11話 ハロウィンで問題発生

「トリックオアトリート!お菓子をくれなきゃいたずらするぞ?」




 インターホンが鳴り玄関の扉を開けた先にいたのは、猫娘や魔女の仮装をした美少女たちの集団だった。




「はい。お菓子がないのでいたずらしてください」




 思わず本音がポロリと出た。






□ □ □






 今日は10月31日日曜日。花が約束としていた日だ。




「それにしても今日はなんだか落ち着かねぇな」




 無性に落ち着かないのにも理由はある。なんてったって蒸し暑いというかなんというか。もう10月も終わろうかというのに夏日ほどの暑さがある。残暑だ。




「確か19時に来るんだったよな……うーん、なんでまたそんな遅い時間からなんだ」




 夜から男の家に押しかけてくるなんて、俺の家じゃなければやばいよな。俺の家って若干たまり場っぽいところあるし。もともと康晴が毎日のように来てたし。




「今日は俺を含めて6人だからなんか買っといた方がいいのか?てか、そもそも何しに来るかも分かんねぇからな。とりあえずジュースとか買っとくか」




 俺は多少のおもてなしができるように、スーパーに買い出しに出かけた。






「それにしても暑いな」




 最近少しひんやりしていたので、急に暑くなると体調を崩しそうだ。半袖でちょうどいいなんて、おかしな話だ。まぁ、最近は普通か。


 なんてかんじで何の意味もないことを考えんながら歩いていると、ふと1枚の張り紙が目にはいった。




「そう言えば今日、ハロウィンなんだな」




 すっかり忘れていたが、そういえば10月31日はハロウィンだった。




「もしかして、お菓子ねだるためだけに来たりして」




 あり得るかもしれない冗談を思い浮かべてしまった俺は、まさかそれは無いだろうと頭の中では思いながらも心の中では少々不安に感じた。




「大丈夫……だよな」




 変な心配はやめよう。もしそうだったとしてもそれはそれでいいのだから。そうそう。




 適当に買い物を済ませ、念のためにもう1度掃除機をかけておく。


 これは余談なのだが、買ってきた飲み物や食べ物は俺の好きなものを中心にしている。理由は、もしも誰も家に上がらなかった時に俺が飲めるようにするためだ。一応花蓮の好きなオレンジジュースも買っておいたのは、彼氏の弱いところか。




「後は特に何もないな。よし、アニメでも見るか」




 俺は前にも言った通り、結構なオタクである。そのためブルーレイやレコーダーの中にはたくさんのアニメがあるが、グッズというグッズは特にない。ポスターもなく、フィギュアなどもない。強いて言うなら、漫画やラノベなどは山のようにある。そのため何か隠さないといけないものがない。




「今期はそこそこ豊作なんだよな~」




 俺はとっていたアニメを消化するために視聴を始めた。




 カーカーカーという、いかにもな音が聞こえてきて時計を見るともう5時を回っていた。ついうっかり見すぎてしまった俺は、少し眠かった。




「まだ2時間あるな。ちょっと寝よう」




 なんて言って、俺はベッドに寝転がった。アラームを設定し、瞼をゆっくりと閉じる。それから間もなくして眠りについた。




ジリジリジリジリジリジリジリ




 設定したアラーム通りに目を覚ました俺は、女子と会うために最低限のセットをした。そして、靴を下駄箱に入れ万全のたいせいを整えた。もしもの可能性を考え、スリッパは出さずにいつでも出せるようにだけしておいた。




「最悪の場合でも大丈夫だな」




 時計を見るともう18時30分を回っていた。いったい何の目的で来るのか知らされていない俺は、ただただ待つことしかできなかった。そんな感じで待っていると。




「ピーーンポーーン」




 インターホンが鳴った。まだ18時45分だったので、思ってたよりも早いなと思って恐る恐る扉を開けた。すると、そこにいたのは康晴ただ1人だった。




「よう匠」


「お、おう」


「その様子だとまだ誰も来てないみたいだな」


「そうだけど……」




 俺が1番乗りなんて不思議なこともあるんだななんて言いながらすたすたと家に上がっていく康晴に、俺は1つ疑問をぶつけてみた。




「なぁ康晴」


「ん?」


「お前なんでりせと一緒じゃないんだ?」




 おかしい。登下校でもほとんど一緒に居るのに今日に限って一緒じゃないなんて少しおかしい。




「喧嘩でもしたのか?」


「いや。何かあいつ、今日は友達と七宮モールに買い物に行くって言ってたぞ?んで、その後直接匠の家に行くから先に行っててって言われたんだよ」


「なるほど」




 ま、喧嘩じゃないなら別にいいか。




「それにしてもみんな遅いんだな」


「何でだよ。まだ集合時間じゃないだろ?」


「え?」


「え?」




 俺たちは互いに見つめ合う形で尋ねあった。




「今日って18時30分集合だろ?」


「え。俺19時って聞いてるんだけど」


「まじで?」


「まじ」




 そうか。それで康晴が集合時間の前に、しかも余裕をもってきたわけか。




「てか、お前普通に遅れてんじゃねえかよ」


「そうだな。ま、いつものことだしな」


「そうだけど、それで納得はしたくない」




 そんなしょうもない会話をしていると。




「ピーーンポーーン」




 インターホンがまた鳴った。時計を見ると、ちょうど19時だった。今度は女子グループだろう。康晴の感じを見ると、たぶん家に上がることは間違いないだろう。そして、俺は玄関へと向かい、扉を開けた。






□ □ □






 という感じで現在に戻る。




「いたずらして欲しいって、早野変わってるねんな」




 そう言ってからかってきたのは、黒のマントをまとい、牙をつけて吸血鬼の仮装をした陽菜だった。




「匠は昔からそうだもんね」




 そう言ってきたのは、頭に小さな角のついたカチューシャをし、背中から小さな羽をはやして、この時期少し寒い短めの黒いワンピースを着て小悪魔の仮装をしたりせだった。




「早野くんってそういうのが好きだったんだ」




 そう言ったのは、黒っぽい紫のエナンをかぶり、紫のワンピースを着て放棄を持っている、魔女の仮装をした花だった。




「匠君。その……変…かな?」




 そうやって可愛らしく訪ねてきたのは猫耳をつけ、黒を基調としたワンピースを着て、手には黒の猫の手を付けて猫娘の仮装をした花蓮だった。




「か、可愛いと思うぞ」




 俺は恥ずかしがりながらも、そう答えた。




「あ、ありがとう」




 なんともぎこちないやり取りを見て、バンパイアこと田神陽菜が、にやにやしながらちょっかいを入れてきた。




「本日は私たちはお邪魔でしたか~?」


「も、もう!陽菜ちゃんってば!」




 そうやって顔を真っ赤にしながら怒っている花蓮。うん、可愛い。




「へー。みんな仮装するためにわざわざ花ちゃんの家に集まってたんだな」


「あ、上村じゃん。やっぱり30分早く集合時間教えとけば、遅れることは無かったみたいだね」


「なるほど、そういうことだったのか」




 康晴は、少し時間に疎いところがある。だから、今回は陽菜たちが来る前に来てもらっておくために、あえて早い時間を教えてたってことか。さすが、賢いな。




「それはそうと、その仮装似合ってんじゃん」


「ありがと」




 なんとも自然な流れで康晴が女子の仮装を褒める。さすが、学年1のモテ男。




「りせもデビルにあってんぞ。何か正確そのままみたいだな」


「そんなことないと思うけどな~」




 こちらはさすがと言わんばかりの幼馴染みだ。俺も自然な流れで褒めないと。




「花も、魔女にあってんぞ」


「ッッ!……あ、ありがとう」




 ポッ!と音が聞こえそうなくらい顔を赤くした花は、小さな声でつぶやいた。


 なんか、さすがと言わんばかりに可愛いな。




「さてさて、そろそろ寒くなってきたし中に入れてよ早野」


「あ、あぁ。どうぞ、入って入って」


「「「「お邪魔しまーす」」」」




 どうやら最悪の展開の反対の結果になったようだ。




「「「「「「カンパーイ」」」」」」




 特に何か意味があった訳じゃなかったので、まだしてしなかった体育祭の打ち上げと言うことで乾杯をした。優勝は俺たち4組だったが、6組も準優勝をとっていたため特に問題なく乾杯をすることができた。ちなみに4組で打ち上げは行われたらしいが、俺は1日安静のため自宅待機。俺を心配して家までついてきてくれた花蓮もパス。花蓮が帰った後にお見舞いに来てくれた花も、俺抜きだと男がどんどん詰め寄ってくるという理由でパス。陽菜は仲良しメンバーがそろって欠席のためパス。そして、唯一の男の希望ルンも、信頼できる友人が欠席のためパス。と、男にとってはそれはそれは残念な打ち上げとなった。もちろん他の女子もそこそこレベルは高いが、やはりトップとは少し次元が違ってくる。男としては活躍した俺と正午が休みのため話題の中心もいなかったらしい。




「しっかし驚いたな。まさか匠があれだけ速く走れるようになるなんてな」


「ほうだよ。ほやのがほんはにはほひなんて」


「田神。飲み込んでから話せ」


「まぁ、匠は昔から足速いかったもんね」


「え、そうなんだ。そう言えばりせちゃんと匠君と上村君って幼馴染みなんだよね」


「そうだよ。昔はスポーツ全般が得意だったから、康晴と匠の一騎打ちが多かったんだよね」


「そうそう。ほぼ互角だったけど、唯一1回も勝ったことなかったのが走りなんだよな」


「そういやそうだったな」


「へー。匠君ってそんな感じだったんだ」


「そう言えば、花。俺にバトン渡すとき1位とってきてって言ってたよな。普通あんな状況でしかもそんなに速くない人間にそんなこと言うのかなと思ってたんだけど」


「そう言われれば、今年のアンカー決めるときは花が早野を真っ先に推薦してたよね」


「そうそう」


「え、えーと。たいした意味はないんだけど……」




 花は本気で困惑したように慌てていた。




「早野くんに言ったときは、早野くんの目がいつもと違ってたから思わず声になっちゃったって言うか、その…少しでも活になればなと思って」


「なるほど。俺のやる気が目にまで出てたのか」


「確かに匠の雰囲気が変わったなとは俺も思ったな」


「そうなんだ」


「うん。それで早野くんを推薦したのは頼れそうな男子が早野くんくらいだったからで…」


「なるほどね~」


「そういうことなんだ」


「うん。でも驚いたな。ほんとに1位とってくれるなんて」


「私も。リレーで1位とるのが目標だったし」


「私も驚いたね。まさか早野が運動までできるとなね」


「明日から11月だね」


「どうした花蓮。そんな急に」


「え、いや。何だか時間が進むの早いな~って思って」


「確かにそれは分かるかもしれん」


「そうだね。夏休み明けたのがついこの間みたいだね」


「そうだな。いろいろドタバタしてたしな」


「そういやさ、早野と花蓮って付き合ってからもうすぐ2ヶ月だよね」


「うん。もうすぐそれくらい経つね」


「そういやそんなもんか。時間が経つのは早かったけど、思い返してみると案外中身は濃かったんだよな」


「そうだね。試験勝負とかあったもんね」


「安定の健斗の満点はさすがだったな」


「そうそう。もう何だか次元が違うよね」


「そうだな。あいつはどんな勉強をしてんのか分かんねぇは」


「そうだよね。私なんて今回の点数でも歴代最高なのに」


「俺も」


「誰も突っ込まないから私が突っ込むけど、花も早野もその歴代最高が化け物なんですけど」


「そうそう。私なんて2桁順位で喜んでるし」


「俺もだな」


「わ、私なんて3桁しかとったことないんだけどね」


「てか、陽菜ちゃんも点数高いっしょ」


「確かに陽菜ちゃんも点数高いよね」


「まぁ2人に比べたらたいしたことないない」


「それは2人も化け物だからだよ」


「そうだねぇ~」


「まぁ、赤点はいないし大丈夫でしょ」


「だね」


「それにしてもさ」


「ん?どうしたの匠君」




 普通に話していたのだが、どうしても気になっていた。誰も言わないし、誰も気にもしていない。でも、どう考えてもおかしい。




「何でまだ着替えてないんだ?」




 ずっと仮装をしたままだった。




「え。だって着替え花ちゃんの家にあるし……」


「そんなに早く着替えてほしいの?」


「早野は仮装見とくのが辛いんやね。そっかそっか」


「私たちの仮装は見苦しいと?そういうことなんだ、匠」


「いやそうじゃないけどさ。まぁ、着てる本人たちが嫌じゃないならそれでいいけど」


「そうだぞ匠。美少女たちの可愛い仮装なんて、そう見れるもんじゃないぞ」


「いやさ、康晴」


「なんだ?匠。拝見しないと損だぞ?」


「お前どこでいつ着替えたんだよ」


「結構前だぞ?」




 そうやってゾンビの仮装 (ちゃっかりフェイスペイントまでしている)をしていた康晴が口に出した。




「まじかよ。具体的にいつ?」


「乾杯の前」


「え、まじで」


「おう。陽菜ちゃんが俺用だって言って」


「まじかよ」


「あ、もちろん早野のもあるよ」


「え、俺は……」


「いいじゃん。匠君も着替えてきてよ」


「そ、それじゃぁ」




 俺は花蓮の可愛さに負けて着替えることにした。




「お待たせ」


「お、さすが早野。顔に何も塗らなくても死神そのものやん」


「嬉しくねぇよ」


「でも、似合ってるよ。匠君」


「そ、そうか」




 花蓮に褒められると悪い気はしないな。




「よーし。じゃ、そろそろ写真でも撮りますか」


「そうだね」


「そうするか」


「はい、チーズ」




━━パシャッ!




「うまく取れれるね」


「それ後で送っといて」


「あ、私も」


「俺も」




 こうして俺たちはくだらない話などをして楽しんだ。






「今日はありがとね」


「いいよ別に」


「またね、匠君」


「またねー匠」


「またな、匠」


「また明日ね、早野くん」


「おう、またな」




 こうしてみんながそれぞれ家に帰っていった。


 俺はふとスマホを見た。




「俺ってこんなに楽しそうに笑うやつだったっけ?」




 そこには最高の笑顔の俺たちの写真があった。


 こうして俺たちは、また新たな青春の1ページに思い出を刻んだのであった。

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