第3話:連行・オードリー視点

「国王陛下とジェイムズ第一王子殿下がお呼びだ。

 直ぐに王宮に行くぞ」


 私はこのまま放置され忘れ去られ餓死するのだと思っていました。

 それなのに急に王宮に行けなどと言われても無理です。

 痩せ細ってみすぼらしい身体。

 薄汚れて所々破れた粗末な服。

 アカと脂に塗れた身体に、フケと脂のこびりついた髪。

 こんな状態ではとても王宮になどいけません。


「父上様」


「私の事を父と呼ぶな!」


 心が張り裂けそうです。

 父と呼ぶことも許されません。


「……このような状態で王宮に行ったら、公爵家の恥になります」


「ふん、フィアル公爵家とは何の関係のないモノがどれほど恥をかこうが、フィアル公爵家の恥にはならん」


 ああ、ああ、ああ、私に恥をかかせたいだけなのですね。

 私を傷つけ笑い者にして楽しみたいだけなのですね。

 これがアルバートを拒絶したことへの報復なのでしょうか。

 それともなかなか毒を飲まない私に対する嫌がらせなのでしょうか

 それはあまりに無慈悲過ぎるではありませんか。


「せめて、侍女の御仕着せをお貸しください」


「お前に貸すモノはたとえ下女のモノであろうと何一つない。

 グズグズするな、さっさとついて来い」


「おねがいでございます、せめて身体を清めさせてください」


「駄目だ駄目だ駄目だ、その醜く汚らしい姿で王宮に行くのだ。

 それが国王陛下とジェイムズ第一王子殿下のお望みだ」


 その言葉に、わずかに残っていた希望の灯が消えてしまいました。

 国王陛下とジェイムズ第一王子殿下がこの事を知らないという希望です。

 もし知られたら、助けてくださるかもしれないという願望です。

 そんな希望などないのは分かっていました。

 もしフィアル公爵が、私が病気だと偽って王宮に行かせていないのなら、王家から見舞いの使者が来てくれていたはずですから。


 フィアル公爵家の家臣が嫌そうな顔をしながら私の腕をつかみます。

 みすぼらしく痩せ細り、アカ脂に塗れた腕に触れたくないのでしょう。

 自覚していた事ではありますが、そんな態度一つに心が痛みます。

 まるで鋭い刃で心を突き刺されたような痛みです。

 あまりの哀しさに我慢できずに涙が流れてしまいます。


「このような臭く汚いモノと同じ馬車には乗れん。

 使用人が使う荷馬車にでも乗せて連れてこい。

 だが絶対に手出ししてはならん。

 傷つける事は王命により禁止されている、擦り傷一つもだ。

 違反したアルバートが王家の地下牢に幽閉されているのだ。

 もしお前達が違反したら、一族皆殺しになると思え、分かったな」


 いったい何を言っているのでしょうか。

 ここまで私を傷つけ笑い者にしながら、傷一つつける事も許さない?

 アルバートが王家の地下牢で幽閉されている。

 やっている事と言っている事が全然一致していません。

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