第11話:復讐1

 守護石にはオードリーの全ての記憶が残されていた。

 それにオードリーの恨みが加わったのだ。

 守護石に人の感情などない。

 記録と恨みに反応して相応の復讐を加えるだけだ。

 ジェイムズ第一王子への復讐は残虐なモノとなった。


 まずは信じている者に裏切られる事から始まった。

 それも家族に裏切られる事からだ。

 父親や母親よりも信じていた、親代わりの傅役が殴りかかって来た。

 老齢とはいえ武芸に秀でた傅役だ。

 ジェイムズ第一王子の顔はみるみる腫れあがった。

 腫れあがった傷が破れて血が噴き出すほど殴り続けられた。


 側近でも武器を持ってはジェイムズ第一王子の側に近づけない。

 それが王族を護るために決められたしきたりだ。

 阿諛追従でジェイムズ第一王子の側近になったモノでは傅役を止められない。

 側近達は急いで表を護る近衛兵を呼びに行った。

 ジェイムズ第一王子が最も信じていた傅役は、滅多斬りにされて死んだ。

 だがその時にはジェイムズ第一王子の顔は倍に腫れあがっていた。


「うギャアアアアア」


 同じ事が王宮中で起きていた。

 デイヴィッド国王は愛人の某伯爵夫人との逢瀬を楽しんでいる時だった。

 いきなり何の躊躇いもなく某伯爵夫人が国王の両目を突いてきた。

 躊躇いがないので、某伯爵夫人の指の骨が折れるほどの激しい突きだった。

 いきなりの激痛と視界がなくなった事で、デイヴィッド国王は反射的に某伯爵夫人の上から逃げようとした、だが強く繋がっていて逃げられなかった。


 某伯爵夫人は下からデイヴィッド国王を殴りつけた。

 折れた指の事など無視した、女とは思えない激しく強い拳だった。

 その激しさは某伯爵夫人の拳が骨から変形している事と、デイヴィッド国王の下顎が変形し、顔面が陥没することからも明らかだった。


 デイヴィッド国王はようやく反撃を始めた。

 下にいる某伯爵夫人を情け容赦なく全力で殴り出した。

 愛していた女が相手とは思えないほどの激しい殴り方だった。

 自分が生き残るのが一番で、それだけ考えて敵を殺す気持ちで殴ろうとした。

 だが既に目を潰されていたので、どうしても狙いが正確ではなかった。


 某伯爵夫人は痛みなど感じていないように、グチャグチャに潰れた拳で殴る。

 剥き出しの骨でデイヴィッド国王の顔が裂ける。

 無限の時間にも思える間、元恋人同士が激しい殺意を持った殴り合いをする。

 だがついに決着の時が来た。


 目を潰されたデイヴィッド国王が某伯爵夫人の顔を掴むことに成功した。

 そして男の力に任せて某伯爵夫人の首を捻り折った。

 デイヴィッド国王は何とか死地から逃げ出す事に成功した。

 いや、もしかしたら長期間苦しめるためにわざと殺さなかったのか。

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