25話 プレゼント選びで問題発生

—ヒュゥーー~




「ふぅー。さっむい」




 1月4日のお昼前。寒いと感じるのも年が明けてからもう4回目だ。


 今日はあいつと待ち合わせをして、花蓮の誕生日プレゼントを買いに行く予定だ。まぁ、場所はいつも通りと言うか、安定と言うか、七宮モールなんだがな。




 そうこうしているうちに、待ち合わせの3分遅れであいつが到着した。




「先輩~~。お待たせしました!」


「あぁ。今日は来てくれてありがとな」


「まぁ確かに?私の予定のこととかも考慮してもらいたかったんですけど?」


「ん?予定あったのか?」


「確定してたわけではないですけど、誘われてはいました」


「そうなのか?なんか悪いな」


「そうですよ!だからほんとに感謝してくださいよ~」


「そうだな。まじで感謝します」




 なるほど、予定がなくもなかったのに、わざわざ来てくれたんだな…。てか、それなら別に断ればよかったのに…。




「なぁ、夢叶」


「はい。何ですか?」


「何で俺の方をとってくれたんだ?」


「はい?」


「いやさ、だって他にも先に誘われてた友達がいたんだろ?」


「はい。いましたよ」


「ならさ、何でそっちじゃなくて俺の方に来てくれたんだよ」


「それはですね……」




 少しためた後、夢叶は口を開いた。




「先輩は頼れる人が少ないじゃないですか!」


「ふぁ?え、何?どういうこと?」


「だって、私は友達いっぱいいますし?今回誘われてた友達は私以外で3人いましたし?1人でかわいそうな先輩からのお願いだったら、そっちに行ってあげないとかわいそうじゃないですか」


「うーん。なるほど。お前が俺のことをどう思っているのかがよく理解できた」


「あはははは~」




 ったく、なんか優しいのか酷いのか分かんねぇな。まぁ、口ではあぁ言ってるけど、俺の誘いに乗ってくれた時点で、十分優しいんだけどな。




「それに……」




 俺が色々考えていると、夢叶が何かを話し出した。






「先輩の頼みだったら断れないじゃないですか」






「え?ごめん。なんて?」


「ふふっ。何でもないですよ!さ、行きましょ!」


「あ、あぁ……」




 小さな声で、つぶやくように何かを言った夢叶は、さっきまでの調子に戻ったようだったが、なぜか耳が赤くなっている…。


 ほんとになんて言ったんだろうな、あいつ。よけいに気になるな…。






 電車に乗った俺たちは、もうだいぶ慣れてきた道のりをたどって、七宮モールまでやってきた。




「相変わらずだな~ここは」


「ですね~」




 相変わらずの大きいモール内を見回すと、正月シーズンだけど、そんなに混んでは無かった。逆に、正月だからかもしれなが…。




「それにしても、ここに来るのクリスマスイブぶりなのに何だかすごく新鮮ですね」


「へぇ~、お前もクリスマスぶりなんだ」


「え?はい、そうですけど…どうしたんですか?」


「いや、意外だなと思ってな」


「そうですか?年末年始は忙しかったですしね~」


「お、そうなのか」


「ていうか、まだ10日くらいしか経ってませんけどね」


「そうだな」


「10日しか経ってないのにまた誘ってくれるなんて、先輩もしかして私の子と好きなんですか?」


「え、なんでそうなんだよ」


「だって、そんなにすぐ私とデートに行きたかったんですよね?」


「いや、間違ってるけど大体あってる」


「え、どういう意味ですか?」




 俺は、伝え忘れていた今回の要件を伝えた。すると、夢叶は




「え、またですか?」




 というごく一般的な反応を示した。




「ていうか、この前結構奮発してたんじゃないんですか?」


「あ、あハハハ~」




 俺は目線をそらしてしまった。


 いや、自分でも分かってるんですよ?正直本気で彼女の誕生日の存在を忘れてしまっていたなんて口が裂けても言えませんね。しかも、他の女友達の誕生日会ではちゃっかりプレゼントあげちゃてるしな。やべぇますますゲス主人公みたいになってきた…。




「もしかして、今度は違う人ですか?」


「いや、えっと……」


「え、図星ですか?」


「いや、普通に違うから」


「え~、じゃぁ今回は予算あんまりないんですか?」


「……はい」


「ま、プレゼントは金額じゃないですよ」


「ゆ、夢叶……」




 突然後ろを振り返って優しく微笑まれたので、何だか妙な感覚を覚えた。


 これが俗に言う、下げて上げるってやつか!地の底まで相手を陥れ、そして自らの手で救いの手を差し伸べる…。まさに、自作自演。これほどまでに素晴らしくい詐欺のいい自作自演は現代にはないのではないだろうか。そして、この策の長所は何といっても、使っている相手には気づかれにくいという点。傍から見たらただの自作自演が、その人から見ると、まるで天使のように見えると言う……。




「なるほど。よくわかったぜ」


「え、なんですか急に。ちょっと気持ち悪いですよ。と言うか普通に気持ち悪いですよ」


「そうだな、確かに急に訳の分からんことをいってしまってすまん。ちょっと感動してた」


「ほんとにこの一瞬で何があったんでしょうか…」






 モール内を軽く回ってみたのだが、どうにもこうにもこれと言ったものがなかった。




「どうしましょうか、先輩」


「ほんと、どうしたものかねぇ~」


「と言うか、誕生日プレゼントなんですよね?」


「あぁ。そうだけど」


「なら、私もその誕生日会、誘ってくださいよ」


「ん?まぁ、いいけど」


「え、いいんですか?場所とかもう予約とってるんじゃ……」


「いや、俺の家でやるから問題ないよ」


「そうなんですか、なら………って、家?先輩の家?ファミレスとかじゃなくて?」


「あ、あぁ……」




 いや、普通は家だろ。こいつの友達の誕生日会も見てみたいが、こいつ自身の誕生日会なんてさらにすごいんだろうな…。




「てか、普通に誕生日会とか開いていいんですか?他の人に取られたりしないんですか?」


「ん?」


「だから、他の男に取られる心配はないんですかって聞いてるんです!」




 あぁ、そう言うことか。それなら大丈夫だ………よな?大丈夫だよな?でも、少なくとも誕生日会でってことはないだろ。来ても康晴だけだし。それに康晴はりせのことが好きだしな。




「まぁ、大丈夫かどうかは分からんが、とりあえず誕生日会では問題ない」


「そうなんですね、それなら安心です」


「まぁ、確かに心配はしとかないとな」


「そうですよ!」




 なんか、そういった類の心配されるのはなんだか恥ずかしいな……。




「て言うか、先輩は誕生日プレゼントいつ渡すつもりなんですか?」


「えっと……まぁ、帰りに家まで送っていく際中かな~と…」


「家まで送るんですか?」


「あぁ。1回行ったこともあるしな」


「え、もう家デートまでもっていったんですか?」


「え?あ、あぁ。何か食いつき気味だな、夢叶」


「そりゃ、私も若干関係してますしね」


「確かにな」




 まぁ、行ったのは2日前だから、クリスマスの後。確かに夢叶のおかげではないとは言い切れないな。




「それに、ご両親とも会ってきたしな」


「ご、ごご、ごごごご両親?」


「え。あ、うん」




 予想外の反応に、俺はびっくりしてしまった。え?そんなに動揺するのか?




「それはさすがにちょっと早すぎるんじゃ…。その、もっと順序を踏まないと……」


「え、何その反応ちょっと怖いぞ」


「そ、そうですね。確かに少し取り乱し過ぎました」


「まぁ、確かに夢叶にしてはめずらしかったな」




 なんか、いっつもいじられて俺だけ調子狂うのに、なんか今日は夢叶が調子狂ってんじゃん。何か新鮮だな、これは。




「それにしても、まさかそこまで進んでいたとは……なかなか難しいですね」




 新鮮な状況に浸っていると、夢叶が小さい声で、また呟くように何かを口にした。




「ん?なんて?」


「いえ、何でもないです」


「ん??」




 それにしても、今日の夢叶は独り言がやけに多いな……。ま、そう言う日もあるか。






 何もないままただただ時間だけが過ぎていき、気付けばもう12時半を回ろうかと言う頃だった。




「さすがに腹減ってきたな」


「そうですね。もう12時過ぎましたしお昼ご飯の時間ですね~」


「何が食べたいとかあるか?希望があるなら受け付けます」


「そうですね~。まぁ、お手軽にフードコートでいいんじゃないですか?」


「おぉ…。意外だな、お前からその提案をするなんて」


「え?何でですか……?」


「いやさ、なんか女子ってフードコート嫌うイメージがあるし、しかも典型的な女子である夢叶だからなおさら嫌ってるんじゃないかと…」




 俺が少しずつ数が多くなってきた女の子とのお出かけを通じて、俺は学んだことがたくさんあった。その中の1つがあまり女子をフードコートにこちらから誘うのはNGと言うことだ。


 そんな俺の経験からの考察を聞いた夢叶は、「はぁーーー」と本気のため息をついてから、何故話さなくてはならないのかと言った口調で話し出した。




「あのですね、先輩」


「はい……」


「女の子がフードコートに行きたがらないのは、奢ってもらうこと前提だからですよ」


「は、はぁ…」


「フードコートだったら、会計別になる可能性の方が高いですよね?」


「そ、そりゃそれぞれが好きなものを食べられるのがフードコートの売りだからな」


「そうです。その通りです。だから、男の人に『ここは俺が出すよ』って、言ってもらえなくなるじゃないですか?」


「ま、まぁ確かにそうかもな」


「ですよね。だからです」




 なるほどな。理屈は何となく理解した。しかし、相変わらず女子と言う物は奥が深いと言うか闇が深いと言うか、とにもかくにもまだまだ分からないことだらけだ。




「なるほど、何となく理解はした。でも、うまいもの食うのも悪くないんじゃないか?」


「じゃぁ、先輩は奢ってくれますか?」


「は?」


「だから、先輩は私に今日の昼食代奢ってくれますかって聞いてるんです!」


「いや、それはちょっと……」


「ですよね?なら、フードコートでいいじゃないですか」


「は、はぁ…。そんなに自腹では食べたくないんだ」




 すると、夢叶はまたあきれた口調で話し出した。




「私には……いえ、女の子にはたくさんの付き合いがあります」


「…はい」


「たくさんのグループと仲良くしないと、クラスや学校での地位を確立できません」


「…はい」


「付き合いにはお金は必要ですよね?」


「ま、まぁ…それなりには」


「ですよね。そして、お金は無限にない」


「…はい」


「まぁ、簡単に言うと、節約ですよ。せ・つ・や・く!」


「……なるほど」




 確かにそうだな、これはあまりにも当たり前のことじゃないか。俺とか見たいなたいていの一般男子なんて、ほとんど出かけたりしないし、出かけてもあんまり金を使わないようにお互い配慮するもんな…。俺は趣味に使うし余計に気にする。てか、大体は家でゲームとかだしな。




「うんうん。何か当たり前のことだったのになんか抜けてた」


「そうなんですよね…。実は普通に当たり前なんですよね」


「ま、そういうことでフードコート行くか」


「ですね」






 フードコートでそれぞれ適当に昼食をとった俺たちは、再び誕生日プレゼントを選ぶためにモール内をぶらぶらと歩き回っていた。




「それにしてもほんとに何買うんですか?」


「いや、それなんだよな…」




 ジャンルすら決まらないせいで、何も進展しないままかれこれもう2時になっていた。




「何だかパッとしたものがなかなか見つかりませんね~」


「そうだな……。何か深く考えすぎなのかもしれないな…」


「そうですね~。もっと楽な感じで考えればいいんですよ~」


「そうだな……」




 さすがに2人とも疲れてきたので適当に流すような会話を、適当にしていたのだが、そんなとき、ふと目に入ったものがあった。


 それは、たいしたものじゃない。ただの髪飾りだ。何とも言いずらい、普通の……ウサギがついている可愛らしいい髪飾りだ。




「髪飾り……ですか?」


「え、あ、いや…うん……」




 別に決めたわけでもなかったので、あいまいな返事をした。


 確かに、髪飾りを送られてもこの身があるしな…これは服とかと同じだろ。


 俺は、あえて好みの別れる服などの物には一切手を出さなかった。鞄や靴などもそうだ。これは人にもらうと、使わなければと言う気持ちになってしまうため、あまり良くないのではないかと俺が夢叶に聞いたところ、「そうですね。先輩、結構女子の心が話kるじゃないですか」と言われたから両者一致で無しにしていた。




「いいんじゃないですか?」




 俺が脳内で過去のことを振り返っていると、夢叶がそう言ってきた。


 口調は投げやりではなく、真剣そのものだった。




「でも、この身とか別れるんじゃ……」


「いくらあっても困る物じゃないですしね」


「そう…なのか……?」


「はい。それに、だいぶコストも抑えられますしね」


「……確かに」




 納得してしまった。こう見ると、これは完璧なのでは?と思えてきた。重くなく、実用性があって、安価。条件にピッタリだ。




「よし。じゃぁ、勝ってくるよ」


「はい。待ってます」




 そして、俺は速やかにウサギの髪飾りを1つ手に取り、レジに持って行った。






「それにしても、すごく時間かかりましたね」


「だな。ほんとに助かったよ」




 誕生日プレゼントを無事に購入することができた俺たちは、夕日が傾き始めた大通りを、駅に向かって並んで歩いていた。




「まぁ、私も愚痴とか聞いてもらったんで、お互い様ですよ」


「ははは…。それならそう言うことにしとくか」




 俺は、誘ったときに愚痴を聞くと言うことを約束していたので、食事中や歩いている暇なときに、夢叶の愚痴をたくさん聞いた。それでも今回ほどめんどくさいことを受けてくれたんだから対等かどうかは怪しいぞ…。


 そんなことを考えながら、俺は歩幅が大きくなり過ぎないように気を付けながら歩いていた。




「それにしても、なんか疲れたけど楽しい1日だった気がする」


「確かに。私も何だか楽しかったです」


「ま、機会があればまた来たいもんだ」


「それって、私とまたデートに来たいってことですか?」


「まぁ、半分くらいはあってるから突っ込むのやめる」


「え、何ですかそれ!ちょっとさすがにその対応は私でも傷つきますよ!」


「はいはい、また来ような」




 俺はなだめつつも、また来たいと言うのは嘘ではないことを主張した。もちろん2人でなんて一言も言ってないので多分セーフ。これは浮気じゃない。


 そんなことを考えていると、夢叶がポロッとこぼすように呟いた。




「でも……そうですね。また来ましょう」




 俺たちは、同時に改札をくぐった。

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