5話 美少女と問題発生

 今日は日曜日。花とのデート?の日だ。




「よし、準備完了。行ってきまーす」




 誰もいない俺の家に、大きな声で行ってきますを告げた。これは、防犯のためにすごく効果的だ。そして、勢い良く玄関を飛び出した俺は、駆け足で駅へ向かっていく。いや、走って向かっている。というより、全力疾走で駅へ向かっている。


 俺と花は家が割と近く、最寄り駅に集合して行くことにしていた。集合時間は10:00にしていた。そして今は10:00………………………………




「やっちまったーーーーーーーーーー。寝坊したーーーーーーーーーー」






 それから5分ほど走って、ようやく駅に着いた。もちろんすでに花は着いていた。すなわち遅刻だ。ほんと、男が遅刻とか何やってんだか。




「ごめん花、寝坊した」


「いいよいいよ、じゃあ行こ!」




 え?そんなに軽いの?ほんとに怒ってなさそうだし、優しいやつでよかった。




「う、うん」




 俺たちは、軽い挨拶を交わしたあと、目的地である七宮モールに向かって出発した。






「来週には修学旅行行ってるんだもんねー」


「そうだよな、確か京都だったよな」


「うん、京都って何気に初めてなんだよねー」


「俺もそうだは」


「京都って言ったらやっぱり文化だよね、古い建物見たりしてさ」


「ま、そんなもんだろうな。まぁでも、それがいいんだけど」


「すっごく楽しみだね」


「そうだな。二条城が、なにげに一番楽しみかもしれん」


「そうなんだ!見れるといいね」


「そうだな」




『まもなく〜七宮〜、七宮です。七宮モールにお越しのお客様はここでお降り下さい。お忘れ物の無いようにお気をつけください』




「凄ーい、やっぱり広いねー」




 うん。何度来ても何度見ても思うけど……広すぎん?こんなに広いと迷子になりそう。というか、かくれんぼしたら、いつの間にかみんな帰ってるとかありそうだな。




「花ってここ来たことあんの?」


「う、うん。1回だけある」


「へー、1回来たことあるんだな。俺は3回目かな」




 初めて来た日の帰りしなに、りせは俺に告白してきた。覚えている、確かに忘れていない。そろそろ頭から離れるかと思っていたけど、やっぱり叶わないな。そういや最近どうしてんだろ、会わないし元気にしてんのかな?






「おい、たくみん!なんで約束すっぽかしてんだよ」




 俺はこの時、何か空耳でもしたのかと思った。というか、思いたかった。俺のことをたくみんと呼ぶのは一人しかいない。俺の数少ないオタク友達のなかでもただ1人だけだ。そして、何故そいつが今この場にいるのかも、全てを思い出した。いや、少し違うな。思い出してしまった……


 とても長い時間、沈黙が続いた後、花が口を開いた。




「か、門田……くん?」


「そうだよ、門田だよ。たくみんと今日公開の新作映画を見に行こうって約束してた門田だよ」


「そ、そうなの?早野くん」


「あ、あぁ……まじですまん正午!完全に忘れてた」


「おい!嘘だろ?嘘だと言ってくれ!」


「すまん、ほんとだ」




 俺の全力の謝罪を聞いていた正午が、いたって真面目な顔になった




「ま、だろうと思ってたけどな」


「!?」


「だってよ、たくみんさ、一昨日からずっとLINE既読つかないし、電話しても出ないし、何かあったのかと思って学校であったら勉強してて、ほんとにこいつ何があったんだよとか思ってたら、まさかの3次元の女とデートとか、この期に及んでなにやってんだよ!」


「悪いとは思ってる……けど、一つだけつっこましてくれ」


「なんだよ!」


「2次元が嫁なのはお前だけなんだよぉぉぉぉ」


「なんだよたくみん、1年前には『オタク同盟リア充乙の会』略して『リア充乙』の副会長やってたじゃねぇかよ!」


「それオタク同盟というか、たんにリア充にたいしての文句を言い合う会なんじゃ……」


「生憎だが、今俺には彼女がいる」


「あ、完全に私の話はスルーなんだ……」


「ま、まさか、こ、こいつか?」




 正午は、震える手で、花を指さしていた




「違えよ、花なわけねぇじゃん。こんなにレベル高いやつだったらえげつない進歩すぎんだろ」


「だ、だよな」


「………………」




 ふと花を見ると、どこか悲しそうだけど嬉しそうな顔をしていた。




「悪いな正午、今日生憎金を持ち合わせてなくてだな」


「マジかよー、ま、1人でも見るけど」


「相変わらずメンタル強すぎんだろ、まったく」


「で、映画って何見るの?もしかして、最近有名な何たらかんたらとかいうアニメのやつ?」


「「!?」」


「ほ、ほら、あそこの人たちもそれ見るみたいだからそうなのかなーって、あれって結構人気だし、『神アニメ』っていわれてたんでしょ?」


「「!?」」


「えっと……何か私変なこと言った?」




 俺と正午は、顔を見合わせて大きくため息を吐いた。そして、俺から説明することにした。




「あのな、花……その『神アニメ』って言葉、使い方間違ってるんだわ」


「どうゆうこと?」


「アニメの評価っていうのはな、作品の質だけで決まるわけじゃないんだよ。その作品を見ている人達、閲覧者っていうのか?俺らの中では信者って言うんだけど、その信者たちも評価に入ってくるんだよ。どんなに素晴らしい作品であっても、それを見ている信者のマナーが悪ければ、そのアニメは『ゴミ』という評価になってしまう。言う所の民度が低い作品になってしまう。例え、どれだけ多くの人に好かれていようが、どれだけ人気があろうが、その作品はゴミアニメ認定されてしまう。だから、本気で好きなアニメがあるのなら、オタクのルールを守って応援しないといけないんだ。他の作品を見もしないで侮辱し、自分の好きな作品だけを崇めたりするやつとか、人気だからと言って流れに乗って、その作品を崇めて、なんの知識もないのに他の作品を崇めている人、要するに俺らみたいなオタクを侮辱するようなことをしちゃ行けないんだよ。こういう奴らを俺らでは『キッズ』って呼んでんだけど、そういう信者の多い作品は、商業として売れていたとしても、どれだけ数字として売れが見えていたとしても、アニメとしては『神』にはなれないんだよ……」


「そ、そうなんだ…………でも、確かに言われてみればそうかもしれない」


「ご、ごめん……つい、熱くなっちゃった……」




 やべー、むっちゃ本音ダダ漏れだったはー最悪やーーー。




「う、うん」




 花ムッチャ困ってるし……。やっちまったな、話変えないと……




「ま、それはともかく、てなわけで正午、悪いけどまた今度な」


「え?マジで?ホントにバイバイなの………………またな」




 こうして、俺たちはそれぞれ別々の方向へと歩き出した。






「なぁ花、今日は何買いにきたんだ?」


「え?それ聞くの?」


「……そんなに聞いちゃダメなものなのか?」


「うん…………秘密で」


「りょ、了解」




 もしかしてのもしかしてみたいだな、買う時は、どこかに行っておくべきだな、きっと。




「早野くんはさ、何か買うの?」


「ん?そうだな……」


「もしかして、早野くん……お金無いのってホントなの?」


「いや、さすがにあるけど何買うか決めてなかったんだよなー」


「そういう意味の沈黙だったんだ」


「いや、そうじゃなくてさ」


「なに?」


「相変わらずここは広いなーと思ってさ」


「確かに広いよねー」


「まだ全然見れてないんだよなー。この広さだと数回じゃ無理だは」


「そうなんだ!私も全くって言うぐらいどこも回ってないかも」


「暇なら見に行こうぜ、一緒に」


「そうだね、ちょっと見に行こ!」




 俺たちは、行ったことのない所を割りと多く見て回った。


 てか、思ってた数倍広いな、店の種類とか尋常じゃないな。飲食店とひとまとめに言っても、イタリアンにフレンチ、中華、カレー屋、寿司屋、焼肉屋、ファストフードにカツ丼屋それから──。服屋も多いって言うか、有名店勢揃いじゃね?俺のよく行く店全部あるぞ?ユ〇ク〇、〇U、それから──。あと、ア〇〇イト、映画館、〇フト、T〇UT〇YA、〇タバ、スーパーもあるんだな……。うん、広すぎ。前見た時より増えてる気がするんだが……




「ねぇねぇ早野くん」


「ん?」


「そろそろ、買い物してくるね」


「あ、あぁ、分かった、終わったら〇SU〇〇Y〇前集合ってことで」


「うん、了解です!」






 一気に暇になったな。さすがに彼女じゃないし、ましてや地域1の美少女だしな。ここは気を使わないといけないだろ。




「あーー暇」




 そうだな……ちょっくら俺も買いものに行きますか。


 俺は、歩いてぬいぐるみが沢山売っている店に行った。


 何のためにきたのかって?確か、花の誕生日、もうすぐなんだよな〜。だから、プレゼントってことでなんかあげよっかなーって思ってるわけ。なんかアニメチックだろ?




(※アニメチックとは、ドラマチックをアニメに置き換えただけである。早野匠がかってに作って、ヲタク友達と話すときに使っているのである。)




「あ、このクマのやつ可愛い……のかな?てか、気に入ってくれるかな?」




 ま、そんな心配する必要はないか。飾るぐらいしてくれるだろうしな。




「すみません。これ下さい」


「5,800円です」


「はい」


「6,000円お預かりします。200円のお返しです。ラッピングはしますか?」


「あ、お願いします。それ誕生日プレゼントなんで」


「そうなんですか。きっとお喜びになると思いますよ」


「ありがとございます」


「はい、どうぞ」


「ありがとございます」


「ありがとうございました、またおこしください」




 ちょっと早いけど、今日渡そうかな?いや、ちゃんと誕生日に渡そう。その方が、サプライズ感が出るからな。






 あーだこーだ考えているうちに、集合場所に着いた。




「お待たせ、早野くん!」




 そう呼ばれて振り返ると……




「!?」




 なんとそこには、メガネをかけている美少女が立っていた。顔立ちは整っており、メガネ越しに見える瞳から、少しの恥じらいが伺える。




「は、花?」




 何なんだよ何なんだよ、やべぇ鼓動が早くなってる、これは反則だろ。美人はなんでも似合うとか、ずるすぎんだろ。アカン、心が揺らぐ……ってダメだ。俺には彼女の花蓮がいるんだから……てか、メインヒロインなのに花蓮の出番がない回多すぎないか?




「いつもはコンタクトなんだけど、ちょっと脅かそうと思って買ったんだけど……どう?変じゃないかな?」


「普通に似合ってると思うよ……ていうか、ぶっちゃけ可愛い」


「!?」




 花は顔を真っ赤にしながら




「あ、ありがとう」


「…………」


「…………」




 この沈黙やめてくれまじで、これは心臓に悪い。顔を赤らめて、上目遣いで見られたら、もうダメ理性が持たないかもしれない……気を確かに!早野匠!




「か、買い物は終わったのか?」


「う、うん」


「じゃ、じゃあ、そろそろ帰るか」


「そ、そ、そうだね。か、帰ろっか」




 やっぱりこの空気嫌だーーーーーーーーーーーーーー






「わざわざごめんね、家まで送ってもらっちゃって」




 ここは、俺の家から5分ほど歩いた所にある、とあるマンションのエントランス前。




「いいよいいよ、思ったより買ってたから男として荷物持ちぐらいさせて欲しかったし」


「ほんとにありがとう」


「じゃあまた明日な」


「うん、また明日」




 花がエントランスに入ったのを確認して、俺も帰路に着いた。


 にしても、やばかった。メガネ花と一緒に電車に乗ると、視線が2.5倍痛かった。ほんと、勘違いしないでほしい。俺はモテてるんじゃないんだよ、たまたま、市内1の美少女と買い物に行ってただけなんだよ。




「早く帰って風呂でも入るか」




 今日は少し肌寒いかもしれないから羽織れるものを持っていけって天気予報で言ってたのに……なんだよ、ムッチャくちゃ熱いじゃねえか。






ブー、ブー、ブー、ブー




「はいもしもし」


「匠ちゃん!げんき?げんきにしてる?」




 俺は、花と別れた後すぐに帰宅して、飯を食った。その後リビングで今日の余韻に浸っていたら、毎日恒例の母さんからの電話がきたという訳だ。




「はいはいげんきでーす」


「よかったわ、げんきならなによりよ」




 あーなんか母さんのせいで一気に冷えたはーー。ムッチャ風呂入りたくなったー。




「匠ちゃん、来週修学旅行でしょ?そろそろ準備も始めないとね」


「もうほとんど終わったよ、母さん」


「え?うそ!ほんとに!匠ちゃんたら成長したわね、グスッ」




 嘘だろ?なんで泣いてんだよ母さん……




「そういや匠ちゃん部活入った方がいいわよ!今からでもさ」


「…………まだ怖い」


「そっか。まだ痛んだりするの?」


「それはない。もう2年ぐらい痛みを感じてない。でも、心が……」






──中学二年の春の事だった。


 俺はテニス部に所属していた。


 チームのエース候補として、左利きをいかして頑張っていた。左利きなのはラケットだけで、鉛筆や箸などは右で使うのだが……。そんなそこそこ運動出来てた俺なのだが、そんな俺の華やかな人生を、一気に地獄に落とす出来事が起きる。


 春の大会、準決勝の試合に俺は勝利し、残すところあと1勝となった矢先に、隣のコートのミスボールが後頭部に直撃。打ちどころが悪く、俺は意識が無くなり倒れた。その後、救急車で近くの病院に運ばれたが、たいした傷では無く、1晩様子を見てから退院。


 しかし、不幸とは連鎖するものである。数日後の事だった。目眩がして、よろけてしまった俺は、車道に飛び出してしまい、ひかれてしまった。命に別状は無かったが、左腕を骨折。医者が言うには、左利きの俺にはテニスをすることは無理だと言われた。


  挫折した。と言うより、怖くなった。その日から毎晩のように夢に出てくる。生きていたくない。そう思うことも少なくはなかった。後から聞いた話だが、俺の左腕は関節がおかしな付き方に変わってしまい、どうすることも出来なくなってしまったらしい。言うところの複雑骨折というやつだ。そんな、悪夢に取り憑かれていたときに出会ったのが「アニメ」だった。アニメを見ていると、徐々に悪夢にうなされることも少なくなり、いつしか無くなっていた。だから俺はヲタクになったのだった。結果としては良かったのか悪かったのか。






「そっか、運動部に入れとは言わないわよ?さすがに」


「でも確かに部活入った方がいいよな……作るか」


「たしか匠ちゃんの高校なら3人以上で同好会、5人以上で正式な部活として認定されるんだったわよね、じゃあ人数集めからだけどやってみてもいいんじゃない?」


「そうだな。いい機会だしやってみようかな」


「頑張りなさいよ!お母さんはいつでも匠ちゃんを応援してるからね」


「ありがとう、母さん」






「部活か、どんな部活にしようかな?アニメ部?演劇部?ま、なんでもいいけど人集まるかな?花蓮は参加してくれそうだよな……たぶん」




 そんなことを考えているうちに、いつの間にか睡眠に入っていた、






 アニメチックだからという理由で、部活を作ることにした俺だったが、それは少し先の話になるということは、知る余地もなく。それよりも、来週の修学旅行に心を踊らせて、今日は眠りに着いた。

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