第9話:大賢者ルーパス
大賢者ルーパスは魔界になど行きたくなかった。
魔王との戦いで死んでしまった妻の菩提を弔いたかった。
亡き妻との間に生まれたたった一人の子供、オードリーの側にいたかった。
だが長年肩を並べて戦ってきた勇者や仲間を見捨てる事もできなかった。
自分がついていかなければ彼らは確実に死ぬ。
そんなルーパスにイルフランド王国の国王と、フィアル公爵家の夫人が子供を預かると約束してくれた。
保証というわけではないが、オードリーをフィアル公爵家の養女として、イルフランド王国王太孫と婚約させてくれた。
魔王軍の再来を恐れる大陸各国が相談して決めた事だった。
そこまでされて遠征を拒否することはできなかった。
拒否すれば人の世界で生きていくのは難しい。
亡き妻の残したオードリーを、人の世界から隔絶させて育てることはできない。
遠征を拒否してこの世界に残る事は、勇者を含めた人間全てを敵に回す事になる。
だがルーパスにもどうしても引けない事がある。
国王とフィアル公爵家夫人は信用できる。
だが国王は高齢でフィアル公爵家夫人は病弱だ。
王太子とフィアル公爵が品性下劣な卑怯者だと分かっている。
それが分かっていて無条件に娘を預ける事などできない。
だからルーパスはとてつもない力を秘めた守護石を創り出した。
見た目はとても貴重な魔宝石ではあるが、魔宝石は他にないモノではない。
だがその中身はこの世界に二つとない特別なモノだ。
魔力を無限に蓄えることができる魔法袋化した魔宝石なのだ。
ルーパスに匹敵する魔力を秘めたオードリーが、魔力に踊らされて自滅する事を防ぐためのモノでもあった。
しかもさらにルーパスは大陸各国と勇者達に約束させた。
魔界への遠征は長くても一年までとする事。
一年を過ぎるようなら、どれほど有利に戦況が進んでいようとも、どこの誰が反対しようとも、ルーパスはこの世界に戻ってくると事。
流石のルーパスもその約束がオードリーを苦しめるとは思ってもいなかったのだ。
あれほど激しく言い放ったルーパスが、一年どころか十年以上たっても戻ってこないどころか、使い魔の一体も送ってこない。
大陸中の国々が勇者一行は全滅してしまったのだと思っていた。
だが同時に大魔王がいるという魔界からの再侵攻がない。
勇者達は激闘して大魔王と刺し違えたのか、少なくとも魔界に大損害を与えてくれたのだと感謝していた。
だがルーパス達は普通に生きていた。
それどころか二カ月ほどしか戦っていない心算でいた。
ルーパスにも計算できなかった大誤算があった。
魔界の時の流れが元の世界の百分の壱だとは思ってもいなかったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます