第4話:嘲笑・オードリー視点
「まあ、なんて臭いのでしょう、一体なんの臭いでしょう伯爵夫人」
「本当に臭い事、まるで貧民街のような臭いではありませんか子爵夫人」
「いえ伯爵夫人、そのような生易しい臭いではありませんわ」
「そうね、そうそう、下民の牧場に行った時にと同じだわ。
不潔な糞尿まみれの豚と同じ臭いですわ」
「まあ、何という事でしょう。
いったい何処の田舎者が王宮に汚い豚を連れてきたのでしょう」
「「「「「ほぉぉホホホホホ」」」」」
あまりの情けなさに滂沱の涙が流れてしまいます。
流すまいと努力しても止まってくれません。
嗚咽をこらえるだけで精一杯です。
不潔なのも異臭がするのも、自分でも分かっています。
死ぬ覚悟で冬の冷水で身体を清めようと思った事はあります。
ですが雑巾一つ与えられない私には、清めた後で身体を拭く事もできません。
雑巾のような服で拭く事も考えました。
ですが毛布もシーツもない私には、服を濡らす事は死につながります。
ジェイムズ第一王子が助けに来てくださるかもしれないと、わずかな希望に縋っていた私は、死を覚悟する事ができませんでした。
こんなことになるのなら、身体を清めておくべきでした。
そうすれば少なくとも豚のように臭いとは言われなかったのに。
でも、きっと豚のように汚いとは言われていますね。
ああ、これが全部国王陛下とジェイムズ第一王子がやらせた事だというのですか。
もし本当にそうなら、この場で死んでしまいたい。
「陛下、御下命通り雌豚を連れてまいりました」
父が、いえ、フィアル公爵が何か言っています。
あまりの恥ずかしさ情けなさに下を向いていました。
心から愛したジェイムズ第一王子殿下。
目をかけていただいていると思っていた国王陛下。
お二人に蔑みの目で見られるのが絶えられず、下を向いていたのです。
「本当に汚らしい雌豚だな、想像以上に汚くて臭い。
どう思う、ジェイムズ」
「このような姿で王宮に来るなど無礼にもほどがあります。
このようなモノが私の婚約者の地位にいるなど許される事ではありません。
早急に婚約を解消するべきです」
どうしても上を見ることができませんでした。
ジェイムズ第一王子殿下と国王陛下の顔を見ることができません。
見てしまったらその場で舌を噛んで死を選んでしまいます。
それだけは絶対に嫌です。
このような王侯貴族の集まった場所で、無様に死ぬのだけは嫌です。
でも顔を見なくても声だけで分かります。
憎々しげな声色、死ねという気持ちがありありと伝わってきます。
もう死は決断しました。
でもここは嫌です。
こんな汚く臭い姿のままで死ぬのは嫌です。
絶対に嫌なのです。
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