25.5話 彼女の誕生日会で問題発生
年が明け、もうすぐ冬休みも終わろうかと言う頃。俺の家にはたくさんの友達でにぎわっていた。
お昼前までの静まり返った部屋の空気が嘘のように、今の俺の部屋は、熱気で帯びていた。
「いや~今日は皆さん集まっていただき誠にありがとうございます」
「何その気持ち余所行き語。同期しかいないのにそんなかしこまらなくていいでしょ」
「で、ですよね~」
俺が開会の言葉を述べるにあたって、社交辞令を言っていたところを、「気持ち悪い」と言うとてつもなく辛辣な言葉で割って入ってきたのは、言うまでもなくのんきな陽菜である。
「まぁ、でも。ほんと、みんな集まってくれてありがとな」
「私からも、本当にありがとう」
「いいって、いいって」
「友達なんだし当然だろ」
「私たちの仲でしょ?」
「私のときもしてくれたしね」
「どれだけ忙しくても、このイベントだけは逃せませんので」
こんな感じで今日みんなが俺の部屋に集まっているのは、お礼を言った花蓮のためである。
なんと言っても、本日1月7日は俺の自慢の彼女である、岡田花蓮の誕生日なのである。
「ま、なんとも馴染み深い顔ぶれがそろったことだな」
「まぁ、結局こんなもんだろ」
「まぁ、いつものメンバー勢ぞろいと言った感じか?」
「久々にワイも呼んでもろたしな」
「確かに久々だな。健斗」
健斗を始め、今日来てくれたメンバーは、花、陽菜、りせ、康晴、ルン。そして、今回の主役の花蓮と、家主である俺だ。
俺と共にプレゼントを選んでくれた夢葉だが、残念ながら今日はどうしても外せない用事があったとのことで、不参加。まぁ、そこまで花蓮とかかわりがあった訳でもないしな。
「まぁ、そう言うわけでだな。改めましてーー」
俺は少しだけタメを入れて、近所迷惑にならない程度に大きな声を出す。
「花蓮。誕生日、おめでとうーー!!」
「「「「「「おめでとう~~!」」」」」」
「ありがとう、匠君。ありがとう、みんな」
「ほい、これ誕生日プレゼント」
「ありがとう!陽菜ちゃん」
「私からも。たいしたものじゃないけど」
「花ちゃんありがとう!」
「私たちからはケーキね。あとでみんなで食べるでしょ?」
「そうだね、ありがとう!りせちゃん、康晴君!」
「食べ物で悪いね」
「私からは、誕生日プレゼントとしてふさわしいかどうか分からないけれど、ハンカチを…その……」
「ありがとう!ルンちゃん!」
「本当に気持ちだけになってしまいすみません」
「そんなことないよ!ありがとう!」
「げッ。これブランドもんじゃねぇかよ」
「上村ってこういうの詳しいんだ~」
「まぁ、詳しいってわけじゃないけどな」
「ふ~~ん?」
「え、なんだよその空気。俺、めっちゃ渡しずらいんだが……」
「おいおい、今日の大取だろ?しっかりしろよー」
「ははは~。ってことで…はい、花蓮。あんまりたいしたもんじゃないけど、まぁ、よかったら使ってくれ」
受け取った花蓮が中身を確認する。
「ヘア……ピン?」
「あ、あぁ…。不要になったらべつに売るなり焼くなり好きにしてくれていいから」
「売るならともかく焼きはしないでしょ!焼きは!」
「間髪入れないりせのツッコミ……最近鈍ってきてると思ったら、なんだ。全然まだまだいけるじゃねぇかよ」
「行けるも何もない!」
「ハハハ」
うーーん。親友の恋を応援する気持ちはすごくあるんだよ?でもね、ほらさ…。今日は君の親友の彼女の誕生日会をその親友の家でしかも他の人も集まってしてるんだよ、そこんところ把握していただいてるんですかね?え?
なんて言った少しだけの苛立ちを視線に乗せて彼らに送った。
「焼くのはもとより、売ったりなんてしないよ!大切にする!ありがとう、匠君」
「良かった。気に入ってもらえて」
そう言って、今日1番の笑顔を向ける花蓮を見て、なんだか少しだけ安心できた。
「いやーしかし、年明けてすぐなのに、なんかもう落ち着いてきたな~」
「言ってる間にもうすぐ冬休み開けるしね~」
「部活か……なんか嫌だな」
「私はたのしみだけどな~」
「2人とも運動部のバリバリ軸だもんなぁ~。すごいよな」
「そうそう!やっぱりすごいよね!頑張ってるもん」
「ありがと、2人とも」
昼ご飯を食べ終えた俺たちは、康晴とりせが持ってきてくれたケーキを食べながら雑談をしていた。久々にあった訳でもないのに、学校に行っていないせいか、どこか懐かしさを感じてしまう。
ほんとに、こういう時につくづく感じるんだけど、俺ってほんとに友達に恵まれてるんだな~って思う。だってさ、みんないいやつだし、話しやすいし、気が合うんだよな~。しかも、全員可愛いときた。こんなの傍から見たら羨ましい限りだと思う。いや、俺も実際高校に入るまではこんなことを夢に描いていた。なんせアニメでは定番中の定番だしな。
さえないタイプの俺だが、それでもこんなにも素晴らしい仲間とこうして何気ない会話をすることができるのは、やっぱり恵まれてると思う。
「……匠君!」
「……ん?」
突然呼ばれ、俺はゆっくりと振り返った。するとそこには目を疑うような絶世の美女がいた。
「どう……かな…?似合ってる……かな?」
「ッ…………!」
あぁ、ダメだこれ。僕の限界超えてますね、これ。ダメでしょ?こんなの。反則反則!
俺に似合っているかと尋ねてきたその美少女は、顔を耳まで真っ赤にし、恥ずかしさからか、おずおずと視線を送りながら俺の返答を待っている。俺が先ほど挙げた誕生日プレゼントのヘアピンを頭につけ、その少し下あたりを手で押さえている。
ほんとに、俺は友達だけではなく、彼女にまで恵まれているのか!!!今更だけど…。
世の中の男はみな1度は望んだことがあるだろう。漫画やアニメやドラマのような、あまあまで、見てる側はうぷっってなるぐらい、例えるならそう、クリームソーダにおしることホイップクリームを大量に混ぜ合わせたような、そんなあまあまな感じの展開を。それが今、俺の身には起きている。あぁ、神よ。私は今この時のために生まれてきたのですね。生を授けていただけありがとうございます。
そんな『アホ』みたいなことを考えていた俺だが、ふと我に返り、目の前を見た。すると、早く返事をしてほしいと言わんばかりの視線が、俺に注がれていた。
俺は、さすがに恥ずかしくなって、目をそらしてしまい、そのまま返事をした。
「……めっちゃ、似合ってるな。良かったよ、似合うと思った感が当たってて」
「そ、そう?えへへ」
あ、やべぇかわえぇ。俺、このまま昇天しちゃうのかな?お母さん。生んでくれてありがとう。育ててくれてありがとう。僕の人生は、最高に幸せでした。
なんて言う感じのことを脳内でつぶやいていた俺だが、その後一気に現世に引きずり戻された。もちろん理由は分っていた。俺もさっき思ったし、ましてやついさっき心の中で述べていることが原因だ。
そう、今まさに俺は誰もが夢見るあまあまな展開になっている。自分で言うのもなんだが、幸せオーラ全開で、超ラブラブしている。そう言うことだ。実際に体験している方は、幸せでしかない。しかし、見ている方は、うぷっっとなるのだ。もやもやするし、くたばれとも思う。
だから、みんなの視線が全く同じものになっていた。
「あの……自分、もう帰っても…いいですか?」
そう言っていた。多分、ここが俺の家で、今日が花蓮の誕生日だから、誰も何も言わずに黙認してくれている。ただ、視線だけはすごい。この人数が全く同じ視線を四方八方から打ってくる。
……うん。何か変な性癖に目覚めそうで怖いな。これは怖いな。
なんだかんだで5時を回ったころ、俺たちはそろそろ解散しようかと言う流れになった。
「今日は本当にありがとう。みんな」
玄関を出て、エントランスあたりで花蓮が振り返ってみんなに言った。
「いいっていいって」
「そうそう。私たちは友達なんだし」
「そうでよ!てか、普通に楽しかったし」
「えぇ、そうですね。とても有意義な時間でした」
「みんな、ありがとう!」
花蓮はもう一度強く感謝の気持ちを述べた。
みんなが帰り、1時間程が経った。後片付けは、ほとんどやってから帰ってくれたので、掃除機とか洗い物とかしか残っていなかったため、割とすぐに終わった。風呂も入り、もうあとは寝るだけとなった。
「やっぱり、空は綺麗だな……」
こんな季節の風呂上りに、ベランダに出るなんて、風邪の元になるが、それでもふと空を見上げたい気分になった。
「思い出すな…。たしかあのときもこんな空だったな」
━2年前のこの季節だ。
俺は受験のために勉強に明け暮れていた。もしも落ちたらと思う事だけは避けたくて、生きず待ったらよく窓を開けて空を眺めていた。
田舎って程ではないけど、都会って程でもないから、俺の部屋の窓からはそこそこの星を見ることができた。
俺は昔から空が好きだったらしい。とくに、夜空がとても好きだったらしい。子供の頃は、星ではなく月が好きだったらしい。たぶんだが、小さいから星を認識するのに少し時間がかかっただけだったんだと思う。
と、そんなことを考えていた時、ふと何かの記憶が蘇る。
━「ねぇ。あれってなんていう星なの?」
「ん?あれか?あれはデネブって言うんだ。はくちょう座っていう星座のなかで、1番明るい星なんだ」
「そうなんだ。匠って、物知りなんだね。すご~い」
「へへっ、そうだろ?」
何かの上に乗りながら、そんな話をしていた。多分何か大きな岩だろう。そして、人数は2人。髪の長い女の子だ。ってことぐらいは、思い出せるんだけど、後は何も分からない。変な記憶だ。記憶は記憶でも、俺の本当の記憶じゃないかもしれない。ただの想像上の記憶かもしれない。しかし、たぶんこれは実体験だ。何となくそんな気がする…。
「寒ッ。そろそろ中に入るか」
そして、俺は速やかに毛布にくるまって静かに眠りについた。
可愛い彼女の誕生日会は、無事に大成功できて本当に良かった。
俺はかすれていく意識の中、最後にそんなことを思った。
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