

 だが大賢者ルーパスの残した守護石はこの世界の常識を外れていた。

 周囲のモノを取り込み再構成してオードリーに取り込んだ。

 口から取り入れなくても皮膚から必要なモノを取り込んだ。

 そのお陰で本来のオードリーが持っているはずだった健康な身体になった。

 だが心身ともに激しく消耗していたオードリーはそのまま昏々と眠り続けた。

 第一の封印を解放してオードリーを完治させた守護石は、第二の封印を解放した。


『我が愛するオードリーを殺した恩知らず共。

 断じてお前達を許さない。

 生れてきたことを後悔するほどの地獄に叩き落としてやる』


 大賢者ルーパスが仕込んでいた宣戦布告が大陸中の王侯貴族に伝わった。

 彼らは勇者達が死んだと思っていたことが間違いだと悟った。

 同時に自分達が魔族の再侵攻に備えるあまり、オードリーを忘れていた事をようやく思い出した。


 オードリーは病弱でフィアル公爵家で静養していると聞いていた。

 イルフランド王家の言葉を鵜呑みにして、確かめなかった事を後悔した。

 いや、彼らもデイヴィッド国王とフィアル公爵が下劣で信用できない事は知っていたから、オードリーがどのような扱いを受けているのか半ば分かっていた。

 分かっていて放置していたのだ。


 彼らはその報いを受けた。

 大賢者ルーパスが魔族から人を護るために造った魔法陣が自壊した。

 修理など不可能なように粉々に自壊した。

 魔族が魔界からこの世界に攻め込むために開いた魔界門が再び開いたのだ。

 大陸各国に魔獣や魔蟲が溢れ出した。

 魔族ほどではないものの、民が戦って勝てるような存在ではなかった。


 大賢者ルーパスの宣戦布告は、当然イルフランド王家とフィアル公爵家にも伝わり、彼らを大混乱させた。

 急いで対策をとろうとしても大賢者ルーパスがどこにいるかもわからない。

 形振り構わず偽りの土下座をして詫びたくても相手がいない。

 

 守護石は第三の封印を解放した。

 オードリーの恨みを果たすために魔力を使った。

 当然最初の相手はオードリーが最初に呪った相手、王太子のジェイムズだった。

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