22話 久々の我が家で問題発生
『ピピピピッ、ピピピピッ、ピピピピッ、ピピピピッ、ピ』
ドスっと鈍い音で、殴るようにアラームを止めた俺は、休日にしてはやけに早い時間に目覚めた。理由は簡単で、出かけるからだ。
今日は半年ぶりの帰省の日だ。
「やっぱり7時起きは眠いな。あと1時間は寝ときたかったな…」
ぼさぼさの頭を掻きむしりながら、俺は洗面所に顔を洗いに行く。
今日は1月3日。康晴たちに頼んで、今日帰るということを母さんと父さんに伝えてもらっている。もちろん帰っておいでと言われた。
今年は夏休みに帰ったため、実家に帰るのは約半年ぶりと言ったところだった。
「高校生のうちは、やっぱりまだまだ1人で生活するということになりはしないものだな」
俺は、親のありがたみを少し実感したような気がした。体験できないことを早い段階で体験させてもらえることのありがたさに…。
「父さんは元気にしてますかね~。まぁ、どうせいつも通りって感じだろうけど」
母さんとは何度か学校の行事で顔を合わせていた。が、父さんとは本当に1度も顔を合わせていない。メールのやり取りはするが、電話も母さんとしかしないから声すらも聴いていない。それでも、一応彼女ができたことは報告していた。
「なんか急に恥ずかしくなってきたな……」
そんなことを口にしながら、俺はゆっくりと玄関の扉を開けた。
肌を刺すような寒さは相も変わらずと言ったところで、昨日とまったく同じような天気をしていた。雪は積もっているが、積もってどちらかと言うと、残っているに近いくらいしか積もっていなかった。
「さてと、それじゃぁ行きますか」
俺は改札を抜け、ホームに入って電車を待った。
間もなくして、電車は到着した。俺はそれに乗り、半年ぶりの実家へと期待と不安を乗せて出発した。
「同じような景色だな……」
実家の最寄り駅に到着したので、俺は改札を出て辺りを見渡していた。しかし、俺の家の最寄り駅と何1つ変わらなかった。
一面に広がる雪。もちろん薄っぺらい紙みたいな雪が広がっているのだが…。肌を刺すような寒さ。そして、お正月感あふれる駅前…。
「正月って言うのを改めて思い知らされたような気がしてきたな…」
俺は、これぞお正月と言うような雰囲気にのまれないように、すたすたと歩いて実家に向かった。
「ただいま~」
俺は9時頃に行くと言っていたので、玄関のカギは開けられていた。こういう優しくて細かな気遣いのできる人間になりたいなと思える。
「お帰り、匠ちゃん」
「ただいま。母さん」
「体育祭の時は大変だったね。大丈夫みたいで良かったけど」
「まーな。大変と言われれば大変だったな。打ち上げとか行けなかったし。それよりも……」
俺がそう口にした瞬間だった。待ってましたと言わんばかりのスピードで、例の人が現れた。
「たくみーーーーーーーーーーー。お帰りーーーーーー」
「た、ただいま。父さん……」
例の人と言うのは父さんのことで、これまた俺のことを溺愛しているっぽい。そんな感じだ。何だろう。若干キャラがかぶってるような…。
「たくみが帰ってくるとりせちゃんから聞いて飛び跳ねたぞ!」
「それは悪かったな。頻繁に帰ってこようとは思ってるんだけどな、ちょっと最近忙しくなっちまってな」
「彼女ができたんだから仕方ないさ。それは男として1歩前進じゃないか。良かったな」
「あ、ありがとう。父さん」
喜んでくれるとは思っていたけど、いざ面と向かってそう言ってもらえると、何だか照れ臭いな…。
「それはいいんだがな。別にたくみがここから通学しても問題は無いんだぞ?」
「まぁ、なんだかんだ言ってあのマンション立地いいからな…。とりあえず高校卒業するまではあそこで暮らすよ」
「そうか。父さんは寂しいが、たくみが決めたことなら文句は言わん。高校生活を楽しめよ!」
「ありがと、父さん」
父親の温かさ、頼もしさってところかな。こうやって両親からたくさんの愛をもらって育ったから、俺は曲がった人間にならなかったのかもな。いや、そもそも曲がった人間じゃないかどうかは微妙なラインだけどな…ハハハ。
「今日はお昼からは東川さんと上村さんのご家族で家に集まって団らんするんだが、子どもたちはどこか出かけるか?大人の話なんて聞いてても面白くないだろ?」
「そうかもな。んじゃ、お言葉に甘えて出かけさせてもらうよ」
「うん。そうするといいよ」
多分だけど、子どもたちがいると愚痴の1つもこぼせないだろうし、ここはそう言う理由も全部くみとってあげないとな。普段お世話になってるわけだし……。
「父さんたちって本当に仲いいよな」
「そうか?いや、そうかもしれんな。もしかするとたくみ達よりも仲がいいかもな」
「うーん…。同じくらいじゃないか?」
「まぁ、そう言うことにしとこうか」
それでも確かに父さんたちは仲がいいので、俺たちと同等レベルでは仲がいい。特にオヤジ3人集だ。よく飲みに行くとも聞いているしな。いつも、後1人入れて同じ4人で行っているらしいので、よっぽどなのが分かる。
「たしか、俺が小学4年の時にりせと康晴と一緒に海水浴に一週間くらい行ったこともあったな」
「そうだったな。それも父さんたちが行こうって話になったから行ったんだぞ?」
「そうだったのか。それはありがたいや。記憶があいまいなんだけど、結構楽しかったってことは覚えてるし」
「父さんたちは本当に仲がいいんだからな。ハハハ」
確かにそうだな。俺たちそう言えばまだ1回も海行ったことないな。来年行けるといいんだけど、受験生だからな……。みんなが予定合う日なんてあるかどうか分からないしな…。
まぁ、行けたらってことでいいな。
「ところで父さん。康晴とりせの家族と集まるんだったら、どっかに食べに行くのか?晩御飯」
「そうだな。そのつもりだ」
「そっか」
「安心しろよ。たくみ。その時はもちろんお前たちもつれていくから」
「あぁ。そうだったのか。てっきり連れて行ってくれないのかと思ってた」
「連れていくさ。久々の息子との晩飯をないがしろにするわけがないだろう?」
「ハハッ。ましてや俺の父さんだもんな。それは無いか」
「そうだな。ハハハ」
俺の父さんは俺のことがすごく好きだからな。わざわざ今日に限って置いていくなんてことは無いか。
しかし、今は9時30分。昼飯を食べた後はこっちにご両親たちが来る。てことは、後少ししかないのか。父さんと母さんといられるのは。
「なぁ、父さん」
「なんだ?たくみ」
「たいした話じゃないんだけどさ…いや、俺からしたらたいした話で…でも父さんからしたらたいした話じゃないんだけどさ」
「なんだ?そんな回りくどい言い方して」
「えーっと……」
俺は、少し聞きづらいと思ったから、素直に聞けなかった。が、ここは男として堂々と聞かないと、父さんも悲しんじゃうよな。
「あのさ、別に参考程度にしようと思ってるだけだから、そんなに悩まなくてもいいんだけどさ、彼女に送る誕生日プレゼントってどんなのがいいのかな?」
俺は恥ずかしがりながらもしっかりと伝えた。父さんはと言うと、何だそんなことかと言わんばかりの表情をしていた。
「それなら、俺に聞いちゃダメだろ?」
「えっと……」
「他にもっと聞くべき相手がいるだろ?」
「と、言いますと…?」
まさか、花蓮に直接聞けと言うことなのだろうか…。それなら結構酷なことを言ってくるな…。花蓮に聞いちゃ、あんまり意味無いと思うんだけどな……。女子ってこう、なんかサプライズ的なものが好きみたいだし…。
俺の勝手なイメージだけどね。
「…母さんだよ」
「あー。そう言う感じね」
すっかり忘れていた。母さんと言う存在を。
女性へのプレゼントは、女性に聞くのが一番と言うことか。
「てことで、母さんよろしく頼む」
「そうよね。匠ちゃんのためだからお母さん頑張りたいんだけどね、生憎最近の女の子の趣味とか分からないのよ。それに、匠ちゃんの彼女の趣味とかもよく分からないしね」
「そうだよな…。参考程度にとも思ったんだけど、やっぱり厳しいか……」
りせに聞こうかなとも思ったけど、やっぱりそれは厳しいんだよな…。1度フラれて1度フってるからな……。そう言った類の関係する話はまだ控えた方がいいしな……。
どうしたものかね~。
「たくみ、前は誰かそう言うことに詳しそうな女友達はいないのか?」
「うーーん。いたら苦労しないんだけどな…」
りせはダメ、花蓮もダメ。それじゃぁ、後は誰が行けそうだ?
花。花は…確か実家に帰るって言ってたよな、明日から。
ルン。ルンは言わずもがな受験勉強か。
あとは…そうだ。一番の有力候補、陽菜!花蓮とは親友で、確か告白を促したのも陽菜だったはずだ。あいつが居れば余裕だな!
「明日って、空いてる?」
何気に初めてメッセージ送るかも。てか、既読はや。もうついてるやん。
「今日からハワイで家族旅行ナウ」
マジすか~。旅行って。しかもハワイって。そして丁寧に写真まで。普通に顔よしスタイル良しだし水着が似合ってますし。
って、ダメだダメだ。俺には花蓮がいるんだ。他の女性にに目移りなんて許されないんだからな!
「そう言うことなら仕方ねぇな。ありがとな。ハワイ楽しめよ!」
「ありがと。お土産は買ってあげるから」
「ありがとさん」
丁寧に教えてくれなくてもいいのにな。てか、相変わらず既読は早すぎ。驚きすぎて目が点になってしまいそうだ。いや、女子ってこれが普通なのか?あんまりしないからよく分からん。
「いないのか?」
「……うん。残念ながら行けそうな人がいない」
「それはそれは大変だぞ?たくみ。もう自分で決めたらいいんじゃないか?」
「そうだよな…。それしかないよな」
最後の希望だった陽菜が無理だったから、もう諦めるしかないか。
そう思って連絡先をあさっていると、ある1人の名前が目に止まった。
あれ?こいつ行けるかも?
━━なぁ、明日って空いてるか?
俺はそう送った。返事はYESだった。
よし。これでそっち面の心配はなくなった。
「父さん」
「どうしたんだ?たくみ」
「一緒に選んでくれる人見つかった」
「そうかそうか。それは良かったな」
「そうだな。思ってたよりも俺も友達が多いみたいだ」
「まぁ、俺の息子だからな。当たり前だ」
「ハハハ」
俺と父さんはそんな感じのたわいもない話を1時間程した。
「もうこんな時間か」
父さんにそう言われて、俺は時計を見た。そろそろ11時超えたあたりか…。
俺は再び携帯をとれ出して、康晴とりせにメールを送った。
━━今日どこ行く?
久々だしこっちの方の思い出の場所でも行くか?
いや、カラオケだよな。それ
正解正解ご名答!
私もそれで賛成
なら決まりだな
そうだな
メールと言うか、グループチャットに近いものだ。
この後の予定をさっと決めた俺は、母さんが準備してくれた昼食に目をやった。
「今日もおせちが食えるのか。ありがたいな、お正月って」
「匠ちゃんが帰ってくる日に合わせて作ったのよ」
「え?元旦の日に俺が康晴たちに頼んで伝えてもらったじゃん!てか、俺もその日に連絡入れてけど」
「今年匠ちゃんが帰って来なかったらおせちは無しに予定だったからね」
「そうなのか、なんか悪いな母さん」
「いいのよ別に、帰ってきてくれたから嬉しいしね」
「母さん…」
これからはもうちょっと頻繁に帰ってくるようにしたいな。と思った。でも、なんだかんだ俺も忙しくなっちまったからな…。どうしようもないと言えばどうしようもないんだけど、そこをうまく調整してこそ俺だしな!
なんかよく分からんが、とりあえずもうちょっと頻繁に顔を見せに行こう。
「おいしかったよ。母さん」
俺たちは3人仲良く食卓を囲んで昼食をとった。
案の定、母さんのおせちは別格だった。もちろん昨日食べた花蓮の所のおせちもおいしかったけど。
そうこうしているうちに、もうすぐ待ち合わせの時間になろうとしていた。
「もうすぐ待ち合わせの時間だ」
「そうか。もうそんな時間か…。たくみといる時間はとっても早いな」
「そう感じるだけだろ?」
「まぁ、最も母さんといる時間も早いんだがな」
「おしどり夫婦だな」
「まぁ、相思相愛なのは間違いないだろうな」
「かもしれんな」
なんだかんだ言って、父さんと母さんは仲がいいので、ある意味そう言う家庭を築きたいなと思えるいい見本になってくれている。おかげで俺は幸せに育ってきたしな。あんなに可愛い彼女もいるし。
そんなことを考えつつ、行く準備を終えて、扉を開こうとしたときだった。
「そう言えばたくみ。お前の彼女って博ん所の娘さんなんだろ」
「うんそうだよ……………って、今なんて言った?」
「だから、たくみの彼女さんは博ん所の娘さんなんだろ?って言ったんだよ。聞こえただろ?」
「マジですか」
俺はそう呟くのが精一杯だった。
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