7話 京都の街で問題発生

 2日目の朝、1番に起きたのは俺だった。




「マジか、俺が1番か……」




 だが、これは本当にまずかった。




「!?」




 まずかった理由は、人は寝ている時無防備になるということを思い知らされたからである。異性と言うこともあり、目も当てられない……。しかも、俺の隣にいたのは花蓮ではなく花になっている。もちろん、俺の寝相が悪いのでは無い。花と花蓮が入れ替わっていたのだ。




「どんなけ寝相悪いんだよ」




 だが、そんなことはどうでもよかった。だって、際どすぎる……


 へそ出して寝るのはダメだろ。危ない、ほんとに危ない、直視出来ない。でも、花はやっぱり可愛い、モテるというのも納得できるほどに綺麗だし、寝顔も文句なしだ。もちろん、花蓮は相変わらず可愛いけど、花も負けてはいない。こういう方と、仲良くできるのは、凄い特権だということも自覚出来る。そして、花に隠れているが、実は田神もいい顔立ちをしている。性格の都合で、恋愛対象としてみる人は聞かないが、フレンドリーで、誰からでも好かれるタイプだ。誰かが惚れてもおかしくないと思うけどな……




「ん、んん」




 やべぇ、起きる。この状況はまずいな。どうしよう……。よし、寝たフリするか!




「ふぁ~、おはよう」


「ん、んん?おはよう陽菜ちゃん」


「おはよう花」


「朝だねー。それにしても、花蓮ちゃんと早野くんはまだ寝てるんだね」


「ほんとに、この2人はカップルで寝てるとか、夢で会ってるんちゃう?」


「そう、かもね」




 おい、俺は起きてんだぞ!好き勝手いいやがって。まぁ、いいけど




「んー、おは、よう」


「おはよう!花蓮」


「うん、おはよう陽菜ちゃん」


「おはよう花蓮ちゃん」


「おはよう、花ちゃん……ん?匠君まだ寝てるの?」


「そうだね、いつまで寝てるんだろうね、早野くん」


「早野!起きへんの?朝やで」


「あ、あーよく寝たー」


「寝すぎだよ、匠君」


「あ、おはよー花蓮」


「相変わらずの爆発っぷりやな、早野」


「うっせぇよ」


「早野くんおはよう」




 ふー。何とか乗り切った、良かった。今変なことになったら今日は廊下で寝ろとか言われそうで怖かったからな。世の中、ラッキースケベなんてあったって許して貰えないんだよな。ビンタで済むのはアニメの中だけだからな、絶対にここは紳士的に対応しないとな。




「朝食が、7時半からだったよな、そろそろいくか?」


「そうだね、着替えたら行こうかな……って、着替えどうしよ」


「俺がトイレでちゃっちゃと着替えて外出とくから、着替え終わったら呼んでくれたらいいよ」


「ありがと、早野」


「ま、男の準備なんて心だけだからな」


「女の子は時間かかるって……分かってんじゃん早野」


「ありがとさん」




 そういうわけで、今は、とっとと着替えて外で待っている状況であった。




「お待たせ、匠君。それじゃぁ行こっか」


「おう」


「今日の朝食はなんだろうね」


「たしか和食メニューやったと思うよ」


「やったー、私和食大好きだからすごく嬉しい」


「私も!」


「俺も割りと飯は楽しみにしてるかな」


「何それー、私のガイドはあんまりなん?」


「そ、そういう意味じゃねぇよ」


「冗談だって」




 こんな会話をしていると、やっぱり視線が痛い。




「あいつってあの3人と同じ班だよな、って事は……」


「確かにそうだな」


「そう言えば、ここ京都だから清水寺があるよな。あそこって落ちても生きてる事があるんだよな」


「というか、生きてる事の方が多いらしいぜ」


「じゃあ落としても問題ないよな」


「そうだな」


「失敗したら、その時はその時だよな」


「確かに、その時は日頃の行いを恨むべきだろうな」




 おい、それは殺人未遂だよ!お前ら何考えてんだよ。てか、俺は日頃の行いは良いはずだ。今まで1度もポイ捨てしたことないし、赤信号を渡ったことも無いし、優先座席に座ったことも無いんだそ!




「あ、もうみんな集まっ待てるよ!早く行こ!」


「お、おう」




 今日のメニュー。焼き魚、すまし汁、何のか分からんが漬物、あと白ご飯。なんて平和な朝食なんだろう。心がホッとする。






 朝食も終え、先生からのお話も終わり、俺たちは今、清水寺にいた。




「やっぱり景色いいね」


「でしょ?ここからの眺めは心がおちつくねん」


「その気持ちまじで分かるはー」


「俺も」


「!?」


「よぉ匠」


「こ、康晴……とりせ」


「匠、取ってつけるのやめてよ、前から思ってたけど」


「悪い悪い、けど、どうしたんだ?」


「ん?あぁ俺ら抜けてきたんだよ」


「!?」


「俺ら2つのグループで行動してんだけどさ、恋愛にしか発展しないからこれはやってられんと思って抜けてきた」


「んで、俺らと合流したってわけか」


「そそ」


「まぁいいよ、私のツアーにようこそ」


「有難くお邪魔します」


「私も」


「まぁ、田神も乗り気やしいいけど」




 って感じで俺らは一緒に行動することになった。






「金閣!こっちはほんとに金色なのが納得いかへんのよねー」


「確かに言えてる」




 おいおい、結局田神と康晴の2人での会話になってしまってるし……ん?この2人、なんかいい感じじゃね?


 そうか!だからさっきからみんな気を使って黙ってたのか、気づかんかった。たしかにこの2人、どっちも楽しそうだな。なんやろ、ずるいな……俺も花蓮と2人で抜け出そうかな?なーんてな。ハハッ。




 そんなことを考えながら、お土産を買うために人混みに入った瞬間だった。俺たちは、一瞬にして3つのグループとなり、離れ離れになってしまった。






グループ1




「あ、俺ら2人になったな花蓮」


「そうだね匠君」


「ま、デートって感じでありっちゃありだな」


「うん、そうだね」




 なんだ、神が急に俺に優しくなったのか?慈悲か?慈悲なのか?






グループ2




「私たちだけ?」


「そうみたいだな」


「良かったじゃん上村、私のガイド独り占めやん」


「なんか1年のときを思い出すな」


「確かに、あの時は私たちだけやったもんな、喋っとったん」


「そうそう」






グループ3




「私たちだけになっちゃったね」


「そ、そうだね」


「…………」


「…………」


((き、気まずい))




 なんていう分け方だよ!グループ3に関してはこれからどうすりゃいいんだよ!






グループ1の場合




 俺らは普通に2人で、楽しむか。と言うか、楽しませてもらいます。




「匠君!これみて、京都の絵葉書だよ」


「それ割りといいんだよなー、将来これみて思い出を思い出すから」


「へーそうなんだ。それ初めて知った」


「お土産大事だからなー、なんか買わないとな」


「そうだよね……あっ!これどう?」


「ん?」




 それは、ペアのキーホルダーだった。…………なんのやつだろう、分からん。




「いいんじゃないかな、俺は賛成」


「じゃあ決まりだね!あとは……お母さんとお父さんにも何か買っとこうかな?」


「お菓子とかが無難なんじゃねぇか?」


「そうだよね、じゃあこれにしよ」


「俺も適当に買っとかないとな……お?清水せんべいか。これでいいや」




 しかしだな。名前で売るのは卑怯だと思うぞ、俺は。




 そして、俺たちは支払いを済ませ、お土産ミッションをクリアし、ついに暇になった。




「どうする?せっかく2人になったし、どこか行く?」


「そうだな……飯でも食うか」


「うん」




 そして、俺は花蓮に手を差し出した。




「!?」


「ほら、手繋いどこうぜ。さすがに1人になるのは辛いしな」


「う、うん」




 そして、俺たちは2人でご飯を食べた。蕎麦、美味しかったなー。というか、蕎麦が美味しかったのか、雰囲気が美味しかったのかわからんけど。


 その後も、合流することなく、2人で楽しませてもらった。




「楽しかったねー」


「そうだな」


「そろそろみんな帰ってきてるかな?」


「どうだろうな」




 どうやら、俺たちは1着のようだった。






グループ2の場合。




「こちらが下鴨神社になりまーす」


「おーー、スゲー、何がか分かんねぇけどスゲー」


「何がかは分らんねんや」


「ハハハ、すまん」


「ま、何でもいいねんけどそろそろお腹空いてきたね」


「そうだな」


「どうする?何食べる?」


「そうだな……弁当でも買って、鴨川の河原で食うか?」


「何それすごいロマンチックやん!上村ってそんなタイプやったんや」


「だろ?俺がモテんのも分かるだろ?」


「たしかに」




 そんな感じで、二人はまるでカップルかのように楽しそうに食事をしていた。




「そういやさ、陽菜ちゃんは好きな人とかいねぇのか?」


「私もね、恋する乙女になりたいんだけど、なかなかいいお相手がいなくてね」


「陽菜ちゃんは顔立ちも整ってるし、普通に彼氏とかいてもおかしくねえだろ?」


「うーん、どうなんだろうね。実際いないからわかんないよね」


「そかそか」


「てか上村こそあんなにモテてんのに何で彼女いないん?」


「そうだな……俺には昔からずっと片思いのやつがいんだよ」


「へー、意外だね~。誰かとか聞いたりしないけど、叶うといいね」


「ありがとさん」




 なんともいい雰囲気の中、2人は長めの食事をとった。そして、陽菜のガイドの中、残りの時間を思う存分楽しんだ。




「いやー、楽しかったは」


「私も、学年一のモテ男と長い時間一緒にいて色々知れてよかったよ」


「ガイド、ありがとな」


「いえいえ」




「おーい康晴、おそかったな」


「陽菜ちゃーん、お帰りー」




「あいつらも2人だったんだな」


「うん、よかったね」




 康晴と陽菜のグループが、2番目だった。残すところは……。






グループ3の場合




「ど、どうする?どこか行きたいところとかある?」


「そ、そうだね……特にないかも」


「だ、だよねー」


「うん……」


「…………」


「…………」




((ど、どうすればいいのーーー))






 その後、2人はうまく続かない会話をしながら、なんとか近くにあったカフェに入った。




「あのさ、東川さん」


「な、なに?伊藤さん」


「す、好きな人っているの?」


「え、えーといない、というかいなくなった、かな」


「なにかあったの?」


「うん、えーとフラれた?ってかんじかな」


「そ、そっか。ごめんねそんなこと聞いちゃって……」


「いいよいいよ。ところでさ、伊藤さんは好きな人とかいるの?」


「私?私はね……いるんだ」


「え?学校一の美少女にも好きな人っているんだ!」


「うん、でもその人には彼女がいて、だからこの恋は叶わないんだよね……」


「もしかしてのもしかしてだけどさ、匠だったりする?」


「え?なんで分かったの?」


「だってさ、同じ班だしそうかなーって思ったんだ」


「そっか…」


「実はさ。それだけが理由じゃなくてね、私もそうだったから」


「え?そうなの?」


「うん」


「いつ告白したの?」


「夏休み最後の日」




(なるほど。だから早野くん、少し暗かったんだ)




「今は大丈夫なの?」


「うん、しっかりと振り切ったから」


「そうなんだ。私も早く吹っ切らないとね……」


「そんな必要ないんじゃないかな?」


「え?どうして?」


「だってさ、恋愛って両想いになることだけがゴールじゃないと思うんだ。片思いも立派な恋なんじゃないかな?好きな人のことを思って寝れない日々を送ったり、好きな人と話すだけで嬉しくなったり、そういうのが楽しかったりするんじゃないかな?って思うんだ、私。というか私はそうだった」


「そ、そうだよね。別に諦める必要ないよね。ありがとう、東川さん」


「うん……あのさ、伊藤さん」


「何?」


「花ちゃんって呼んでもいい?」




 花は少し驚いたような顔をした。




「うん!もちろん、それじゃあ私はりせちゃんって呼べばいい?」


「うん、ありがとう花ちゃん」


「こちらこそ、ありがとうりせちゃん」




 こうして、2人の関係はよくなった。なんかほっこりするな。




 そして、時は経ち……




「もうみんないるじゃん!」


「ほんとだね、行こ!りせちゃん」


「うん」




「お待たせしました」


「おー、花とりせも帰ってきたな…っと、これで全員揃ったな」


「うん、そうだね」


「よし、じゃ入るか」




 こうして俺たちはホテルに入り、飯を食べ、風呂に入り、就寝した。


 翌日は、班ごとに分かれてそれぞれのコースに分かれたのだが、俺たちは陽菜のおかげでだいぶ詳しく見れていたので、驚いたのは二条城の鴬張りぐらいだった。さすがに、こういうのは生で見ると少し違った味を持っているものだ。それ以外は特にこれといった出来事はなかった。1つだけ後悔していることがあるとするならば、羞恥心に駆られて花蓮と手を繋ぐことができなかったことだが、それはまた次の機会に取っておくことにしよう。




 こうしてすべてのイベントを無事に終了し、災難だらけの修学旅行は幕を閉じた。そして、俺たちは京都を後にした。少し勿体ないような気もするが、一生の思い出となるような修学旅行になったことは間違いないと思えた。多分、誰も俺ぐらいに楽しめたやつなんていないと思う。


 俺たちは新幹線の中で、ぐっすりと眠った。






 そして、俺にはまだまだイベントが残っているなんて、このときはまだ考えもしていなかった。

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