15話 後輩との相談で問題発生

 最近、俺は悩みを抱えている。


 どうも1人じゃ決められそうにない。




「はぁ。何にも思いつかない」




 今日は12月20日月曜日


 クリスマスデートを週末に控えているにも関わらず、いまだにプレゼントを何にするか決めかねていた。


 「何か欲しいものあるか?」なんて聞いてしまったらサプライズ要素がなくなってしまうので、自分で決めなくてはならない。




「どうしたの?早野くん」


「いや、たいしたことじゃないけど……」




 俺が悩んでいると、花が心配そうに話しかけてくれた。




「もしかして、何か悩み事?」


「まぁ、そんなところかな」


「だったら、いつでも相談に乗るよ」


「ありがとな」


「うん」




 花はそう言って自分の席に戻っていった。


 そうだな……花蓮じゃない誰かに相談するのはありだな。






 そして、放課後。多目的室にて。




「今日は何するん?」


「そうだな……。もうすぐ2学期も終わるし、今後の方針とか話していこうか」


「「「了解」」」




 俺の提案に3人が納得してくれた。


 俺は、話を進める傍ら、ある人物に連絡を取っていた。




━━今日の部活の後会えるか?


 ちょっと相談したいことがある。




 そんなメッセージを送り、その2分後。




━━了解しました。


 部活動が終わったら学校の近くのカフェで待ってます。


 ついでの私の愚痴も聞いてもらってもいいですか?




━━了解。


それくらいはするよ。


ありがとう。




俺はそう返して顔を上げた。




「悪い花蓮。実は今日、ちょっと用事があってさ。今日は一緒に帰れないは」


「そっか、うん。分かった。じゃぁ今日は1人で帰るね」


「あぁ。悪いな」


「いいよいいよ。私もこの前用事で帰っちゃったし」


「ありがとな」


「うん」




 なんて可愛い笑顔を見せてくれるのだろうか。この笑顔は数多くの男が恋に落ちてしまうことも無理はない。


 でも、絶対に渡さない。




「それでー。これからの方針はどうするん?」


「そうだな……まずは人数、とかかな」


「そうだよね。いい加減、部にしてもいいよね」


「あぁ。そうすれば、いくらかは部費を当ててくれるから、もっと楽な部活動になるしな」


「でも、変なやつが入ってくるのも嫌でしょ?」


「あぁ。変な男でも入ってきたらもう部活動は成り立たん」


「でしょ」




 陽菜の問いに、俺は即答する。




「後は……変な女でもかもね」


「「うん!」」




 今度は花と花蓮が即答する。


 え、この2人ってこんなキャラだっけ?




「じゃぁやっぱり勧誘かな?」


「そうだな…」


「それが1番だよね」


「それしかないよね~」


「まぁ、別に急がなくてもいいんじゃないか?」


「それもそうだね」


「確かに。部費が出だすのは3月とかからだもんね」


「だから2月ごろまでに部になってればいいわけだしね」


「まぁ、康晴が入ってくれると1番ありがたいんだけどな」


「でも、上村は上村の部活があるわけだしね」


「だよな……」




 分かっていたが、やっぱり男1人と言うのは辛いものがある。


 まぁ、この空間は好きだし、別に迷惑なんてしていない。でも、外では別だ。すごい妬みの声が聞こえてくる。分からなくもないから、簡単に否定もできない。




「それじゃぁ、来年は新入生募集するの?」


「うーーーん。俺的には今はまだ決断できないかな」


「そっか。じゃ、別に今すぐじゃなくてもいいっしょ」


「そうだな。考えとく」




 こんな感じで話し合いは進んでいった。


 結論から言うと、キッチリと話し合いは終わった。しかし、円滑に進んだかは別だ。


 とりあえず、これからは個人的な勧誘でのみの入部以外は断ることになった。




「それじゃぁ、そろそろお開きにするか」


「そうだね」


「それじゃ、解散!」


「「「はーい」」」


「匠君、一緒に……って、今日は何か用事があるんだったね。ごめんね、ついいつもの癖で」


「別にいいよ」




 可愛らしく手を体の前でフルフル振りながら花蓮が言った。


 この女の子が俺の彼女なって、この世界は狂っている気がする。いや、狂っている。




「それじゃぁまた明日な」


「うん。また明日」


「また明日ね」


「また明日~」




 そう言って、俺は駅と反対の方向に向かって歩いて行った。






「ちょっと早かったかな?」




 俺は部活が早めに終わった。サッカー部はまだ終わっていないだろうから、『先に席に座っている』とだけ連絡して、店に入った。




「ご注文はどうなさいますか?」


「スペシャルブレンドでお願いします」


「かしこまりました。お砂糖とミルクはどうなさいますか?」


「両方ともお願いします」


「かしこまりました。ごゆっくりお過ごしください」




 決まり文句を言い、店員は去っていく。


 普通に考えて、ごゆっくりされたら困るだろう。いい迷惑でしかないはずだ。




「暇だな」




 さすがに1人は暇だ。


 あと10分もすれば森橋も到着するだろう。


 このカフェは、チェーン店とかではないため、知る人ぞ知るみたいな感じだ。アニメに出てくるような雰囲気が、俺はたまらなく好きだった。1年の夏休みに、たまたま見つけたのだが、今度はそこに行こうとこの前誘っていたので、今回ここで集合することになった。




「お待たせしました先輩」


「おう」




 ちょうど回想が終了したところで森橋が来た。




「先輩聞いてくださいよ~」




 ついていきなりさっそく愚痴を言いたくて仕方がないと言った感じで話してくる。こいつは今回の俺の要件を覚えてくれているのだろうか…。




「なんだ?」


「マネージャーやめたくなりました」


「じゃぁやめればいいだろ」


「え……そんなにあっさりですか?」


「やめたければやめればいいだろ」


「そうですけど……」




 納得がいかないと言った顔をしている。どこに不満があったのかはさっぱり分からない。




「今までどんな運動部に勧誘されても断り続けてきた私がついにマネージャーをやめるんですよ?」


「別に運動部に入るとも言ってないだろ」


「ムムム。鋭いですね、先輩。さすが学年上位の成績ってだけありますね」


「関係ねぇけどありがとう」


「いえいえ」


「で、疲れたからやめるのか?」


「そうですね、1番の理由はそれですね」


「それ以外にもあるのか?」


「はい」




 そう言って、森橋がこちらを見つめてくる。




「先輩の部活に入りたいです」


「へ?」




 思いもよらないことを言ったので、思わず変な声が出た。




「本気か?」


「半分は」


「そうか」




 半分は冗談と言うことだな。




「それで、何でまた急にやめたくなったんだ?」


「それなんですけどね、サッカー部の先輩とか同級生とかに告白されっぱなしで、最近女子から疎まれるようになったんですよ」


「それは……変に少しだけ気持ちが分かるかも」


「え?先輩もモテるんですか?意外です」


「だろうな」


「はい。クラスでも1人でいるボッチ系陰キャだと思ってました」


「辛辣だな」


「思ったことを言っただけです」




 毎回思うけど、俺の第一印象陰キャって思ってる人多くないか?そんなオーラ出てるのかな?不安になるな…。




「まぁいいや。要するに、無駄に目立つしモテるのが嫌だからやめたいと」


「そんな感じですね」


「いいんじゃないか?別にやめても」


「ですよね……」


「どうしたんだ?」


「……実は、少しめんどくさいことになってるんですよ」


「めんどくさいこと?」




 めんどくさいこととは何だろうか。何か手遅れになっているのだろうか。




「はい。今抜けると変な噂を流されるかもしれないんですよ」


「変な噂?」


「はい。早野先輩と付き合ってるって噂を流されるみたいなんですよ」


「そうなのか…………って、え?」


「ですよね。どうしてまた早野先輩なのかと思ってたんですけど、どうやら先日の件を目撃した人がいたみたいなんですよ。それが同じサッカー部のマネージャーの1年だったんですよ」


「なるほどな。それは面倒だな」


「ですよね」




 まいったな。あの変なところを見られたのか。これをばらされるのは非常にまずいな……。




「分かった。何とか手を回せるようにする」


「何か策でもあるんですか?」


「ある人と相談しないいけないが、あるにはある」


「分かりました。それじゃぁお願いします」


「あぁ」




 この策はあんまり得策とも言いにくいんだがな……。




「では、先輩の相談をお聞きしましょうか」


「覚えてたんだな」


「当たり前じゃないですか」


「なら何でそんなにはじめから自分の相談を飛ばしてきたんだ?」


「だって、先輩の相談が重かったら私の相談とかできなので」


「俺のよりも森橋の相談の方が重い」


「え、そうなんですか」


「うん」


「なんかすみません」


「別にいいけど」




 たしかに俺の相談は重くないけど、森橋の相談も別に重くはなかったし。




「あの、先輩」


「ん?なんだ?」


「森橋って呼ぶの、やめてください」


「は?」


「夢叶って呼んでください」


「はぁ…」




 何を言うかと思えば、名前で呼べと言うことらしい。別にいいのだが……。




「何でだ?」


「だって、相談し合う仲になるんですよ?名字で呼び合うのとかちょっと抵抗ありますし」


「なるほど。分かった。えーと…夢叶」


「はい。匠先輩」




 あ、なんかこれ良い。匠先輩って響きがいい。




「それで、相談って何なんですか?」


「女の子にあげるプレゼントって何がいいと思う?」


「なんですか?私のこと狙ってるんですか?」


「ない」


「そこまで即答しなくても良いと思うんですけどね」


「そうかもな」


「それで、具体的になんですか?この時期ですし、クリスマスですか?」


「あぁ。そうだな」




 さすがはモテる女子。すぐに分かってしまうのだ。




「そうですね……何がいいでしょうか」


「まったくいい案が思いつかなくてな」


「私もあんまり詳しくないんですよね」


「そうなのか?」




 森橋……じゃなくて夢叶が意外なことを言った。夢叶ほどモテている人間だから、貰ったプレゼントも数えきれないほどかと思っていた。


 いや、花がいるからか。花のモテは学校全体だったな。そう言えば。




「誕生日プレゼントは、友達とかからもたくさん貰ったことがあるんですけどね……」


「それでもすごいな」


「それはさすがにちょっと異常だって自覚あります」


「そうか。安心したは」


「はい」




 気づいていないふりをしないあたり、そこそこ信頼してくれているのかな?




「それで、結局どうすればいいと思う?」


「そうですね……私なら、って言うか、女子の一般的な考えでいいですか?」


「参考にはさせてもらう」


「それなら…キラキラした物。とかですかね」


「キラキラ?」


「はい。例えばアクセサリーとか」


「なるほど。確かに女子はキラキラした宝石とかも好きだもんな」


「そうですね」


「だからお金が好きだって言うことも聞いたな」


「それも一般論なら当てはまりますね」


「まぁ、そうだな」




 花蓮に限って金目当てだとは思わない。ましてや俺なんか金がなさそうで仕方がないだろう。オタクはお金がいくらあっても足りないからな。




「アクセサリーか…」


「どうしたんですか?」


「アクセサリーはありかも」


「お。気に入った感じですか?」


「うーーん。いいんだけど…」


「どうしたんですか?」




 俺が深く考え込んだので、おかしく思ったのだろう。




「全然知らないんだよな。アクセサリーに関して」


「あーー。ポイですね。先輩そう言う知識皆無みたいな雰囲気出てます」


「まじで?てかどんな雰囲気だよ」


「難しいですね」


「まぁいいや」




 知識が無いと、よく分からないものを送ってしまう恐れがある。そんなことだけは避けたい。何としても成功させたい。




「あ、そうだ。先輩」


「ん?なんだ?」




 夢叶が何かを思いついたような表情をした。




「終業式の日って空いてますか?」


「まぁ、特に予定はないな。一応早く寝ようとは思ってる」


「それは大事ですね。まぁでもそれならちょうどよかったです」


「ちょうどいい?」


「はい」




 夢叶は、悪戯に笑ってこう言った。




「先輩。私とデートしませんか?」




「お、おう」




 こんな後輩にドキッとしてしまったのは、言うまでもないだろう。




「それじゃぁ、24日に駅前でいいですか?」


「学校の最寄り駅か?」


「はい。そこまでなら定期券を買ってますよね?」


「あぁ」


「じゃぁ、それでいきましょう」


「いいのか?」


「何がですか?」


「クリスマスイヴだぞ?友達とどっかに出かけたりしないのか?」


「はい。まだ予定はありませんし大丈夫です」


「そうか。それならいいんだけど……」




 普通は俺なんかよりも、友達と出かける方が楽しいと思うんだけどな。




「それじゃぁ先輩。また金曜日に」


「おう」




 俺たちは頼んだコーヒーを飲み切り、店を出た。そして、駅で電車に乗り、俺が先に降りた。






「クリスマスデート前に、クリスマスイヴデートを彼女じゃない人と、しかも後輩とかますますラブコメの主人公みたいな感じだな」




 後輩とのデートに、少し浮かれそうになっていた。




「いや。違う。これはプレゼントを選ぶために行くだけだ。そう言う男女の関係ではない」




 俺はそう言い聞かせて、改札を出た。




 もちろん、後輩とのデートがドキドキしないわけがないのだが、今はまだ思ってもいない。

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