23話 両親の話で問題発生?

「父さんの、知り合いなの?」




 なんともまぁ、テンプレートな展開ですね。これは。


 要するに俺の彼女の父親と、俺の父親が知り合いってことだよな。博って呼ぶからにはよっぽどだろうから、同じ会社の同期か後輩か。あるいは学生時代の同級生か後輩かってところか。


 しかし、まさか知り合いだったなんて。それで俺への対応がとても緩かったのか。何だか得をした気分だ。




「知り合いも何も、昔っからの仲だぞ?高校の時の同級生なんだが、仲良かったメンバーの中の1人だよ」


「同い年なんだ。ちょっと意外かも」


「そうか?あぁ、そう言えば昨日博の家にお邪魔したそうだな」


「うん。何だ、それも知ってたんだ。いつ言おうか迷ってたのがバカみたいじゃねぇかよ」


「ハハハ。いや、完全に忘れてたよ。すまんなたくみ」


「おいおい父さん……」




 俺は、内心ホッとしていた。俺の父親も、俺の彼女の父親も、仲がいい。それなら、俺たちの将来は少し安泰かもしれないな。と言う安心だ。


 しかし、俺はそれと同時に必然的に浮かび上がってくる疑問と言うか、疑いと言うか、期待と言うかなんというか分からないが、そう言った類のものがあった。




「なぁ、父さん」


「どうした?忘れていたことに対して本気で怒ってるなら、父さんも態度を改めてから謝るが…」


「いや、そうじゃないんだよ。別に気にしてないし、忘れてたのも本当だと思うし、それに、別に父さんに非が無いから」


「そこまで言ってくれると逆に感動してしまうな」


「何にだよ」




 よく分からない父さんの価値観はさておき、俺は同じ分からない分野でも知りたい側のものを聞いてみる。




「父さんたちって仲がいいんだよな」


「あぁ、そうだな。割と昔から」


「だったらさ、俺と花蓮って幼馴染みだったりするのか?」




 当然と言えば当然の疑問だろう。もしかしたら、俺が忘れてしまっているだけで、昔あっていてその時に結婚の約束とかしちゃってたりするのがアニメ的な展開じゃねぇか?


 そんな感じで謎の期待を膨らませながら、俺は父さんの返事を待っていた。




「いや、それは無いな」


「え?何で?」




 きっぱりと無いと答え、俺の少しばかりの希望をまるで歩いているときに気にも留めずに踏まれてしまう雑草のようにつぶした。




「何でって言うかな、俺と博自体は仲が良かったんだが、母さん同士が少々問題があってな」


「え?」




 俺は予想外の返答に面食らってしまった。が、俺はすぐに来を取り直して、流れるように見ていた母さんに、目で『何故?』と問いかけた。




「そんな目で見なくてもちゃんと話すわよ」


「あ、ごめん。癖で…」




 そうして母さんの昔話が始まった。






 時はかなり遡り、母さんたちが中学生だったころの話だ。


 母さんと和子さんが出会ったのは中学1年の秋ごろの運動会あたりの話らしい。


 母さんと和子さんは共にかなりの運動神経の持ち主だったためか、学年2大エースとして名を轟かせていた。そのため、どちらも名前だけは知っていたが、実際は1度も対面したことが無かった。母さんは女子バスケットボール部、和子さんは女子テニス部。体育館とグラウンド、内と外の違い。肌の色も白と黒…とはいかず、どちらも真っ白な天使のような存在だったらしい。(父さん曰く)


 と言うか、まさかのテニスは和子さんなのに衝撃を受けた人もいるのかもしれない。なんせ、俺は中学まではテニスをしていて少しだけうまかったので、親譲りかと思っていた人もいたかもしれないしな。でも、運動神経は両親譲りだ。




 初顔合わせの日。クラス対抗リレーの練習日。


 クラス対抗リレーは5クラスしかない中学校の運動会でも群を抜いて盛り上がる競技だった。だから、練習の方も多くの人間が真剣に取り組む競技だった。




「今日が初めての対面だな」


「そうね」




 なれなれしく話しかけたのが若いころの今となんの変化もない父さん。そして、後者の少しクールなのが若いころの母さんだ。今と違って黒色の髪をショートカットにして、運動の妨げにならないようにしていたらし。




「正直どうなんだ?どっちもアンカー前なんだろ?ようは直接対決だ」


「多分だけど、まったく変わらないと思うわ。差が縮まることも広がることもないでしょうね」


「香子にしては珍しく弱気だな」


「別に、弱気なわけではないわ。事実に目をそらさず真剣に考えた結果だもの。受け入れるしかないわ。でも、確かに勝ち気ではないわね」




 まず香子と言うのが俺の母さんの名前で、旧姓含めて高橋たかはし香子きょうこだ。


 てか、母さんのキャラが今と違い過ぎてすでにギャップで話が全然入ってこなくなってるんだが…。




「そうだよな~。最後の方になると、追い上げとかそう言うのがなくなっちゃうもんな~。面白くないけど仕方ないよな」


「そうね、私の役目はこの仕事だと思うし、別に文句はないわ。けれど、もしも欠席者が出たのなら、ぜひとも代わりに入らせてもらいたいわね」


「それなら今日1人休みだから入ったらどうだ?」


「そうね、そう言ってもらえるは嬉しいのだけど、こういった競技は、基本的に1番から順番に入っていくものよ。クラス2番の私には決める権限がないもの」


「それじゃぁ、入っていいぞ」


「あなたは入らないのね」


「俺は体力にだけは自信がないからな」


「そうね」




 そう言って、香子は代走を申請しに行った。


 ここまで聞いて、恐らく気になった方もいたと思うので、あらかじめ言っておこう。この両親ふたりは異次元な程に運動のできる夫婦だった。過去形なのは、父さんも母さんも中学を卒業してからは、スポーツとの縁を切ったからだ。


 だから、さっき出てきたクラス1番は父さんのことで、もちろんのごとく学年1位だ。と言うか、学校で見ても4位と言う好成績を1年生の間から出していた。しかし父さんの場合はしっかりと反動があり、体力がせいぜい持って300メートルと言ったところだった。




「位置について。よーい、ドン!」




 今も昔もこの掛け声は変わらないと言うことに少しだけ安心感を覚えた。


 そんなこんなで順番は進み、母さんと和子さんの番が迫ってきた。




「あなたが和子さん?」


「そうですよ~。あなたは言うまでもなく香子さんですよね~」


「そうよ。まぁ、とりあえず初顔合わせだし挨拶くらいはしようと思ってね」


「そうですね~なんだか外野ではライバルだの2大エースだの言われてますけどきにしないで楽しみましょうね~」




 なんとも対照的な2人。若干和子さんも雰囲気が違うが、大人になるとやはりみんな変わっていくものなのだろうと改めて思い知らされた感があった。




「そうね、私の場合は繋ぐだけで1位わ取れるから安心なのだけど」


「すごい信頼ですね~もしかしてお2人は付き合ってたりするんですか~」


「いいえ。ただ、小学生からの友達と言っておきましょうか。仲は悪くないと私は思っているわ」


「私から見ても仲良さそうですよ~」




 一応補足説明をしておく。父さんと母さんが出会ったのは小学校の入学式の日。同じクラスの隣の席だった子が母さんだったらしい。(父さん情報)


 そして、付き合いだしたのが中学2年の春先だったらしい。(当たり前だが父さん情報)




「そろそろね」


「そうですね~」




 そうして、位置に着いた2人にほとんど同じタイミングでバトンが回ってきた。




「お互いに」


「手加減なしの全力で」




 そうやって言い合い、同時にスタートする2人。




「「……」」




 5クラスあると言うのに、4位5位でバトンが回ってきた2クラスが、最も注目を浴びている。というか、前を走る子が全く注目を浴びていない。同じクラスの人にさえもだ。




「まさに圧巻だな~」




 2人の空気に周りが飲み込まれる中、父さんだけが余裕の表情でバトンを待っていた。




 言うまでもなく、母さんの和子さんは1位と2位になって同時のタイミングでバトンを渡した。


 そして、最後は200メートルだったのだが、アンカーの父さんが圧倒的な速さで差をつけてゴール。余裕で1位だった。




「「はぁ、はぁ、はぁ」」




 お互い息を切らし、膝に手を置きながら呼吸を整えていた。


 そして数分後、母さんの方から話を切り出した。




「やっぱり、噂通りの怪物ね。和子さん」


「怪物だなんて、大げさだよ。香子さん」


「「……」」




 しばらくまた沈黙が続くかと思いきや、ここで連続して母さんが話しかける。




「さんづけ……なしにしない?」


「え?」




 突然の母さんからの提案に、思わず驚いてしまった和子さん。




「さん付けを…無し?」


「そう。これからだって良きライバルとして競い合っていくんでしょ?だったらさん付けなんてよそよそしい言い方はやめた方がいいかとおもってね。別に、嫌なら拒否してもらっていいから」


「私からじゃなくて香子ちゃんから言ってくれるんだ。ありがとう」


「どういうことかしら?」


「だって、私はそう言うこと言いそうなタイプじゃん?でも、香子ちゃんってあんまりそう言うの好きじゃなさすなタイプだったからさ。正直関われないのかなって思ってた」


「私そんなに変なオーラ出てるかしら?」


「いつも何となく近寄りがたいオーラが出てるの。でも、それはともかく今は少し和らいでるよ。だから嬉しいかも」


「そう…かしら……まぁいいわ」






 そんな感じで初対面を終えた母さんと和子さんは、控えめに言って、超絶仲良しになったらしい。


 そんな話を聞くと、余計に母さん同士に問題があったということの意味が分からなくなっていく。




「母さんの学生の頃のことはある程度分かっけど、これじゃぁただの昔話なだけで何も解決しないんだけど…」


「それもそうか。これだけ聞くと、よい親友を手に入りれたのねと見えるだけだ」




 父さんがここで入ってきて軽く追加する。




「母さんたちが仲良すぎて、ある意味合わすことができなかったんだよ」


「ごめんそれ聞いてもさっぱり分からん」




 意味が分からない。どうしてこうも複雑なんだろうか。逆に不思議になる。




「まぁ、要するに『お互いに子供ができたら必ず結婚させましょ。ええそうねそうしましょ』と勝手に盛り上がってしまい、それが決定されついに生まれてしまったので、父さんたちで話し合って、子供たちは合わせない方向で行こうと決めたんだ」


「へぇ~それは素晴らしい考えだと思うよ。ありがとう」


「いいんだ良いんだ。子供を守るのも親の務めさ」


「それにしても、どういう意味で決めたんだ?」




 何となくは分かったが、最終的な意味はどういうものなのだろうか。




「まぁ、ようはあれだ。1度も親ぐるみで合わせないことで、そう言った幼馴染みなどの感情をなくし、完全な他人からスタートさせようと言う計画だった。あとは、2人が出会うか否かは運命次第と言った感じだったが、まさか器用にも付き合うまでの関係になるとはな。なかなか面白い結末だな」


「すげー考えてくれてたんだな。ありがとな、父さん」


「いいってことよ」




 父さんは、本当に俺のことを考えてくれていたんだと再度確認出来て、大満足だった。


 この2人の父親が慰安ければ、もしかすると俺と花蓮もりせと俺のような関係になっていたのかもしれないと思うと、父さんも有難みをとても感じた。




「さて、そろそろ本格的に来てもおかしくない時間帯になったな」


「あっ」




 俺は忘れるように仕向けられたのかもしれないが、忘れていた。


 俺はさっきまで部屋を出ようとしていたのだ。約束の場所に行くために…。




「遅刻は厳禁だぞ?」


「あぁ。分かってるよ、父さん」




 父さんは昔から遅刻が嫌いだ。本当に嫌いだ。他のことは何にも気にしないのに、遅刻だけは許せないらしい。


 人を待たせるという行為がだめだと言う。




「行ってきます!」




 俺はそう言って、勢いよく扉を開けて外に飛び出した。


 寒い空気に身震いをして、全速力で集合場所へと行く。




「お待たせ!」




 と言って目的地に着いたが、康晴の姿もりせの姿も見えない。




「まさかの1番乗りかよ……」




 時間ができたので、今日のことについて少し振り返ろう。




 まずは母さんか。母さんが和子さんととても仲が良くてその馴れ初めをきいた感じだ。もちろんあの性格には度肝を抜かれたが…。


 ちなみに今の母さんの性格にいきついたのは、和子さんとのかかわりと高校に入った時の友達の影響らしい(父さん曰く)




 そして父さんと博さんは同級生で高校の時の親友。どちらも頭が使える。そのおかげで俺は今花蓮と付き合えてる。


 数は少ないのい何でこんなに深いのだろうか……。


 衝撃が多すぎて、すべてはまだ消化しきれていない。


 でも、何だろうな、とりあえずは大丈夫そうだ。




「お待たせ~」


「待たせたな」


「あぁ。待った」




 そんなことを言いながら現れたのは言うまでもなく康晴とりせだった。




「まったく、時間厳守で行きましょうぜ?」




 俺は笑ってそう言った。

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