12話 部活動で問題発生

 ハロウィンも終わり、俺たちは何もない平凡な日常を過ごしていた。もう、11月に入ったというにもかかわらず、まだまだ日中は暑さが残っている。異常気象にも程があるだろ!


 そんな俺たちだったが、今は放課後教室に4人で机をはさんでお話をしている。というか、議論をしている。議題は『部活動の名前、何にする?』である。




「私はまったり部とかでもいいと思うんだけどね~」


「だから、陽菜ちゃんの案は先生が無しって言ってたって言う話をしたから」


「まぁ、俺は何でもいいけどな」


「早野くんは、相変わらず適当すぎじゃない?」


「私は学部とかいいと思うんだけど……ごめん冗談のつもりだったんだけど…」


「それいいじゃん!」


「私も良いと思うよ、花蓮ちゃん!」


「俺も良いと思うぞ」


「え?うそ、ほんとに?」


「それでさ、学部って何するの?」




 言われてみれば、確かに。




「えーと、ここにいるメンバーって私以外とても賢いでしょ?だから、みんなで色々なことを学ぶ部活にしたいな~って感じなんだけど……もちろん、勉強もそうだけど、他のこととかも学べたらと思ってます!」




 何で敬語?てか、やっぱり可愛いな。花蓮は。




「なんか面白そうじゃん!」


「うんうん、なんだかみんなに合ってるよね」


「そうだな、あとは人数だな。えーと……今は4人だから同好会だけどどうする?1人探す?」


「まぁ、今のところは同好会でいいんじゃない?」


「そうやね、全然知らん人が入ってきても、気まずくなるだけやしね」


「私もそう思う。匠君は?」


「うん、俺もそれでいいと思う」


「じゃあ、今から南先生に伝えてくるね」


「私も行くよ」


「私も」




 こうして、俺たちは学部というふざけた感じで、それなのに中身はしっかりとしている同好会を、開設したのであった。






 そして、翌日の放課後。多目的室。




「じゃあ、そろそろ部活始めようよ!」


「そうだね。じゃ、会長の早野匠君。よろしく」




 『部』じゃないから会長なんだな。なるほど、頭いいな。




「ん、んん。えーそれでは、記念すべき最初の活動を始めたいと思います。会員の皆様、よろしくお願いします」


「「「よろしくお願いします」」」


「では本日は、まじかに迫っている期末テストの勉強をしましょうか?」


「何で疑問形?」


「え、いや、しっかりと会員とコミュニケーションをとらない会長は嫌われるってネットに載ってたからちゃんと確認をとろうと思ってですね…」


「まぁでも、結局しないといけないことだしね」


「そうだよね。ここには天才ぞろいだもんね!」


「なんせ学年2位と3位がいるもんね~」


「いや、陽菜ちゃんも4位だよね?ね?」


「今回は負けないよ、早野くん」


「あぁ、もちろんこちらも全力で挑ましてもらうよ」


「今回のテストは難しくするって先生方が言ってたよね」


「まぁあれだけ高得点の生徒ばっかりじゃ、先生達も面白くないもんね」


「こりゃ念入りに教科書読み直しといた方がいいな」


「そうだね」




 こんな感じで、俺たちの最初の活動は着々と進んでいき、気付いたころには完全下校の時間になっていた。




「しかしまぁ、頭いいやつと一緒に勉強すると、捗るもんだな」


「そうだね、私今度こそ、夢の2桁順位があるかも!」


「確かにそうかもな。俺も今度こそ同率1位あるかもしれん」


「それって満点宣言?」


「私も負けないよ?」


「花も満点宣言?私はさすがに490目標かな?」


「陽菜ちゃん、それもすごいんだよ?なんでこの学校には頭いい人ばっかりなの?ここって進学校だったっけ?違うよね?ね?」


「まぁ花蓮の話は置いといて」


「置いとくの!?」


「とりあえず下校しないとまずいぞ!鍵は俺が返してくるからみんな先に出といてくれ」


「分かった」


「ありがとう」


「私も行こうか?」


「1人で大丈夫だよ。ありがとな、花」


「じゃぁ、よろしくね」






 そして、俺は鍵を職員室に返して、下駄箱に向かっていた。その道中に、ふと気になる光景を目撃した。それは、生徒会長が誰かはわからないが、たぶん先輩であろう人に絡まれている?うーん……なんだか様子がおかしいな、あれはどう見ても嫌がってるよな。助けに行った方がいいかな?




「やめとけ、早野」


「!?」




 後ろから話しかけてきたのは、紛れもなく風紀委員長だった。




「何でですか?会長が何かされてるんですよ?」


「そういう意味ではない。俺が行くという意味だ」




 なるほど、そういう意味だったんだ。でも、なんでまた委員長がそんなことをするのだろうか……




「あいつは3年の小野虹だ」


「!?」




 小野おのにじ。金髪に染めており、目つきが鋭く、一目で不良だということが分かる。3年6組で、テストでは常に最下位の不良生徒で、女癖が悪いことで有名な人だ。




「あいつは暴力沙汰の事件も起こしている厄介ものだ。お前に怪我でもされると、花蓮が悲しむからな。花蓮のそんな顔は見たくない」




 妹思いのいいお兄ちゃんか、委員長のシスコンぶりといったら……




「分かりましたよ、何かあったらすぐ行くんで」


「安心しろ、すぐに片付ける」




「おい、貴様何をしている」


「あ?なんだよ風紀委員長さんよ。今いいところなんだよ、邪魔するんじゃねえよ」


「助けて、広樹。こいつ私を体育間倉庫に連れて行こうとしてるの」


「おい、小野。この学校での不純な行為を、俺が許すとでも思っているのか?」


「じゃあしかたねぇ、力ずくで突破させてもらうぜ!」




 そういいながら、小野虹が委員長の顔面目掛けて右ストレートをくりだしたのだが……




「!?」


「そんなヒョロヒョロなパンチ、本気で当てる気できているのか?」




 委員長は、小野虹の渾身のパンチを、片手で容易く止めてしまった。




「くっ、お前何者だ」


「私立下村学園風紀委員長、岡田広樹だ」


「そんなことは知ってらぁ!ちげーよ、お前なんかやってたのか」


「水泳とピアノは習っていたが、それがどうかしたのか?」


「くそ、覚えてろよ。今度会ったらただじゃおかねぇからな」


「学校の外ならいつでも相手をしてやる」




 委員長がそう言うと、小野虹は校門の方へ歩いて行った。




「大丈夫か?飯田」




 そう委員長が言った途端、会長が委員長の胸に飛び込んだ。そして、泣きながら委員長に話し出した。




「怖かった、怖かった。広樹、ありがとう。私を助けに来てくれて。もうだめかと思った、連れていかれると思った」


「そうか」


「ありがとう、ありがとう、ありがとう、ありがとう……」




 会長は、30分ほど委員長の胸の中で泣いていた。そして、委員長が目で「今ならかえれるぞ」と合図を出してくれたので、俺は静かに靴を履き替え、校門に向かって歩き出した。そして、校門に付くと、そこには花蓮が待っていた。




「遅い」




 花蓮が俺に小さな声で、つぶやくように、鞄をこつんと膝に当てながら言ってきた。


 昼間は暑いとはいえ、さすがに11月、夕方になると少し肌寒くなるため、花蓮はマフラーを巻いていた。そして、そのマフラーに顔を半分くらい埋めて、上目使いで俺を見ていた。


 か、可愛いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!反則だろそれは!




「み、みんなはもう帰ったのか?」


「う、うん」


「そ、そっか。待っててくれたのか?」


「うん」


「ありがと」


「う、うん」


「じゃぁ、俺たちも帰ろっか」


「そうだね、帰ろっか」




 俺たちはさりげなく手を繋いで、駅まで向かった。今は18時前、夕日が沈もうとしていて、月が昇り始めようとしている時間。夕日のせいか、それとも別の理由なのか、赤く染まった染まった花蓮の顔は、どんな宝石よりも綺麗に思えた。そして、ふと今日の出来事がフラッシュバックしてきた。委員長は、しっかりと会長を守った。俺も、絶対に花蓮を泣かさないと、強く決心した。




 そして翌日、俺はとんでもない光景を目の当たりにした。それは…




「広樹ー、ねぇ今日の放課後どっか行かない?ほら、今日は委員会ないでしょ?ね、いいでしょ?」


「やめろ、くっ付くな飯田。俺は期末テストの勉強をしなくてはならないんだ!」


「えーー。別に広樹勉強しなくても点数とれるじゃん!ね、いいでしょ?行こうよ~」


「ダメなもんはダメだ」


「えーーー、なんでよ~~」




 会長が委員長の腕に抱きついてた。なんか会長、昨日の一件があったからか知らないけど、やけに積極的になったよな。まぁその方が面白そうだけどな。




「なんか生徒会長、お兄ちゃんのことが大好きみたいだね」


「そ、そうだな」




 噂は前から聞いてたから驚きはしないが、確かに異様な光景だな。




「私もあれぐらいベタベタしたほうがいい?」


「い、いや。花蓮は今のままでいいよ」


「あはは、冗談だよ」




 ですよねー。まぁ、少し安心だけど。






 そして放課後、多目的室にて。




「では、本日もよろしくお願いします」


「「「お願いしまーす」」」


「では今日も、昨日と同じということで」


「それはいいんだけどさ」


「ん?どうした?」


「昨日なんであんなに遅かったん?」


「!?」


「会長も何だか突然積極的になるしね」


「……」


「ねぇ、早野くん。昨日いったい何があったの?」




 これは、言わなければならない空気だよな。




「3年の、小野虹って知ってるか?」


「うん」


「その人会長を襲ったのよ」


「ホントに?」


「あぁ。それで、委員長が助けたのよ」


「なるほど、それで遅くなったんだ」


「うん」


「なるほどねー、それで花蓮のお兄ちゃんへのアピールが積極的になったわけなんだ」


「そういうことだ」


「なーんだ、てっきり浮気でもしてたのかとおもってた」


「んなことするかよ!」


「だよね」




 まったく、陽菜は失礼なやつだな。俺が浮気なんてするわけないっての……ないよな?うん、ないだろう、たぶん。いや、絶対だ。






 そして、月日は流れ、結果発表の日。




「匠君、自信のほうは?」


「まぁ、10位には入ってると思う」


「さらっとすごいこと言うね」


「それは置いといて、花蓮は?」


「いつも通りかな」


「そっか」


「あ、花ちゃんだ!花ちゃーん」


「花蓮ちゃん、おはよう」


「花蓮おはよ」


「おはよう花ちゃん、陽菜ちゃん」


「うっす、花と田神」


「おはよう、早野くん」


「おはよ、早野」


「みんなどんなもんだ?」


「そこそこかな」


「私も」


「そっか。じゃ、見に行くか」




期末テスト順位表




第2学年


1位 高畑健斗 500点


2位 豊島ルン 482点


3位 早野匠 475点


4位 伊藤花 474点


5位 田神陽菜 469点



12位 町田晴也 451点



53位 上村康晴 369点


54位 東川りせ 367点



120位 岡田花蓮 277点



239位 新宮一希 153点


240位 門田正午 14点


第3学年


1位 岡田広樹 500点


2位 和泉初音 495点


3位 不死木吉野 489点


4位 飯田桃子 475点


5位 東盛愛 469点



240位 小野虹 0点






 おいおい門田、赤点とかのレベルじゃねぇじゃねぇかよ。それよりも、目に止まるものと言えば小野虹だよな。やっぱり噂は本当だったらしい。


 実は、先日のあの一件を見ていた先生がいて、停学処分になったらしい。こんな時期に3年の生徒を停学なんて、普通はありえないはずなのだが、前科もあるせいか、停学になったらしい。


「また負けちゃったなー早野くん」




「いや、でも1点差だろ?」


「1点でも100点でも負けは負けだよ」




 花のこういうキッチリとしてるところは、スゲー尊敬してるところなんだよな~。




「匠君、どうしよ」


「ん?どうした、花蓮」


「私また120位だ」




 そういえば、この学校に入学して以来、花蓮が120位以外の順位とったの見たことねぇぞ?悪魔にでもとりつかれてんのか?




「ま、気にしない方がいいと思うぞ」


「そう?そっか、じゃぁ気にしないようにしとく」


「それにしても、みんなすごいよね」


「そうだな。ほんとに進学校じゃないのか疑いたくなるよな」


「その1人に入ってるんだよ?匠君」


「そう言ってもらえると嬉しいな」




 なんて感じで少しラブラブトークをして、俺たちは教室へ向かった。






 そして放課後、多目的室にて。




『ピンポンパンポン♪2年4組門田正午君、2年4組門田正午君。進路指導の先生と、生活指導の先生と、学年主任の先生と、担任の先生など、その他多数の先生がお呼びです。今すぐ、直ちに、職員室へきて下さ。繰り返します、2年4組門田正午君……』




「こんな放送初めて聞いたぞ」


「「「私も」」」


「えーでは切り替えて、本日も始めます。お願いします」


「「「お願いします」」」


「今日は、祝会員全員赤点回避ということで、祝賀会をしまーす」


「じゃ、さっそく間違えたところをやり直そっか」


「「はーい」」


「え?俺の意見完全に無視?」


「古典の大門3の問2ってどうやってとくの?」


「これはまず主語をさがして…」




 あ、無視ですか。しかたない、おれもするか。


 こうして、今日の活動は終わり、俺たちは下校することにした。






 そして、下校中のことであった。




「匠君」


「ん?どうした?花蓮」


「あのさ、クリスマスの日なんだけどさ、予定ってある?」


「いや、特にないよ」




 嘘だ。空いていたのではなく空けていたのだ。俺から誘うつもりだったんだけど、まぁいっか。




「良かった。じゃぁさ、その日デート行こ!」


「行こうぜ!クリスマスデート」


「それじゃぁ当日この駅前集合でいい?」


「お、おう。了解」


「約束だからね」


「おう!」


「じゃあね、また明日」


「おう、また明日」




 こうして俺たちは、お互いに反対側のホームに歩いていった。


 それにしてもクリスマスに彼女とデートか。去年までじゃ考えられねぇな。楽しみだなー。早くクリスマス来ないかな。




 そんなことを考えながら、俺は電車に乗った。

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