27話 マドンナと美少女に問題発生
「それってホントなの?匠君?」
「いや、あのな……」
不安や焦りの籠った声で俺に真偽を尋ねてくる美少女。俺はその場しのぎにならないように、経緯を一から説明するため、一旦花蓮を落ち着かせようとしていた。
しかし、そう簡単に物事が進まないのが世の定め。俺が説明しようとしたとき、横から油が差し込まれた。
「本当も嘘もないよ!沙恵とたくは生まれた時から結婚することが決まってるんだから」
「もしかして……許嫁……」
「いいなずけ?そんなの知らないけど、沙恵とたくは最初から結婚するために生まれてきたの」
「断じて違う。安心しろ、こいつと会ったのは高校にはいってからだ」
「出会ったのも運命。決まってたんだよ?いつ出会うかも、どこで出会うかも、沙恵は最初から何でも知ってたんだから」
はぁ~っと、俺は内心ため息をつき思考を巡らせる。まったく、沙恵のやつは相変わらず脳みそがぶっ飛んでやがる。ほんとに、許嫁も知らないのに生まれたときから結婚するのが決まってたとか言うし、ましてやいつ出会うかどこで出会うかはすでに知っていたとか中二病っぽいことも言うし、こんなのと真剣に話してたら、間違いなく日が暮れても話が終わらない。
しかし、そんな俺の考えとは裏腹に、意外な反応を見せたものがいた。
「そんなの……勝てない………」
「……え?」
花蓮は、悔しそうに、今にも泣きそうなのを必死に耐えながらそんなことを口にした。
「何言ってんだ?花蓮…」
「だって!2人は運命で結ばれてたんだよ!私が匠君と出会うずっとずっと昔から!」
「いやそれ完全に彼女の勝手な妄想だから」
俺は、大きな声で突っ込みたくなる気持ちを必死にこらえて、適格かつ冷静に突っ込んだ。
しかし、俺の努力は実らず、沙恵によって崩される。
「沙恵の妄想なんかじゃないよ!現に沙恵たちは付き合ってるんだから」
「う、うそ……」
嫌な予感が的中したと言わんばかりの衝撃を受けた顔をする花蓮。どういうことかがいまだに理解できない。
「で、でも…。今は私と付き合ってるんだから!匠君は、私のなんだから!」
ここにきて1番大きな声で、花蓮が抗議する。
「私、匠君と別れる気なんてないから、絶対ないから!別れるくらいなら……学校休むんだから!」
「沙恵だって別れる気ないもん!」
「ん……!」
もうあと1分くらい放っておいたら泣き出しそうな花蓮と、今までの発言を聞いて、俺はようやく理解した。
「あぁ、そう言うことか」
花蓮は今日の朝、俺にラブレターまがいの物が届いていることを気づいていたので、それを気にして放課後ついてきていたのだろう。そして、俺が屋上に言ったことから、これがもしかすると告白なのではないかと思い、上がってきた。そして恐る恐るドアを開けて外の様子をのぞこうとした矢先、沙恵が爆弾発言をし、花蓮が驚いて鞄を落としたのだろう。
その時花蓮は俺たちが付き合い始めた。あるいは少し前から告白されていてついに返事をしたのだ。とでも思ったのだろう。そして、花蓮は自分が俺の彼女だと言うことを知らないのだと思い、そのことを説明しようとしていたのだろう。
なんて可愛い彼女なのだろうか。守ってあげたくなる。
「わ、私たちは4か月前から付き合ってるんだから!」
ここで核心をつく一言。これで分かるでしょ?とでも言わんばかりの核心だ。素晴らしい。
「沙恵はそのもっと前から付き合ってるもん!」
「…え?」
「…は?」
ここにきての沙恵の爆弾発言に、思わず漏れた声が奇跡的に2人とも被った。
さすがと言いたくなるほどの爆弾発言だ。ここまで自分の世界を綺麗に保っているのはもはや一種の能力なのかもしれない。俺は内心あきれながら、話半分で聞いていたのだが……
「もっと……前から?」
「そう!4か月前よりもずーとずーーっと前から」
「いつ……から?」
「うーんとね、1年生の春から」
「そんなに前から……」
沙恵の言葉を真に受け、真剣に落ち込む花蓮。
先に断っておくが、俺は沙恵とは一度も付き合ったことは無い。もちろん俺が異性として意識したことは一度もないし、親同士が仲がいいとか転校していったとかそんなこもは一切ない。はっきり言って、この女、沙恵の勝手な妄想である。ほんとだからね?
「で、でも!匠君は、私の告白にOKしてくれたもん!」
「そんなの沙恵だって一緒だよ?」
「いやそんな記憶1ミリもないから」
「匠君…」
ここで俺はきっぱりと違うということを示した。
さすがにこれ以上流していたら、花蓮が信じなくなるかもしれない。そして、花蓮が悲しむようなことになるのはごめんだ。まぁ、これで何とかなるだろう。そう、思っていたのだが……。
「そんな、酷いよたく……」
「酷いのはお前の圧倒的な妄想力だろ」
「そんなの、あんまりだよ……」
「いや、ほんとに何言ってるんですか?」
俺は今一度思った。
「あぁ、こいつとは普通に会話をすることさえ不可能なのか」と。
しかし、俺はコイツと会話できない。しかし花蓮の誤解を解くこともできない。うーーむ…。これは どうした物か……。
「わ、私は夏休み明けにココに匠君を呼び出して告白したの!それで匠君も私のことが好きだったって言ってくれて付き合ったんだもん!」
「沙恵も同じような感じだよ~」
「じゃ、じゃぁどんな感じだったか教えてよ」
「え~とね、1年生の時の5月かな?今はやめちゃったみたいだけど、バイト先で、シフトの時間が終わって帰る間際に沙恵が好きって言ったらもちろん俺も好きだぜって言ってくれたから運命のままに付き合ったの」
「うそ、だ……」
「あぁ、花蓮の言う通り正真正銘の大ウソだ」
俺はもう早く帰りたいと思う一心で、沙恵の言葉にツッコんだ。
「うそって、酷いよたく…」
「いや、嘘だろ」
「どこが?」
「ほとんどあってるが、大事なところだけ嘘だ」
「どこが?」
「……」
俺は、スーっと息を大きく吸い込んで、そのまま大きく吐いて、そしてもう1度吸って、言葉を吐いた。
「俺はお前の告白にOKどこれか返事すらしていない。と言うか、そもそも好きと言われただけで、別に告白を受けた覚えはないし、俺は好きとは一言もいってない」
そう、俺はそもそも告白すらされていないのだ。確かに、例えば花蓮とか、花とか、その辺のしっかりとしたというか、清楚系と言うか、そう言ったタイプが好きといってきたら、間違いなく告白だろう。
しかし、相手はちゃらちゃらとしたギャルの沙恵だ。こいつが好きといっても毎日のように言われているに近い言葉だから、なんとも思わない。確かに、こいつが真剣な顔で、真剣な口調で、そう言ったのなら、告白だととらえたかもしれない。しかし、こいつはあの時恐ろしいことを言っていた。
「沙恵が好きって伝えたんだから、たくも沙恵の事好きに決まってるじゃん!だから返事なんていらなかったの!だって、あの時たくの目がそう語ってたもん!」
「どんな目だよ!あの時はりせにフラれたことまだひきつってたから人を恋愛的に好きになってたなんてありえない。そして、その状態を徐々に溶かしてくれたのが花蓮だ。そして自然と花蓮のことを好きになり、次第に片思いしだした」
「そ、そんなことがあったんだ…知らなかった……」
俺のただの花蓮へのラブレターをきいて、花蓮は俺の過去を少し知って、驚いたような表情をしていた。
しかし、俺の放つどんな真実も沙恵の前では無に等しい。何も通さない、彼女の自空間には。
「でも、沙恵たちが付き合ってることに変わりはないもんね」
「何でだよ」
「だって、沙恵は好きなんだもん!だからまだつきあってるもん」
「そ、それなら私だって匠君のこと好きだもん!絶対渡さない!」
やべぇ、俺がすぐ隣にいること分かっていってますか?照れすぎて泣くよ?
「沙恵の方が先だもん!」
「私は…公式だも!」
「花蓮、ごもっともだ」
なんとも花蓮らしいと言うかなんというか、ほんとにいい事言うな。
「じゃぁ仕方ないね。沙恵もあなたも譲る気がないんだったら決着をつけないとね」
「そうだね!これじゃすっきりしないし匠く……」
「だから、そろそろやる実力テストの順位で勝負しよっか」
「えっ……!」
「それはお前……」
こいつ、やりよった。花蓮の噂は間違いなく知っているだろう。まぁ、もし知らなくても問題ないだろう。だってこいつは……
「い、いや、それは…」
「でも、学生ならそれが分かりやすいでしょ?」
「で、でも……」
いや、さすがにまずい。こいつは確かにギャルだ。結構遊ぶタイプではないが、それでも普通には遊ぶ。が……
「万年2位の下村のNo.2。それがお前の二つ名だろ」
「えへへ。ありがとう、たく。そんなに褒めてくれなくても、沙恵はたくの事大好きだよ」
「褒めてない。確かにすごいとは思うが」
「もぅ~照れちゃって!」
「でも、それを分かってテスト勝負とか、随分とずるいと思うが?」
「そうかな?勉強なんて、頑張ればだれでもできるじゃん」
「この天才が……!」
認めよう。確かにこいつは賢いし、努力もしている。しかし、そもそも、だ。この勝負を受ける必要性がない。何せ、俺が付き合ってるのは花蓮で、それは周知の……あ。
俺があることに気づいたのを見透かしたのか、沙恵がそっと続ける。
「まぁ、別にこの勝負、受けなくてもいいけどね?もし受けなかったら……沙恵とたくが付き合ってるって言いふらすよ?」
「すればいいだろ」
俺は、強がってそう言った。
「いいんだ~?聞いてみたけど、たくたちが付き合ってるの知ってる人少なかったけど?」
「くっ……!」
やはりと言うか、気づかれていたか。俺たちはあまり学校で目立つような感じで付き合ってない。と言うか、周りには花を筆頭にすごくキャラの濃いメンバーがいる。だから、付き合っているだなんて思われていないだろう。
「な、なら。何でわざわざこんな勝負を申し込む!かってに言ってりゃ良かっただろ」
「そんなの~決まってるじゃん」
そう言った沙恵は、どこか含みのある笑顔でこう答えた。
「たくに引っ付いてる虫を払うため。簡単に言うと、たくたちを別れさせることが目的!2人も恋人はいらないでしょ?」
「そう言うことか……」
なるほどな。今の状況なら、不利度は互角なわけだ。しかし、この勝負だと勝ち目はない。それこそ平均点が499点で、1位が同率119人とかじゃないと勝ち目がない。これじゃどのみち積んでる…。
いや?別に負けても問題ないのでは?結局俺たちに宣言してから言いふらすだけだから、あんまり変わってないような。
何だ。何かある。こいつの真の目的が。そう言えば、俺を呼び出した本当の理由も分からないままだ。どういうことだ。
「受ける?」
「う、うけ……」
花蓮にはそこまでの考えが至らなかったのだろう。今言われたことで、花蓮の頭に残ってるのは、たぶん別れさせる。ぐらいだろう。
だから、花蓮は決意するように答えようとしたその時だった。
「ちょっと待った!!」
「「ん?」」
「ニヤッ…!」
そこに現れたのは、黒髪ロングの清楚系美女。この学校のマドンナ。誰もが子の美貌に1度は目をくぎ付けにする彼女は、伊藤花。
「話は聞かせてもらったけど、その勝負、私が代わりに受けさせてもらうよ」
「へぇ~トップ3常連の花ちゃんか。懐かしいね!まだ半年もたってないのに」
「そうだね。でも、今回ばかりは負けないからね」
「へぇ~花ちゃんもだいぶ変わったんだね。半年前とは大違い。何だかとげの出し方覚えた感じ。いいね!」
「私が代わりに受けるってことで大丈夫?」
「う~ん、そうだね。ちょうどいいや。分かった。じゃぁ、それでいいよ」
「今回だけは負けないよ」
「そんなセリフは聞いたことなかったけど、似たようなセリフは何度か聞いたことあるな~」
「沙恵ちゃんが言った通り、私は変わったんだよ?勿論、学業の方もね」
「そっかそっか、じゃぁ、楽しみにしてるね、花ちゃん」
「う、うん……」
最後のは、ふざけてなかった。間違いない。本気だ。
沙恵は今、本気で宣戦布告をした。これは間違いない。強者の余裕なんてみじんもない。油断も隙もない完璧な気配だった。
「悪いな、花。何か変なことに巻き込んじまって」
「い、いや、今のは私が勝手に盗み聞きして、勝手に介入しちゃっただけだから、むしろ私の方が謝らないと……」
「いや、勝ち目も残しながら、あいつの本当の目的を考えられるからほんとに感謝しかない」
「そ、そうなの?そっか、それなら…よかった」
そう言って、花は見たものを一瞬で落とすことができるであろう笑顔を俺に向けてくれた。
文武両道、才色兼備。世の女子は嫉妬で気が狂いそうなやつだな。ましてや無自覚で、花にかからないと言う、まさに世の女子のあこがれだ。男子なんて、お近づきになりたくて仕方ないだろう。ほんと、俺は恵まれ過ぎだ。
「花ちゃん。何だかごめんね、私の代わりみたいになってくれて」
「いいよいいよ。沙恵ちゃんが帰ってきてたなら、どちらにしろ私は意識してたと思うからね」
「花ちゃん…」
沙恵も言っていたが、花はだいぶ変わった。しかし、それはここ半年で急激にって訳ではない。1年の時からトータル的にだんだん変わっていている。
そんなことを考えながら、俺は冬休み中から考えていたことを口にする。
「じゃぁ、また勉強会でもするか」
「そ、それ、お願いしてもいい?」
「おう!また中間の時のメンバーでしようぜ!」
「うん。お願いします!」
「私も行っていい?」
「もちろん!」
「花蓮も点数上げないとだしな」
「ありがとう!」
こうして、嵐のような沙恵との事件は、何とか無事終わった。
1つの面倒な勝負と、1つの謎を残して…。
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