24話 懐かしの地元で問題発生

「まったく、時間厳守で行きましょうぜ?」




 俺が笑いながら。いや、苦笑いと言うかなんというか、いろんな感情が混ざった顔をしながら言った。




「おいおい、別に時間15分遅れだろ?」


「そうだよね~」




 あれ?俺の感覚が間違ってるの?時間厳守ってなに?ほんとになんなの?




「1秒でも遅れたらそれはもう立派な遅れだろ」




 俺は至ってまじめな顔でそう言った。




「細かい男はモテないよ~匠」


「そうだな。細かいとかの次元超えてるもんな」


「お前らそれでも遅刻してきた側の態度か!」




 なんて感じのいつものような流れ。あぁー。落ち着くな、この感じ。


 去年は夏休み終わった後なんかじゃ想像できなかったもんな。こんな感じでまた一緒に馬鹿な話して笑い合えるなんて。まぁ、そもそも俺の告白と言う物への強い感情のせいでああいう状況になったってわけだがな。それは知らん。




「しかしまぁ、中学の時は毎日のように遊んでた町なのに、今となっては本当にたまに来るだけになっちまったな~」


「それは匠だけだけどね」


「ハハハ~…」




 少しだけイラっとした感じのいい方で言ったりせの言葉に、ふとあの時の言葉を思い出した。






 去年の夏休み最終日。いわば例のぎこちなくなり始めた日のことだ。


 俺が引っ越したことに、りせは非常に悲しんでいた……らしい。だから、あの日言っていた言葉は少し胸に来た。




『てか何でおまえ、うちの高校にしたんだよ』


『だって匠が近いっていうから』


『俺は、引っ越すから近くなるって話をしただろ』


『そうだけど…』




 あの時の少し悲しげな感じの口調が、余計にバツが悪くなったのを今でも覚えている。


 何と言ったって、俺が引っ越した時にりせは泣いてたんだぜ?ボロ泣きとかではなくて、そうだな……俺が告白を振ってしまったときと同じような表情だった。悲しさを押しこらえてその結果涙と言う液体が目から出てきたという感じ。






「そう言えば、りせは匠が1人暮らし始めるとき泣いてたよな」


「ちょっ、ちょっと康晴!それはダメ!禁句禁句!私の黒歴史!」


「ハハッ!やっぱりりせは面白いな」


「もうー」




 照れながらも頬を膨らませるりせ。なるほど。通りで康晴が好きになるわけだ。


 だって、康晴のタイプドンピシャだもんな。


 なんて他人事のように言ってるけど、昔の俺も好きだったんだから、何とも言えないな。




「りせも昔より表情が豊かになったんじゃないか?」


「え?そう?自分じゃ表情が見れないからわかんないけど……」


「あー、確かにそうだな。表情がコロコロ変わるようになった」


「康晴もそう思うの?そうかな…まぁそうなのかも」


「運動だけが好きな、クールな猫系女子だったもんな」


「それに関しては今もほぼ変わってないんじゃねぇか?」


「そうだな」


「2人とも何がかは分からないけど、なんか酷い!」




 あー。何だろう、この感じ。スゲー青春を謳歌してる感じがする。1回あんなことがあって、距離ができてしまったおかげで、逆に今まで以上に深い関係になれた気がするな。雨降って地固まる。まさにそんな感じだな。






 なんだかんだ話しながら、俺たちは目的地のカラオケの店の前までたどり着いた。




「予約とってんだよな?」


「おう、俺は匠みたく賢くはないが、馬鹿でもないからな。しっかりと到着時間ピッタリに予約入れといたぜ」


「え、まじ?」




 訳の分からないようなことを言いだす康晴のことは置いといて、俺たちは店の中に入った。




「いらっしゃいませ~」


「予約してた上村です」


「分かりました。少々お待ちください」




「高校生3名で予約の上村様でお間違いありませんか?」


「はい、大丈夫です」


「かしこまりました。13時48分からで予約が入っておりましたので、ちょうど今から3時間になります」


「ん?」




 俺は時計を見た。


 13時48分……。まじか、ほんとに到着時間ピッタリじゃねぇか。完璧すぎるだろ、これ。


 俺はあまりにもぴったり過ぎたので、むしろ若干引き気味に康晴を見た。


すると、康晴はこちらを振り返って「ピッタリだろ?」と言うようなどや顔で、キラーンとか言うオノマトペが出てきそうなグッチョブとウインクをしてきた。腹が立つが、すごいので今回は良しとしよう。






「ってことで、3時間歌いますか」


「おう、そうだな。1番手は誰が行く?」


「そんなの……な?」


「そんなの……ね?」


「え、何々?どういう視線?」




 2人が1度目を合わせてから俺を見てきた。


 ん?何だかこの流れ、覚えてるぞ?




「「匠の十八番からって定番じゃん!」」


「ですよね~。そうだろうと思ってました」




 と、いう訳で俺はいつも通り十八番を歌った。歌はあまり上手じゃないし、下手でもないというタイプの人間んなので、もちろん高得点が出る訳でもなく、88点と言う微妙な数字をたたき出した。




「相変わらずだな」


「相変わらずだね」


「相変わらずで悪かったな!」




 ほんと、毎度おなじみになってるんだから相変わらずなのが当たり前だろうに。ほんと、他にコメント無いのかよ。




「んじゃ、次も定番通りの俺かな」


「そうだね」




 そうして康晴も歌いだす。曲は毎回最近のはやりの物だ。何となく、陽キャだな~と思ってしまう曲のセンスである。




「ふぅー。割と疲れるな、カラオケって」


「まぁな、それが普通だろ」


「お疲れ~」




 言い忘れていたが、康晴は俺と似たり寄ったりの歌唱力で、今回の曲は86点だった。




「次は私だね」


「いや~久々のりせの生歌か、楽しみだな」


「確かに結構久々だな。何だか楽しみだ」


「ちょ、そんな変に期待されても困るんだけど…」


「な~に、これは」


「いつもの定番なんだから」




 てことで、りせも歌い終えた。これで一回りした感じだな。え?りせの点数?それはだな……。




「96点…か、ちょっと精度落ちちゃったかな?」


「いや、十分です。心に届く歌をありがとう」


「ごちそうさまでした」


「いや、だからそう言う変な反応は昔からやめてと……」


「だ・か・ら」


「これは、」


「「定石なんだから」」


「2人そろうと破壊力抜群だね、これは……」


「だろ?ま、何だか懐かしさとか色々感じれて楽しいな」


「たしかにな。こんな感じで遊んでたもんな、俺たち」


「懐かしいよね……って、何だか大人になった時に同窓会で集まって、あの頃はこんな事とかあんな事とかしたよね~って話してるみたいな雰囲気になってるって!」


「はは、俺らも年とったな」


「だな」




 ボケる担当が2人になってしまうと、ツッコミ担当のりせも大変だな。




 そう言う感じで、俺たちはおのおのの歌いたい曲を歌ってカラオケの時間は終了した。


 ちなみに、りせはあの後記録を更新し、98.782点まで伸ばした。俺と康晴は……88点くらいだった。普通…かな?






「はぁ~よく歌ったな」


「そうだな。久々に心に溜まってた鬱憤を晴らせた感じがするしな」


「え、匠そんなに鬱憤溜まってたの?青春を謳歌してるくせに?」


「……」




 やばい、りせからその言葉が来ると、すごく胸をえぐられる…。




「いや、その、えーっと……」


「この3人のうち、1人だけだもんな。謳歌してる奴……」


「だよね~。いいなぁ~私も青春を謳歌したかったな~」


「……」




 あの、えっと……。ほんとにあなたは僕がふった1人の少女なんでしょうか?こんなにネタにしてもいいような内容なのですか?


 …いや、そうだな。俺が深く考えすぎだったんだな。前も同じ失敗してるのに、また同じ失敗を繰り返してしまう所だったな。危ない危ない。




「いや、ほんと、逆に謳歌しすぎて困ってるって感じかな」


「「リア充爆発しろ!!!」」


「2人そろって仲良しかよ」


「「いや、これは全国の非リア充が同じことを口にする!」」


「またもやピシャリとそろえてくるあたり、ほんとにお似合いなんじゃね?」




 ヒクッツっと、康晴の表情筋が一瞬ひきつった。が、康晴はこれがある意味俺の配慮であることを一瞬のうちにして理解したのか、これが好機であると踏んで行動に出た。




「ハハ、そうだな。どうだ?りせ。俺がもらってやろうか?」


「何その上から目線~。まるで私が負け組みたいじゃん!」


「まあな。俺、モテるし」


「そ、それ自分でいう?まぁ、事実だから反論できない……」


「まぁ、りせもモテるしな…。その点互角なんじゃね?」


「た、匠!そんな冗談やめてよ!」


「ハハハ。悪い悪い……」




 いや、嘘じゃないんですよ?花のせいで隠れてるだけだからね?




「まぁ、考えといてあげるわ」


「おいおい。負けを認めといて何で上から目線なんだよ」


「負けを認めたつもりはないから!」


「ほ~う。面白いこと言うんだな」


「面白くないし」


「なんだと?」




 いや、何でこいつら闘志燃やしまくってんだよ。もう付き合っちまえよ。じれったいんだよ。


 なんてことを思ってしまうのが理解できるけど、俺もそんな風に思われてたんだと思うとなんかちょっと辛いな。




 そんなやり取りをしばらく続けている康晴とりせを横目に、俺は明日の約束を着々と進めていた。




「明日10時に駅前集合でいいか?」




「はい!」




「まじで助かる。それから……」






 って感じで明日の予定は決まった。よし。




「だから、私の方が上だから!」


「いいや俺の方が上だ!」


「あ、あのー。いつまでお2人は言い争いをされているのですか?」


「「争ってない!」」


「ピッタリ」


「「だ・か・ら」」


「あら、完璧」




 いや~。康晴も、アプローチの仕方が独特だな。ほんと、独特にもほどがあるだろ。って感じていたが、どうやら若干本気で張り合ってるような気がしてくるな…。




「そろそろ行こうぜ、飯の時間に遅れるぞ?」


「そう言えばそうだったね」


「そうだな。確かに親がそんなこと言ってた気がする」


「そう言うことで、君たち2人が言い合っている間に僕はご両親たちに連絡を取って、直接行くことを伝えておきました」


「「あ、ありがとうございます」」


「てなわけで、今から電車で向かいましょうか」


「「はい…」」




 そんなこんなで俺たちは直接宴会の席へ向かうことにした。






「お待たせしました」


「お、匠君。明けましておめでとう」


「明けましておめでとうございます。東川さん」


「明けましておめでとう、匠君」


「明けましておめでとうございます。上村さん」


「匠、固いね」


「匠は余所行きだな~」


「いや、余所行きって……」


「そうだぞ、匠君。そんなに固くならなくてもいいんだよ?」


「そうそう。楽にね、匠君」


「は、はい…」




 何だか悲しくなるな。こう、この2人に言われるとちょっとな~。




「よし、匠もそろったってことで、晩御飯と行きましょうか」


「だな」


「そうだね」


「それじゃぁ~。明けましておめでとう!今年もよろしく!」


「よろしく~」


「よろしくな」


「よろしくお願いしますね」


「よろしくお願いします」


「これからもよろしくお願いします」




 父親方は新年会みたいな感じだな。でも、やっぱり母親方は少し距離があるな…。これが大人と言う物か……。




「なんか、お父さんはいつも通りだけど、お母さんはなんかいつもと違うな~」


「こういう時は大体そんなだよな、母親って」


「だな」




 親と言うか、大人の付き合いと言う物を目の当たりにした俺たちは、結局子供だけでご飯を食べた。






「お疲れさまでした~」


「いや~新年会はいいもんだね」


「このまま2件目行きますか」


「だな」


「私たちはこの辺で解散と言うことで」


「そうですね、私たちはこの辺までかな」


「ですね」




 こんな感じで父方が2次会、母方が解散となった。




「俺らも今日はここまでだな」


「だな」


「そうだね」


「またな」


「またね」


「おう!またな」




 てことで子供人も解散となった。




 解散した俺は、家に帰って明日の準備をしていた。




「クリスマスに大金使ったから金欠なんだよな……」




 誕生日のことを考えてなかったので、どうにも資金調達が追いつかなかった。まぁ、金額じゃないよな、プレゼントは。気持ちが大事だもんな。そうだそうだ。




「明日はあいつに任せるか」




 そう呟いて、俺はベットに倒れ込んだ。

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