8話 体育祭で問題発生

 照りつける太陽が、温かいと感じるほどに涼しくなってきた。今年も毎年恒例のアレの季節がやってきた。そう、アレとは……




「おはよう匠君、今日もまた練習だね」


「そうだな」




 そう、この時期にある行事なんて一つくらいだ。




「体育祭、楽しみだね」


「あ、あぁ…」




 俺は顔をひきつらせた。なんてったって、勉強はできても運動は好きではない。




「匠君、期待してるよ?」


「それは参ったな…運動はね」




 俺、当日休みたい。




「まぁあれだよね、去年は散々だったもんね。だから今年は楽しむこと第一でいこうね」


「そうだな」




 去年何があったのか知りたい人もいるかもしれないが、たいしたことがあった訳ではない。ただ、去年は最下位だったんだよな。




「今年は勝てるといいな、リレー」


「そうだね、勝てるかな」


「まぁ、たぶん1組か6組だろうな」


「だよね、あの2人のいるクラスだよね」




 あの2人、それは町田と康晴だ。この2人はとても運動神経がいい。というかよすぎる。学年ではツートップ。学校ではナンバー2と言う、風紀委員長に次いだ最強なわけだ。




「去年は町田君のクラスが勝ったよね」


「そうだったな」




 去年はデッドヒートの末に町田が勝った。最後は圧倒的大差がついてはいたが。




「あ、もうすぐ授業だね。それじゃ、席に着くね」


「おう」




 今年もまた地獄の体育祭が来るんだな。






「おはよう、匠君」


「おはよう花蓮」


「いよいよだね」


「そうだな」


「全力出し切ろうね!」


「あぁ、そう…だな」




 俺は何となく気が重かった。まぁそれなりに頑張ればいいか。




「今日はね、お父さんとお母さんがきてるんだ」


「へー、そうなんだ」


「うん。去年は仕事でこれなかったから、今年は絶対にいいところを見せるんだ」


「それはそうだな。俺も今年は親来てるから、お互い頑張ろうぜ。」


「うん!」




 ま、俺は適当に足引っ張らない程度にやろうかな。




第一種目 開会式




「えーそれではただいまより第5回、下村学園体育祭を始めます」




 校長といい担任といい、ここの先生はてきとうな人が多すぎだろ。




「それでは続いて生徒会長の飯田さんから挨拶です」


「え~と、皆さ~ん。頑張りましょ~う」




 あ、はい。ですよね~。ほんの少しでも真剣なやつ期待した俺がバカでした。




「続きまして風紀委員長の岡田広樹さんよろしくお願いします」


「はい。本日は皆死力を尽くすように。以上」




 あ、この人はこの人でどうかと思うよ俺は。てか、親いるのにそれでいいの?






第二種目 準備体操




「それではみなさんしっかりと体操しましょう」


「ラジオ体操第一よ~い」




 普通の体操だな、これ。






第三種目 100メートル走




「匠君これ出るんだよね」


「あ、あぁ」


「頑張ってね」




 あー。応援されても頑張れないんだよな。情けねぇは。




「おう。やれるだけやってくるは」




「あ、町田」


「やぁ、匠君」


「お前と同じとか最悪だ」


「僕は嬉しいけどな」


「そりゃ勝てたらうれしいだろ」


「そうじゃないよ」




 ま、こいつは基本誰にでも勝てるもんな。そりゃそうか。




「そうだ、匠君」


「なんだよ」


「ゲームをしようよ」


「なんだよ」


「今日の体育際のリレーの順位で勝負しないか?」


「そうだな。してもいいが何をかけるんだ?」


「よくぞ聞いてくれました。今回は前の約束があるから任意でいいけど、花とのデートを掛けよう。君が勝ったら何をしてほしい?」


「そうだな。じゃ、俺が勝ったらお前と花の関係を教えてもらおうかな」


「!?」




 ん、意外だったみたいだな。




「うーん。いいよ。じゃぁそうしよう」


「了解だ」




「位置について、よーいドン!」




 俺は駆け足程度で走った。






「惜しかったね、匠君」




 走り終え、応援席に戻り、花蓮が話しかけてきた。




「そうだな。6人中の5番目だったよ」


「アハハ」




 この娘、最下位が惜しかったとでもいいたいのかな?まぁ、可愛いから許す。






第六種目 借り物競争




「次花蓮と花と田神の番だな」


「うん」


「そうだね」


「ま、ちゃっちゃと勝ってきますか」


「たのむぞみんな。頑張って!」


「うん!」


「ありがとう」


「任せといて」




 うんうん。この人たちは強そうですな。




「1人目。よーい始め」




 今回は花蓮ぐらいか。お、走り出して、カードとって、こっちに走ってきてる。何借りるんだろうな~。俺が貸せる者ならいいんだけどな。




「匠君!」




 お、これはラッキー。何貸すんだろ。




「おう、なんだ」


「来て」


「へ?」




 そして俺は花蓮とともにゴールまで走った。


 そういうパターンもあるんだね。




「なんて書いてあったんだ?」


「えーと。一番、大切な人」




 そんなことを少し恥ずかしそうに言う花蓮。はい、可愛すぎ。人間国宝ですは。




「2人目。よーい始め」




 今回は花か。お、走り出して、カードとって、こっちに走ってきてる。何借りるんだろうな~。俺が貸せるものなら幸いなんだが……。




「早野くん!」


「はい」


「来て」




 ですよね~。そんなことだろうと思ってましたよ。はい。


 そして俺は花とともにゴールまで走った。




「ところでなんて書いてたんだ?」


「いや、それはちょっと教えられないかも」




 花は、顔を真っ赤にしてそう言った。




「そんなにやばいのか」


「うん」


「分かった」


「ありがと」




 きっと俺が傷つくような内容だったから気をつかってくれたんだろう。




「3人目。よーい始め」




 今回は……お、りせだ。走り出して、カードとって、こっちに走ってきてる。何借りるんだろうな~。俺が貸せるものなら貸してやりたいな。




「匠!」


「はい」


「来て」


「ですよね」




 今日おかしいだろ。どうかしてんぞ、今日のお題。


 そして、俺はまたしてもゴールまで走った。




「なんて書いてたんだ?」


「手を繋げる異性」


「なるほど。それなら俺じゃなくても良かったんじゃないのか?康晴とか」


「うんうん。匠だけしか、無理」




 だから、そういう恥じらいの顔はやめてくれ。俺が照れる。




「4人目。よーい始め」




 今度は陽菜だな。走り出して、カードとって、こっちに走ってきてる。何借りるんだろうな~。俺そろそろしんどいんだけどな~。




「早野!」


「はい」


「行こ」


「おう」


「え、何でもうセットしてんの?」


「何となく分かってたから」




 そしてゴールまで走った。




「なんて、書いてたんだ?」


「え?す、好きな人……」


「へ?」




 おいおいそれって……。




「冗談冗談。ほれ」




 そう言って陽菜は紙を見せてくれた。




「仲のいい同じクラスの異性」


「そそ。だから早野が妥当かな~って。あれ?もしかして本気にしてた?」


「そ、そんなわけねぇだろ。俺には花蓮がいるんだ」


「そっかそっか。なら安心」


「当たり前だろ。まったく」




 ほんとに、からかうならもっとましな内容にしてほしい。






「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」




 借り物競争が終わり、俺はというと、さすがに4回も走ったので少し疲れてしまっていた。




「大丈夫?匠君」


「あ、あぁ」


「4回も走ったらしんどいよね」


「だよね~。これはきついね」




 すると、周りからひそひそ声が聞こえてくる。




「あいつあの学年5大美女のうち4人と手つないでたぞ」


「何であいつばっかりいい思いしてんだよ。ずりーだろ」


「しかも彼女いるだろ」


「あぁ。確か岡田花蓮だ」


「きー。何であいつなんかと。あいつのどこがいいんだよ」


「たしかにな」


「てか、あいつ豊島ルンとも仲がいいみたいだぞ」


「おいおいそれ5人全員じゃねぇかよ」


「もうあいつはだめだ」


「たらしだ」


「ここで始末しておく必要があるな」


「だな」


「そういや帰り道に人気もなくて防犯カメラもないスポット見つけたんだが」


「まじかよ。じゃ、そこでしちまうか」


「だな」




 あの、聞こえてますよ全部。絶対に行かないからね?というかそんなところあったらダメだろ!見つけるほうもどうかしてると思うが。




「てかさ、田神。お前の場合は俺じゃなくても良かっただろ」


「いやだよ。話すだけの奴と手つなぐとか」


「そ、それもそうか」




 借り物競争は、お題の者を手に持ってこないといけない。だから、人の場合は手を繋がなくてはいけない。




「ま、これで午前は終わりだからいいんだけど」


「そうだね。お昼だね」


「俺、昼ご飯もらってくるは」


「うん。先に教室戻っておくね」


「了解」




 そして、俺はついでに張り出されていた得点表を見てみた。






下村学園体育祭順位 (午前終了時)




1位 6組 710点


2位 1組 695点


3位 4組 680点


4位 5組 450点


5位 2組 445点


6位 3組 430点






 なんか、半分に分かれてデッドヒートってかんじだな。いや、それにしても3位と4位の差って埋まらなくないですか?


 なんてことを心の中でツッコミ、俺は観客席の方に歩いて行った。




「母さん。弁当とりに来た」


「あら匠ちゃん。よく頑張ってるのね。お母さん応援してたの聞こえてた?」




 母さんは昔からびっくりするほど声が大きい。だけら、いやでも聞こえる。




「聞こえてたよ。そろそろ恥ずかしいからやめてくれよ」


「いやよ。匠ちゃんを応援するために来たんだもの」




 ごもっともですけど。




「まぁ、抑えてくれってこと。それじゃ」


「午後からも頑張りなさいよ」


「わかったよ」




 まったく。俺に何ができるって言うんだよ。






「待たせた。悪い」


「いいよいいよ」


「さ、食べよ」


「そうだな。食べるか」


「「「「いただきます」」」」


「やっぱり母さんの飯は安心するな」


「あ、それ分かるかも」


「だよね。私も分かる」


「私も」


「母さんの弁当も食ったし、これで午後からの競技も頑張れそうだな」


「私も頑張るよ」


「私も。今3位だし、全然1位狙えるもんね」


「そうだね~。がんばろう」


「おー」


「やりますか」


「いやいやいやいや。俺らだけじゃないからね?なんかカッコよくなってるけどこれ俺たちの戦いじゃないよ。みんなの戦いだよ」


「「「……」」」


「よし。俺たちでけりをつけよう」


「「「ラジャー」」」




 何がしたいんだか。






 お昼休憩も終わり、いよいよ午後の部がスタートしようとしていた。




「ここからは団体競技がメインだよね」


「あぁ。そしてなんといっても最後の3年生のリレーが一番の目玉だよな」


「うん。そうそう。でも、どっちかと言うと1、2年も結構目玉だと思うよ」




 なんか怒ってる。絶対怒ってる。何があったんだ。




「そういやさ、花蓮」


「何?」


「花蓮って何かリレーに執着ないか?」


「そうだね、確かにあるかも」




 やっぱりだ。こんなにもリレーにだけ気が向いてるのはおかしいと思った。




「実はね。私、昔走るのが驚くほど遅かったんだ」


「え。そうなのか?」


「うん。50メートル走14秒とかだったの。それでね、リレーなんて私が走ったらみんなの邪魔にしかならないから、何とか理由付けて休もうと思ってたんだ」


「うん」


「そしたらね、クラスのみんなが何で走らないんだ?とか、仲間なんだから一緒に頑張ろうぜ!とか言ってくれてね、みんなで特訓なんかもしてくれたんだ。だから今では平均以上まで早く走れるようになったんだ」


「なるほど。そんな過去があったんだな」


「うん。だからね、リレーは私を救ってくれたみんなとの繋がりみたいなものを感じるんだ」


「なるほどな」


「だから、リレーだけは負けたくないっていっつも思うんだ」


「そっか。じゃ、今回こそは頑張らないとな」


「うん。だから、アンカーの匠君も頑張ってね」


「うん、そうだな。今なんて言ったかもう一回言ってくれるかな?」


「だから、アンカーの匠君も…」


「そこ!そこだよ。俺がアンカーっていつ決まったの?」


「え、陽菜ちゃんから聞いてないの?」


「うん」


「アンカーしてくれる人がなかなかいなくてね、それで匠君ならやってくれるんじゃないかなって思って3人で決めたんだ」


「オーケイ、オーケイ。誰かは分かった。でも、俺がアンカーでいいのか?」


「うん、大丈夫。だって私の彼氏だもん」


「プレッシャーが……」


「冗談だよ。でも、期待してるのはほんとかな」


「なんて難しいこと言うんだよ」


「頑張ろうね」




 ここにきて、今日一番の笑顔を見せてくれた。ハーー。これじゃぁ否定しにくいじゃねえかよ。




「おう。そうだな」




 こうして俺たちは応援席に座った。

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