6話 修学旅行で問題発生

「もうすぐ京都だね」




 俺たちは今、修学旅行で京都へ行こうとしている。いい天気だ。天気予報では雨の可能性もあると言っていたから、晴れるかどうか心配だったからよかった。




「そうやね、みんなは京都行くん初めてなん?」


「私は初めて」


「私も」


「俺も」


「じゃあ、観光案内は、田神陽菜が務めさせてもらいます」




 俺の班メンバー。俺、花蓮、花、陽菜。えげつない程の視線の痛さ、まず男1人の時点でアウトなのに、花もいるからもうおしまいだ。でも、今回だけは、楽しませてもらいますよ。だってな、班決めの時の俺の辛さを知ってるか?






□  □  □






「匠君、一緒の班になろうよ!」


「おう!いいぞ花蓮」


「あと2人だね」


「そうだな」




 当たり前のように同じ班になったことはさておき、ここからが問題だ。あと2人が重要だ。俺の彼女で、しかもクラスには花がいるといっても、密かに狙っている奴がいるかもしれないしな。下手なやつと組むのはナンセンスだろう。




「花さん!僕となりましょう」


「いいえ、私となり ましょう」


「えーと……」




 相も変わらず花はアプローチ責めにあっていた。




「花、私とならへん?」




 そこに、救いの手が差し伸べられる。




「陽菜ちゃん……ありがとう」




 正直今回ばかりは花も苦戦していたようだ。顔に色が戻っていくのが見て分かった。




「あと2人か……」




 そう呟いた陽菜は、俺たちの方を見てきた。




「早野と花蓮、一緒にならへん?」




 なるほど、花にとって俺は心おける数少ない男だからか。そして俺たちにとっても何の害もなく班を完成させることができるというまさに完璧な条件という訳か。さすがは学年5位だけあって、なかなかな頭の柔らかさだな。




「うん!いいよ」


「花蓮がいいなら俺はいいぞ?」


「了解!じゃあこれで決まりやね」




「チッ、なんでいつもあいつなんだよ」


「あいつだけいい思いしやがって」


「たしか近くに池があるだけど、山奥だからバレないと思うぞ」


「そこに沈めるか」


「いいねそれ」




 いや、辞めてくれまじで。舌打ちも誹謗中傷も全部聞こえていますよ?さすがにここまでは計算のうちじゃないよな?俺は信じてるぞ。




「修学旅行、楽しみだね!早野くん」


「あ、あぁ、そうだな」




 ダメだ、花の笑顔はやっぱり反則級ですは






 と、言うわけで今回ばかりは楽しませて貰いますよ。


 悪いね、同じ班になれなかった、可哀想な少年たち。フフフ




「おう!よろしく頼むぜ、田神」


「任せといてね」


「というか匠君、今日は何だか明るいね」


「確かに、匠今日明るいな」


「!?」




 おかしいな……ここ、4組のはずなんだけどな……。




「ていうか、この辺殺気立ってんな。なんでだ?」


「康晴、なんでここにいんだよ」


「私もいるよ、匠」


「り、りせ……もいたのか」


「言い方酷いね……匠は」


「そんなことねぇよ」




 少し疑問に思う人もいるかも知れないが、何故俺達がわりと普通に話せるようになったのかと言うと、ここには康晴の輝かしい功績があったのだ。






□  □  □






「匠、今日暇か?」




 放課後、康晴が俺のクラスまできてそう告げた。




「ん?暇だけどどうした?」


「今日どっかで飯食おうぜ」


「いいけど……どこ行くんだ?」


「ガ〇トでいいか?」


「まぁ、いいよ」


「んじゃ行こうぜ」




 という感じで、飯を食いに行った俺たちだった。そして、そこに居たのは……。




「りせ…………」


「…………匠」




 りせだった。微妙な雰囲気が漂う中、康晴が喋りだした。




「匠、お前はまだ引きずってんのか?」


「…………」




 そんなこと答えずらいだろ。てか、何で今聞くんだ?




「告られたけど、振っちまって、挙句の果てには別の女と付き合ってるってことを」


「…………うん」




 なんなんだよこいつ、意味深だな……。




「じゃあ、お前は最低だな」




 へ?こいつ急に何言い出すんだ?




「どういう事だよ!」


「振ったのを悪いと思うんなら、最初から振ってんじゃねぇよ。だいたい、お前は振られて謝られたらどんな気分になる?じゃあ振んなよってなるだろ?それが普通なんだよ。偽善者ぶってんじゃねぇよ。そういう心構えが、かえってりせを傷つけるってことも分かんねぇのかよ。どんなに勉強しても、所詮成績だけの賢さなのかよ、頭脳なのかよ。そんなんだったら俺は賢くなりたくないし、勉強なんて余計にしたくないね」




 は?何言ってんだよこいつ。ていうか、本気で何なんだよ。こいつらしくねぇ事言い出して、なんか俺怒らせ事言ったか?したか?




「お前には人の気持ちを考えるということの考え方が間違ってんだよ」




 こいつ本気でどうした?人の気持ちを考えるのは俺は得意なんだぞ?だから、どう接したらいいのか分


からなくて、悩んで、悩んで、今に至ってるってことぐらい、お前が1番分かってんだろ?どうしたんだ?




「お前はひねくれてんだよ、だいたいいったのか?振った理由。さすが偽善者だな。そういう肝心なところは自衛に徹するんだもんな」




 やめろよ、お前に何が分かるんだよ。お前は馬鹿だから俺の考えが分かんねぇだけだろ。バカのくせに思い上がってんじゃねぇよ。




「昔振られた事がどうしても頭から離れないから振ったってハッキリ言ってやれよ!」


「黙れ」




 好き勝手なこと言うなよ。それ以上口を開くんじゃねぇよ。調子乗ってんじゃねぇよ。ふざけんな。




「そんな奴に、恋愛する資格なんてねぇんだよ」




──プチンッ!




 俺の中の、何かが切れる音がした。




「うっせぇよ、俺だってわかってんだよ。振った理由も言えないような弱虫で、相手のことを思ってるように見せて、実は自分を1番に守ろうとしてる事も、俺はただの歪んだ、ひねくれた、そういう人間だってことも、全部わかってんだよ!」


「匠!」


「お前に何が分かるんだよ康晴!なぁなんか言ったらどうなんだよ、さっきから黙り込んで、さっきまでの威勢はどうしたんだ?さっきみたいに強気で来いよ」




 はぁ、何言ってんだろ俺……バカみてぇだな。いや、馬鹿だ。俺の方が馬鹿だ。もうどうしたらいいか分かんねぇよ、どうしたらいいんだよ。俺はこのまま幼馴染みと、親友と、喧嘩して生きていくのかよ。




「匠……話を聞いて」


「!?」




 俺が考えていると、思いもよらない声が聞こえてきた。




「私は、もう大丈夫。正直分かってた。匠が他の人を好きなんだってこと知ってた。でも、付き合ってしまったら、この気持ちを伝えることすら出来ないっておもったら、どうしても伝えておきたかった。後悔するぐらいなら、振られた方がマシだったから……」


「りせ……」


「でも、ここまで思い悩ませてるなんて思わなかった。だから、ごめん匠」


「いいよ、なんでりせが謝るんだよ」




 そうだよ、別にりせに謝って欲しいわけじゃないのに。そんなことのために、俺は悩んでた訳じゃないのに。




「気にしないでって言えば、それで済むと思ってたから。今まで通りに戻れると思ってたから。こんなに複雑になるとは思ってなかったから……」




 複雑?そうか、俺には深刻に思えたけど、りせにとっては大したことではなかったってことか?だから、複雑になってしまったってことか?




「要するに、だ。匠、お前の思い込みが激しすぎたんだよ」


「!?」




 ん?康晴が、要約した。そして、いくつもあった靄が、きれいさっぱりに晴れた。




「お前は、振るっていう行為をした事がなかったから、そうなっちまっただけなんだよ」


「康晴の言う通りだよ。私は傷ついたりとかしてるわけじゃない。ただただ、今まで通りの関係でいたいだけ」


「そう、だったのか……ごめん。俺の思い込みが過ぎてたせいで……」




 なんだよ、結局ただの俺の思い込みのせいで複雑になってただけなのかよ。全部俺のせいじゃねぇかよ。ほんと、笑えるぐらい馬鹿だな……俺は。こんなにも簡単なことにも気づけないなんて、馬鹿以外の何物でもねぇじゃねえかよ。




「ううん、いいの。今すぐなんてきっと無理だと思う。だから、少しずつでいいから、修復していってよ、お願い」


「分かったよ、りせ」


「だから、俺が今日お前を誘ったわけだ」


「うん、だからさっきのは匠の本音を聞くために言ってもらったの」




 なるほどな。てことは、今日は康晴のおかげで仲を戻せたってわけか。やっぱりこういうところが、俺が康晴を尊敬する要因なんだろうな。




「そうだったのか、正直ガチでキレてたし、心に刺さってたは」


「そうだろうな。だって内容は俺のアドリブだからな」




 さっきの言葉前言撤回させていただきます。やっぱり尊敬なんてしてません。でも、感謝の気持ちは変わらないかな。




「おい!それ本音じゃねぇかよ」


「ばれたか?」


「ばれたか?じゃねぇよ」




 そして、俺たちは3人で腹を抱えて笑った。






 こういう事があって、誕生日会の時も、普通に話せてたってわけだ。本当に康晴には感謝以外の他ねぇよな。




「んじゃまぁ匠も元気そうだし、俺らは帰るは」


「じゃあね匠」


「ん、じゃな」




 そう言って、2人は自分のクラスの車両に帰っていった。




「ねぇ早野、あの2人って付き合ってんの?」


「いや、俺も含めて3人幼馴染みでな。もう幼稚園の時からの付き合いだから長いんだよ。俺は高校入る時に引越したから、今は家は遠いんだけどな」


「へー、そないに昔からなんや」


「まぁな」




『まもなく、終点、京都駅です。お忘れ物のないようお気をつけ下さい』




「やっと着いたね、京都」


「匠君!京都、楽しもうね」


「そうだな!」


「…………」




 花蓮の笑顔とは反対に、花は少しだけ悲しげだった。乗り物酔いでもしたのだろうか。




「1日目はたしか、ホテルにチェックインした後は、何をしてもいいってい自由時間で、2日目は古都京都を自由散策だったよね。それで、3日目はたしか、コースごとに分かれてバスが出てたよね。それで、それに乗ってそのコースを満喫して、各コースごとにそのまま駅に集合……だったよね?」


「そう。だから私がガイドできんのは、今日と明日だけなんよね」


「まじでガイドしてくれんのか」


「もちろん!責任持って案内させてもらうんやけど……ええんかな?」


「私は大丈夫。っていうか、お願いします陽菜ちゃん!」


「私もお願い」


「まぁ、大丈夫なら張り切っていかせてもらおうかな?」


「おう!頼むぜ田神」




 さてと、無事に楽しい修学旅行が始まったな。






 チェックインを済ませた後、俺たちは京都を散策した。今日は、銀閣方面を見て回った。ガイドしてる陽菜も、なんか乗ってきたのか無茶苦茶楽しそうだし、聞いてる俺たちも飽きない楽しいツアーだった。感謝感謝。




 その後、俺たちはホテルに戻ってきて、肝心なことを思い出した。チェックインをした時に、思い出す、いや気づくべきだったことに……。




 それは、夕食をホテルで食べた後に起こった。




「あ、そういえば、部屋のこと考えてなかったね」


「「「…………………………………………………………」」」




 これ、泊まる部屋も同じ班なんだった。確かに、どこの班も、班員は同性のみで、自由行動はどっかとくっつくっていうのが多いみたいというか、全部そうだった。つまり、俺はこの状態で寝ないといけないのか?


 いや、俺はいいんだけど……3人大丈夫なのか?すげー心配やは。




「早野は、男1人やけど大丈夫?」


「え?俺?俺は大丈夫やけど……みんなは大丈夫なん?」


「私は全然大丈夫やで、というか、早野にそんな心配してないし」


「私も、匠君さえ良ければ大丈夫」


「私もかな、早野くんさぇ大丈夫ならそれでいいよ」




 え?俺男としては良くない安心感与えてるってこと?チョットカナシイ。




「ここ温泉あるみたいやね、今から行こ?」


「「うん!」」




 あ、ほんとに気にしてないご様子ですね。ま、いっか。




「俺も行こうかな」




 そして、俺たちは風呂の準備をした後、浴場に向かった。




「それじゃぁ俺はこっちだから」


「うん、じゃあまた後で」




 そう言って、俺たちは別々の暖簾をくぐった。






「あ、もう誰もいないじゃん」




 ここの浴場は、11時までみたいで、今は10時。消灯は11時半だから、まだいてもおかしくないとは思ったけど、まさか、誰もいないとは思はなかった。


 ここの浴場は、温泉と大きな風呂の計2種類の湯となっていた。後で聞いた話だが、どうやら女子も同じだったらしい。疲れをとる効果があると書いていたけど、詳しい効果はよくわからんからとりあえず入った。




「うん、最高」




 そんなこんなで、俺はポカポカ優雅に1人で1時間近くお風呂に入っていた。






 一方の女子風呂はと言うと……




「もう私たちで最後だね」


「そうだね、なんかこんなに広いのに貸し切りって贅沢だね」


「もしかしたら早野とか1人で貸し切りかもしれんね」


「そんなことあるのかな」




 そんな賑やかな会話をしながら、お風呂を満喫していた。




「ところで花蓮は、最近早野とどないな感じなん?」


「え?私?うん、普通に上手く行ってるかな」


「…………」


「そっか、それなら良かったやん」


「そういう陽菜ちゃんはどうなの?」


「え?私はそんなんないよ。っていうか、よくわかんないいんだよね、自分の事は」


「そっか、いい相手が見つかるといいね」


「そやね」


「でさ、匠君の事なんだけど……」


「やっぱり、花蓮が隣で寝たら?」


「私もそれが1番いいと思うよ」


「そう?かな……」


「いや?」


「嫌ではないよ、でもなんか心の準備が……」


「じゃあ、花が隣で寝たら?」


「え?私?それは、ダメでしょ。やっぱりここは彼女の花蓮に」


「まぁそうだよね……」


「というか、陽菜ちゃんが隣で寝るっていう選択肢は?」


「えー、私は全然いいよ」


「「!?」」


「ホンマにいいのー?」


「やっばり私が寝るよ!」


「それが1番やと思うよ」


「私も」






 時は経ち、消灯時間。




「あ、もう消灯時間だから各自で勝手によろしくー。先生もう寝るから」




 相変わらず適当すぎる先生だな。




「どうする?寝る?」


「何かすることある?」


「やっぱり……お喋りぐらいちゃう?」




 3人が、俺に視線を集めてきた。




「俺はもう寝るよ、明日も1日中京都散策だしな」


「そっか、そういやさ、旅行だと去年の林間学校を思い出すよね」


「あー、あの時はまだ仲のいい人が少なくて、あのイベントをきっかけに仲良くなった人もいたからねー」


「そう考えると、あのイベントは計算し尽くされてるって感じだな。実際、俺もあのイベントで正午と仲良くなったし……あと健人もだな」


「へー、そういう繋がりやったんや」


「そう言えば、田神もあの時に初めて話したよな?」


「あー、そう言えばそうかもしれへんね。上村ともその時初めて喋ったし」


「だって俺、康晴ぐらいしかまともに話せるような友達がいなかったからな 」


「早野って、ホンマに陰キャやと思っとったし」


「あ、それ私も同じ」


「私も」


「まさかこんなに面白い人間やとは思ってへんかったしね」


「「確かに」」


「え?やっぱり俺、そんなに酷かったんだ。知らなかった」




 てか、そんな風に思われてたんだな。




「でも、まぁなんやかんや言って結局楽しかったもんね」


「今回は、それを上回る楽しさにしないとね」


「だから、私が全力でガイドやるんやからね!」


「明日も頼りにしてますよ田神!」


「私も頼りにしてるよ陽菜ちゃん」


「明日も楽しいガイドをお願いします、陽菜ちゃん!」


「任せといて!」




 そんな感じで俺たちは適当な話をした後眠りについた。異性と一緒だったにも関わらず、思っていたよりもぐっすり眠ることができた。






 こうして、1日目を無事に終えた俺たちだったが、これから大変になるなんて、まだ誰も思ってはいなかった。

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