14話 イケメンの昔話で問題発生

「久しぶりだね。匠君」


「……」




 俺は校門の前で待っていたイケメンを無視して通りすぎようとした。




「ひどいじゃないか。無視をするなんて」


「なんだよ」




 俺はさすがに二度は無視できないので、嫌な顔をしながら返事をした。




「うーーん。今日は約束を果たしに来たって感じかな」


「ん?約束?」




 何のことだ?まったく心当たりがないな…。




「体育際での約束だよ」


「あぁ~」




 確かにしていた。


 体育祭のクラス対抗リレーで、勝った方が何かをさせることができるというかけだ。


 俺が勝ったら町田と花の秘密を教えてもらい、町田が勝ったら俺と花がデートに行くという内容だった。


 どう考えても俺に損がない条件だったため、どうしてそこまでは花に執着するのかが気になっていた。そして、花と付き合いたいとかそう言った感情でもないところもとても気になっていた。




「で、何でまた忘れたころに来たんだよ」




 なんて言ったって今日は12月1日水曜日。天気は快晴。最低気温は一桁代と言った、冬が始まりだしたような季節だ。


 体育際があったのは、今から約2か月前の10月のことだ。あの頃はまだ夏の暑さが残っていた。




「本当は当日の放課後にでも言おうと思っていたんだけどね。匠君が倒れちゃったから、やめておくことにしたんだよ」


「はぁ。それはすまなかったな」


「いや、べつにいいんだよ」


「でも、何でまた今なんだ?べつにもっと早くても良かっただろ?」


「うん。そうなんだけどね……」




 町田の言葉が詰まる。




「どうしたんだ?」


「僕もやっぱり過去には抵抗があってね。やっぱり、忘れているならそのままにしておこうとかも考えちゃってね」


「まぁ。その気持ちは分からなくもないけど」




 過去は俺もあまり好きではない。あの時あぁすればよかったとか思ってしまうからだ。




「だけど、やっぱり匠君も同じで、同意した上で勝負したんだから、逃げるなんてことは絶対にしてはいけないと思ってね」


「……そうか」




 俺は少しだけ感心した。こういうとことはさすがスポーツマンと言ったところだろう。




「じゃ、約束通り聞かせてくれよ。お前と花の関係を聞かせてくれ」


「そうだね。それじゃぁ少し長くなると思うから、マ〇クにでも行って、座りながら話そうか」


「あぁ。そうだな」




 俺はそう言うと、目的地に向かって歩き出した・






「それじゃぁまずは、僕の昔話からするよ」


「あぁ」




「僕が小学校2年生の時かな?いじめとかそう言うのは受けてなかったんだけど、クラスでは常に1人で、ボッチって言うやつだったんだ」


「意外だな。今のお前からは想像できないな」


「そうかもね。今はいろんな人が僕と関わってくれているからね」




 町田は、自慢げにではなく、ありがたいと言った様子でそう言った。




「僕は基本的に1人でいた。よく本を読んだりしていたのは、たぶん本を読む大人がかっこよくて、憧れていたからだったと思う」


「それはなんか共感できるかも」


「体育のペアを組む授業では、いっつも僕だけが余って先生と組んでいたんだ」


「すげー。アニメのボッチ系キャラのあるあるだな」


「そうかもね。僕もそのころは友達が欲しいと思ったことが無かったと言えば嘘になるけど、正直友達がいない自分のことを、孤高でかっこいいと思っていたんだ」


「それは……なんて言うか、幼いうちにしてすごく痛い考えだな」


「僕も今ではそう思うよ」




 どうやら、町田が思い出したくなかった理由は、この痛い考えが原因だったのかもしれないな。




「僕はいつも1人だったから、友達と遊ぶということを知らなかったし、外で遊ぶなんて絶対にしなかった。まぁ、家の中でできるからと言う理由で、勉強だけはずっとしていたんだけどね」


「それはそれで逆に偉いな」




 俺が引きこもりだったら、間違いなく勉強なんてせずに、アニメだけを見続けていただろう。




「僕の考え方が変わり始めたのは、3年生に上がったころからだった。友達が欲しいと思うようになったんだ」


「それでこそ普通の小学生だろ。まぁ俺は女子からはあんまり好かれてなったから、女の友達なんていらないとか言ってたから気持ちは分かるけどな」




 俺も恥ずかしい記憶を思い出した。




「僕は、友達が欲しかった。だけど、この2年間でついたイメージは、思っていたよりも、とても酷かったみたいだった。陰キャ、根暗、変人、本オタク、悪い印象ばっかりだった」


「まぁ確かに初めの印象ってあんまり変わらないもんだもんな」


「うん。だから、だらも話掛けてなんてくれないから、いつも通り本を読んで暇をつぶすだけの日々。ちょっと勇気を振り絞って話しかけに行っても、何だこいつみたいな目で見られて終わるだけ。そんな感じで上手くいっているというには全く程遠い結果になってたんだ」


「なるほどな。それは確かに辛いな」




 話しかけても驚かれるだけ。そんなのには俺は到底耐えることができそうにない。




「僕は徐々に諦めを感じていたんだ。もう僕には一生友達ができることなんてなくれ、生涯孤独に生きないといけないんだって」


「それは大げさだな」




 べつに、まだ第一印象のついていないこれから会う未来の人間と上手くやっていけばいいだけの話なのに…。




「そうかもしれないね。でも、当時の僕にはそう感じる以外になかったんだ。誰も相手にしてくれない。誰も近づいてきてくれない。自分は1人輪から取りこぼされてしまったんだってね」


「……」




 俺は何も返すことができなかった。


 小学3年生にして、ここまでの深い悩みをしていたなんて、少しかわいそうだなと思ってしまったからだ。




「でも、4年生に上がった時。そんな僕にも救世主が現れたんだ」


「救世主か…」


「そう。転校初日に真っ先に僕に話かけてきてくれたその人こそが、今や学校1の美女とまで言われるようにもなった伊藤花だったんだ」


「なるほど…」


「花は、転校初日に話かけてくれてから、毎日のように僕に話かけてくれた。1人だけ違う世界にいると分かったから、僕を早く輪に入れさせてくれるために、毎日のように関わりに来てくれた。僕も、そのかいあって、2学期ごろにはたくさんの友達と休み時間や放課後に遊ぶようになり、次第にクラスの中心的存在である学級委員などの役割をするようにもなったんだよ」


「へー。それは確かに救世主だな」


「そうなんだ。僕のことを助けてくれた花の存在はとても大きかったね。少しだけ運動ができたことで、クラスでも話の中心にいることができたのかもしれないね。」


「まぁ。小学生は、運動できるやつが人気者だからな」


「そうかもね。中学校に上がると、今までやってきていた勉強も役にたったね。点数が取れるから、いろんな人に勉強の仕方や分からない問題を聞かれるようになったから、さらに多くの人と関われるようになっていったからね」


「それは少し違うんじゃないか?」


「ん?どういう意味かな?」


「自分で言うのもなんだけど、俺も学校ではトップレベルで勉強ができてたんだよ。でも、俺が勉強を教えたのは幼馴染みのりせと康晴だけだった。やっぱり、人を引き寄せるイメージが、どこか固まっていたんじゃないか?」




 俺は悲しいことを堂々とした口調で言って、悲しさを紛らわせながら言った。




「そ、そうだったんだね。それ以外にも、僕は初めて告白と言う物を中学生になって受けた。僕はよくわからなかったから、ごめんなさいとしか言えなかった。でも、それは少し心が痛んじゃうんだよ」


「………それはよく分かる」




 俺はふとりせのことを思い出した。あの時の関係は、ずっと心を苦しめ続けた。


 俺は経った1回の経験だ。それを何回も何回も受け続けているのだ、恐らく痛さの次元が違うだろう。




「だけど、それはどうすることもできなかった。その時初めて気づいたんだ。友達ができても、友達が居なくても、僕は痛みを受けてしまうということに」


「なるほどな」




 これを自慢げに言われると腹がたつのだが、町田は全くそんな気持ちは無かった。だから、俺は安心して聞くことができた。




「気づいたのは良かったんだけど、結局肝心の解決策は出ないまま、今に至るんだけど……。少し話がそれたね。まぁ要するに、僕は昔ボッチで、それから抜け出したいと思った頃には手遅れになってしまっていた。だから、諦めかけていたその時に、俺の前に現れた救世主こそが花だったっていうことだね」


「あぁ。なるほどな。少しずつ理解できてきた」




 町田が、好意が無いのに何故そこまで花に執着するのか。それは、花のことを尊敬しているから。花が自分の中でヒーローだったからだ。


 町田は助けられた花に、少しでも恩返しがしたいと思っていたのだろう。だから、花のことにだけ熱心になっていたってわけか。


 そう考えるとよく理解でき、納得がいった。




「でも、よくそんなヒーローに恋しなかったな。勉強もできて、運動もできる。おまけに美人でスタイル抜群ときた。何で好きにならないんだ?」


「なにを言ってるんだい?匠君」




 町田は意味が分からないといった顔で言ってきた。少し腹がたつ顔だ。






「好きに決まってるじゃないか」






「は?」




 俺は思わず間抜けな声をだしてしまった。




「好きなのか?花のことが」


「あぁ。もちろん。恋愛対象として好きだよ」


「………。なら、何で俺と花をくっつけようとさせるんだ?」




 まったく意味が分からない。好きなのに、その好きな相手を自分以外とくっつけようとする。その心理がまるで理解できない。




「そうだね。単純な話で言うと……。その方が花にとって幸せだから。かな」


「うん。まったく意味が分からない。正直余計に頭が混乱した」




 その方が花にとって幸せ?本当に意味が分からない。むしろ放っておいてもらうのが1番幸せだろうということは今は置いておくとして、俺とくっつけようとすることは花にとっていいことではないはずだ。何せ、今の俺には花蓮と言う彼女がいるのだ。確かに少しは揺れ動きそうになったこともあるが、それでも何とか踏みとどまっている。




「花が俺とくっつけられるのを望んでるみたいな言い方だぞ。それ」




 俺は結論として、言い方を間違えているんだと考察した。




「うーん…。匠君は、どうやら本当にまだ気づいていないんだね」


「何がだ?」




 少し含みのある言い方で言う町田に違和感をおぼいた。




「うん。これは僕の口から言っていいものじゃないんだ。だから、言えないんだ」


「……まぁ、事情があるなら仕方ねぇな」




 言いたくないことを無理やり言わせるのはあまり褒められたことじゃないからな。




「でもまぁ、とりあえずお前の過去と花との関係は理解したから、一応これで約束は官僚だな」


「そうだね」


「じゃぁそろそろ帰ろうぜ」


「そうだね。そろそろ帰ろうか」




 俺たちはそろって店を出た。






 駅に向かって歩いて行った俺たちは、改札の前で立ち止まった。




「……そうだ匠君。僕はっもう1つ君に言わなくてはいけないことがあったよ」


「なんだよ」




 どうせまた何かのあ勝負をしょう、だろう。内容次第で断るか承諾するかを決めよう。




「僕は、君と花の話をするときだけ悪党を演じていたんだ」


「はぁ」




 思いもよらないことで、俺はびっくりした。




「できるだけ嫌なやつのように見えるようにしていたんだ。そうすることで、少しでも挑戦を受けてもらいやすくなればと思っていたんだ」


「まぁ。何となくそんな可能性も考えたりはしてたけど…。たしかに今日は全くあのキャラにならなかったもんな」


「そうだね……。基本的にあのキャラは僕には向いていなかったんだ」


「確かにな。まったくと言っていいほどにあってなかったな」


「そうだよね。僕の中では満点の演技だったんだけどな」


「はじめのうちは、なかなかに俺も騙されてたけどな。回数が増えていくたびに、お前の素の部分がさらけ出されてたからな」


「やっぱりそうだったんだ……。もっと勉強しないとね」


「そうだな」




 俺たちは少し心の距離が近くなったような気がした。






 電車に乗り家に帰った俺は、今日の出来事を思い出していた。




「町田の花への執着の理由が分かったことは、正直大きな収穫だったな」




 今までまったく訳の分からないまま勝負を挑まれては花とデートしろと言われていた。


 まぁたぶん、花と仲のいい男子が俺くらいだったから、デートの相手にはぴったりだと思ったのだろう。




「たしか中間テストの時は、勝負関係なしに、花の方からの申し出でデートに行ったっけ?」




 たしかあの時は修学旅行の準備のために行ったんだった。とても懐かしい。


 俺は、思い出しながらベッドに寝転がった。




「それにしても、町田の話と似たようなことがあったような……」




 俺は頭を回転させた。




「いや、そんなわけないか」




 俺はそう割り切って、今日は寝ることにした。






 本当に存在していたことを知らないまま……。

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