13話 下校中に問題発生
「おはよう」
「あぁ、おはよう」
「今日も寒いね」
「そうだな、確かに寒い」
吹き付ける風が冷たくなってきて、唯一肌が露出している顔がとてもひりひりするような季節になってきた。それもそのはず、11月ももう終わろうとしているのだから。
「時間って、過ぎるの早いよな」
「そうだね。ついこないだ11月になったの思ったのにね」
「もうあと少しで12月だもんな」
「そうだね~」
「期末も終わったし、ゆっくりできるからな」
「部活も順調だしね」
「そうだな。花蓮のセンスが良かったんだと思うぞ?」
「ほ、ほんとに?そうかな…?嬉しいな……」
これはお世辞ではなく本当に良かったと思う。
学部。これは、勉強に限らず、様々なジャンルを活動としてすることができる。まぁ、言い方を変えれば何でも部みたいなものだ。陽菜の言っていたまったり部のようなことにもなっている。夢について学ぶという目的で、だらだらと眠ることができている。
良いのか悪いのかは賛否両論だと思うが、間違いなく羨ましがられる部活だろう。それもあって、うちの部活は入部希望者が後を絶たない。
「そう言えばさ、うちの部活人気らしいね」
「そうだな。確かにあの内容なら入りたいやつが多いだろうしな」
「そうだよね、確かに部活という名の帰宅部だもんね」
「そうだな。まぁでも、一番の理由は女子だろうな」
「え?女子がどうかしたの?」
「あぁ。うちの部員の女子だよ」
「なるほど……確かに、陽菜ちゃんと花ちゃんってすごく可愛いもんね」
「まぁ確かに花は学校1って言われてるし、田神も裏人気があるしな」
「だよねだよね。そっか、よく思い出したらうちの部活の入部希望者って、男の人しかいなかったもんね、顧問の先生も南先生だし、人気出るのも無理ないよね」
「そ、そうだな」
確かに間違ってはいない。というか、適格だ。南先生は、性格は適当な感じだが顔はとても整った形をしている。正直人気が出ても何もおかしいと思わない。
ただ…、学校2位とまで言われている花蓮のことが出ないのは、自分のことだから仕方がないか。まぁ正直、3分の1は花蓮目当てらしい。全ての入部希望者を片っ端から断ってくれている陽菜から聞いた。
「それじゃぁまた後でね」
「おう。また後で」
そう言って、俺たちは教室の席に着いた。
放課後、多目的室にて。
「疲れたーー」
「どうしたんだ?田神。そんなにへとへとになって」
多目的室を開けて俺が教室の中に入ろうとしたとき、後ろから全力ダッシュでかけてきた陽菜は、その流れのまま机の上に寝っ転がった。
「今日は体育あったからね」
「そういやあったな。女子は確か持久走だっけ?」
「そう。だからめっちゃ疲れたんよ」
「なるほど」
「だから……おや…す……み………」
「おう。おやすみ」
こうして残念ながら俺は独りぼっちとなった。
「しっかし今日は確かに疲れたな。何だか災難だ起きてる気がする」
それもそのはずだ。今日提出だった課題を家に忘れてきて、英語の小テストの範囲を間違えていたり (ラッキーなことに知っている問題しか出なかったため、満点をとることはできた、お弁当の箸を忘れて食堂で割りばしをもらったのだが、上手く割れなかった。
「まだなんか置きそうで怖いな」
そんなんことを考えていると、部室の扉が開いた。
「お待たせ、早野くん」
「おう、花か。用事は済んだのか?」
「うん。数学の先生に分からない問題を聞いてきただけだから」
「それって今日返された中テストの最後の問題か?」
「うん。アレって正答率が1%未満だったんでしょ?」
「たしか2人しかあってなかったんだよね?」
「らしいな」
「もしかして、早野くんと高畑くん?」
「……そう」
「すごいね!さすが早野くんだよ」
「ありがとさんです。でも花もその1問だけだろ?間違えたの」
「うん。でも、やっぱり満点と1問間違いは違うよ」
「そうかな?うん。確かに、俺もそうかもしれん。1問間違いの時ってすげー悔しいもん」
「うん。だからすごいよ」
「まぁ、俺はどっちかと言うと理系だからな。その点花は文系寄りだし」
「確かに、そうだね」
「花の国語の力はすごいもんな。圧倒的な文章力だし、作文なんかすごい評価高いもんな」
「そんなことないよ、私なんてたまに書けるかもしれないってだけだよ」
「そもそもたまに書けるだけですごいんだけどな」
そんな感じで楽しく談笑していると、また扉が開いた。
「ごめんね匠君、花ちゃん、それから……陽菜ちゃんは相変わらず寝てるんだ」
「あぁ。相変わらずだ」
「鼾もたってないし気づかないよね」
「確かにな」
陽菜は、性格がとても関わりやすいため、友達で止まる人が多い。そのせいで忘れられがちだが、陽菜はとても整った顔立ちだ。そしてその寝顔ときたら、一般的な男性なら、間違いなく見とれてしまう。
「ねぇ、匠君」
「なんだ?」
「見過ぎじゃない?」
「へ?」
俺は自分がしている行動に気づき、咄嗟に目をそらした。
さっきは俺が特別みたいな言い方になっていたが、俺も何の変哲もない一般的な男性である。だから、思わず見とれてしまっていた。
ダメだぞ早野匠。俺には岡田花蓮という可愛い彼女がいるんだ。浮気なんてしてみろ、速攻で別れられるぞ。
「確かにかわいいもんね」
花が少しフォローしてくれる形でそう言ってくれた。
ありがとう、花。
「そうそう。私、今日は早く帰ってご飯作らないといけないんだ」
「そうなのか」
「うん。だから今から帰るから、今日は一緒に帰れないって言いにきたの」
「そうか。了解。頑張って」
「うん。じゃぁね、匠君、花ちゃん」
「また明日な」
「また明日ね」
こうして花蓮が帰っていった。忙しそうだな。
「そうは言っても、もう16時45分だもんね。そろそろ私たちも帰る準備しないとね」
「そうだな。そろそろ帰るか」
そう言って、勉強道具を片付けて軽く掃除をした。
「おーーい、たーがーみーー。おーきーろーー」
「んん……おはよう早野。もう朝?」
「いや夕方だ。起きないとカギ閉めるから置いてくぞ?」
「うっす。おはようございます早野隊長!」
「どんなキャラチェンジだよ」
「面白いね、2人とも」
「そうか?」
「そうかな?」
「ほんとにおもしろいね」
花がフフフと笑いながらそう言った。
「さてと。いつも通り俺が鍵返して帰るから、2人は先に帰ってて」
「毎回ごめんね、早野くん」
「いいって、別に」
「ありがとうございます。早野隊長!」
「田神はいつまでやってんだよ」
「気が変わるまで…です!」
「はいはい」
本当によくわからない人間だな、陽菜は。
そして、俺は鍵を閉めて職員室に向かって歩いて行った。
鍵を返した俺は、そのまま下駄箱へと向かった。
「帰りますか……ってん?」
俺はまた見てはいけないものを見てしまった。
「小野先輩……?」
それは、体育間の裏へと向かっていく小野虹の姿だった。
「また何かする気か?ちょっと様子を見に行くか」
俺は気になったので、小野虹の後を追うことにした。
「だからやめてくださいって」
「いいじゃねぇかよ」
「だから私にはこの人って決めている人がいるんですよ」
「だからそれは俺のことだろ?」
「だからそんなわけないじゃないですか」
「じゃぁ俺と付き合えよ」
「だから嫌だって言ってるじゃないですか」
体育館裏を覗いてみると、そこには前に見たような光景が広がっていた。壁際で詰め寄られている1人の女の子と小野虹。
それにしても、この2人の会話が面白い。軽いコントを見ているような気持にまる。
「あの子、たしかどっかで見たことあるような……あ!」
俺は思い出した。たしかあの子は1年生の
もちろん男からの人気も高いが、誰もまだ落とせていないらしい。
「助けた方がいいよな」
俺はそう思い、そっと近づいて行った。
「あ、小野先輩じゃないですか。こんなところで何やってるんですか?もしかしてまた女の子に手を出してるんですか?懲りないですね~。同級生がだめなら今度は後輩ですか~」
俺は自分のキャラとはかけ離れた感じで話した。
「あ?なんだお前」
「僕ですか?僕は2年の早野匠ですよ」
「早野?どっかで聞いたことのある名前だな」
「早野先輩!遅いじゃないですか!今日は私の彼氏として紹介して諦めてもらうって約束してたじゃない出すか~」
は?と思った俺だったが、森橋がペコペコしながら願いしますとアピールしてきていた。
しかし…、俺は花蓮と付き合っているし、変な噂が立つのも嫌だ。それなら……よし。いい考えを思いついた。
「おいおい夢叶。俺たちはただの幼馴染みだろ?そうやっていっつもからかってくるのはいい加減にやめろよ~」
「あ?幼馴染み?」
「そうですよ。僕と夢叶は幼馴染みなんですよ~。よく一緒に遊んでいましたしね。親同士も仲いいですし。……あ、そうだ。今は何されてたんですか?先輩」
「うっせぇな。殴るぞ」
「怖~い。先輩怖~い。あ、でももしかして先輩今夢叶にちょっかいかけてました?」
俺は、今までのへらへらした口調をやめ、一気に低くした。
「だったらなんだよ」
「脅迫罪として、ご両親と相談して警察に通報します」
「はは。証拠は?」
でた、自分がやりましたと言わんばかりの証拠を求める発言。でも、
「ここに先からの行動の一部始終を録画しています」
「何?」
そう言って、俺は自分の携帯の画面を見せた。
「チッ」
「何か反論はありますか?」
「ねぇ。くそが!」
そう吐き出して、小野虹は校門に向かって歩いて行った。
「はぁー。あの先輩も懲りないな……。大丈夫?えーと、森川さん」
「あ、はい。大丈夫です」
「そっか、じゃぁよかったよかった。それじゃぁ気を付けてね」
「えっと、その…ありがとうございました。早野先輩」
「別にいいって、あの人はめんどくさいから」
「その…何かお礼を……」
「そんなのいいよいいよ。俺がしたことなんて大したことないし」
「いえ。私はそれでは納得できません。せめてケーキくらいおごらせてください」
「いや、後輩におごってもらうのはちょっと…」
「それなら…」
「あ、そうだ。それじゃぁちょっと付き合ってもらおうかな」
「なんですか?」
「〇ン〇〇クカフェで話し相手にでもなってくれ」
「はぁ。そんなことでいいのなら」
「ありがと」
そう言って、俺たちはカフェに向かった。
「そうだ。森橋さんって好きな人がいるんだね。正直驚いたよ」
ブー。と聞こえそうな感じでむせだした夢叶は、咳をした後に落ち着いてから話し始めた。
「あれはあの時咄嗟に出た嘘で、好きな人なんていませんよ」
「そうなのか?てっきり彼氏とかいるのかと思ってた」
「初対面の女の子に結構ぐいぐい来るんですね、先輩」
「あぁ。悪い。あんまりそういうの好きじゃないよな」
「いえ、別に。先輩は積極的と言ってもアピール的な感じじゃないので」
「あぁ。なるほど」
それもそのはずだ。俺が積極的にアピールしてたら、男子の99%を敵に回すことになるからな。花蓮という者と付き合っていながら後輩のしかも後輩ナンバー1を口説くなんて死刑以外の何物でもないだろう。
「それで、先輩。携帯出して下さい」
「あぁ。いいけど、動画ならそもそもとってないから消すとかそういうの無いぞ?」
「え?そうなんですか?てことは先輩の方も思いつきだったんですね」
「あぁ、そうだな。」
「そうだったんですね。でも、それは関係ないので見せてください」
「そうなのか。まぁ、べつにいいぞ。はい」
「ありがとうございます」
そう言って、俺の携帯を受け取ると、何やら打ち込んでいた。
「はい。私と連絡先を交換しときました」
「え?何してんだよ」
「ダメでしたか?」
上目遣いで見上げながらそう聞いてくる夢叶。こいつ、自分の可愛さを知っている。さすが、だてに後輩をしていないってことか。
「別に俺はいいんだが…森橋さんは良かったのか?」
「はい。先輩、何かと頼りになりそうなので」
「そうか」
どうやら少し期待されているようだ。何だかうれしいな。
「でも、1つだけよくないことがあります」
「な、なんだ?」
「名前。森橋さんはやめてください」
「え?じゃぁなんて呼べばいいんだ?森橋さん」
「だから、森橋さんはやめてくださいってば!」
「あぁ。悪い」
「分かればいいんです。そうですね…普通に夢叶でいいですよ」
「そうか、分かった。夢叶…」
「はい。よろしくお願いします!先輩」
何だか先輩という呼ばれ方は、なれなくて新鮮で、とてもいい。それに何だかアニメの主人公になった気分だし。
「じゃぁまた」
「はい。また」
そう言って、俺たちは別れた。
「これまた可愛い後輩ができたな」
それは顔だけではなく、後輩としてもだ。
「なんだか少しめんどくさくなりそうで嫌だな」
そんなこと考えるのはやめておこうと言って、俺は電車に乗った。
何も起こらないわけがないのは、言うまでもないが…。
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