第5話:義憤・グレアム視点
あまりの下劣さに吐き気がする。
世界の恩人である大賢者ルーパス様の忘れ形見に対して非道すぎる。
この場にいる者共を皆殺しにしたい。
国王と第一王子と公爵を面罵したい。
しかし、実家のダグラス伯爵家の事を考えれば我慢するしかない。
自分の義憤のために歴史ある伯爵家を滅ぼすわけにはいかない。
祖父母、両親、弟妹を巻き添えにして死を選ぶわけにはいかない。
勇者様達に比べてなんと矮小で身勝手で醜い事か。
こんな事では国王達の事を非難できない。
見て見ぬふりは同罪なのだと分かっていて、眼を瞑ってしまう。
「まあ、なんて汚くて臭いのでしょうか。
このような糞尿まみれの雌豚は早々に追放してしまいましょうよ」
義理とはいえ妹のくせに、何という言い方だ。
ずっと第一王子に媚を売り誘惑してきた腐れ女。
公爵家と王家の権威を笠に、多くの貴族令嬢と貴族令息を虐めてきた。
中には精神を病んで領地に逃げ帰った者もいるほどだ。
こんな性悪女が王妃になったら、この国は滅んでしまう。
「そうだな、我が愛するモードよ。
こんな汚らしい雌豚とは早々に婚約を解消して、そなたと婚約しよう。
そうすればこの国は輝かしく繁栄する。
もはや魔族戦争など過去の事なのだ。
過去の功績を何時までも振り回して権利を主張するなど、品がなさすぎる。
やはり成り上がり者共には品性が欠けておるのだ」
何を言ってやがる、脳なしで怠惰な出来損ないが。
ダグラス伯爵を含めたすべての王侯貴族が、先祖の功績で今の地位を得たのだ。
先祖の功績を貪り続けているのは我らではないか。
その一番の代表がお前達王家であろうが。
魔族戦争では憶病にも王城に籠って民を顧みなかったくせに、よくそのような事を口にできるモノだ。
「おお、輝くほど美しいモードよ。
私はずっとそなたの事を愛していたのだ。
先代王の失政で、汚く臭い雌豚と婚約させられてしまったので、堂々と愛を約束することができなかったが、今なら高らかに宣言できる。
私はフィアル公爵家令嬢のモードを心から愛している。
一生モードを大切にする。
だから私と婚約して欲しい」
「はい、喜んで、ジェイムズ第一王子殿下」
「うっ、うううううう、うう」
もう、許さん。
もうこれ以上は我慢できない。
堪えきれなかったのだろう、オードリー嬢の嗚咽が大きくなる。
ただの貴族令嬢であろうと、このような眼に会わすのは非道過ぎる。
まして世界の恩人にこのような下劣な行い、絶対に許されない。
だが、やはりダグラス伯爵家に迷惑をかけるわけにはいかない。
私は急病で死んだことにしてもらう。
変装して正体を隠し、オードリー嬢を助けて他国に逃げる。
他国の中には今でも勇者様達に恩義を感じている国があるはずだ。
この命に代えてもオードリー嬢には幸せになってもらう。
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