4話 中間テストで問題発生

──「ん?ここはどこだ?」


 そこには、どこか見覚えのある景色が広がっていた。


「海?」




 そこは、水平線が綺麗に見ることの出来るゴミのない美しい浜だった。


 そこには、1人の少女が立っていた。透き通った銀色で、艶のある長い髪。身長は、そこまで高くない。顔立ちは整っている。9歳ぐらいの少女。




「ねぇ、あなたは誰?」




 この優しく、温もりのある声。母親の声のような安心感がある。




「え、俺?俺は匠、早野匠」


「へー、匠くんって言うんだ」


「君は?」


「私?私はね……」






 ジリジリジリジリジリジリジリジリジリジリジリジリ




「ん、ん?」




朝か。というか、またこの夢か。最近よく見るんだよな、この夢。


どこかで見た事のある浜辺に立っている1人の少女、そして名前を聞かれて答えるんだけど、その少女に名前を聞いて、少女が答えようとしたら目が覚める。そんなことが最近よくある。




「何なんだろうな。この夢」




もしかして、予知夢?いや、それは無いか、だって見覚えあるし。






「お、おはよう匠君」


「お、おはよう花蓮」




相変わらずの少しぎこちない挨拶を交わした俺は……勉強に励んでいた。




『僕と勝負をしよう』




町田のあの挑戦に乗ってしまった。だからと言って負けるつもりは無論ない。俺は勝負事に負けるのが嫌いだ。どんな勝負でも全身全霊で戦う。それが俺のポリシーだった。




「早野くん勉強してるんだ」


「うん、そうなんだよ、もうすぐ中間テストだろ?だからな俺も高2だし受験にもそろそろ真剣に向き合っていかないといけないしな」


「そ、そっか。あ、あのさ早野くん……」


「ん?どうした花」


「勉強なら、私が教えてあげよっか?」


「え?まじで?トップ3常連の花に教えて貰えるとか勝ち確定じゃん」


「暇なとき教声掛けて、その時教えるから」


「おう!ありがとな花」


「うん!」




ガヤガヤガヤガヤ




「ん?なんだ?やけに外が騒がしくなったな」


「そうだね誰か来たのかな?」


「お、お、お兄ちゃん……」


「へ?お兄ちゃん?」


「風紀委員長が……花蓮ちゃんのお兄さん?」




「早野匠という男はこのクラスにいないか?」


「早野くんですか?いますよ。早野く〜ん、風紀委員長が呼んでるよ〜」


「え?俺?マジか怖いなー」




どういうつもりだ?俺にようって。もしかして花蓮の事かな?




「お前が早野匠か?」




 この人がこの高校の風紀委員長の岡田広樹おかたひろき。黒髪の短髪で黒の眼鏡をかけている、これぞ風紀委員長って感じの人だ。前々から思ってたんだけど、この人関わりにくい……




「はい、僕が早野ですけど」


「なるほど、あまり頼りがいのなさそうなやつだな」




いきなり侮辱とは、さすがに心が痛いは。




「酷いですね……先輩」


「まぁいい、今日ここに来たのは要件があるからだ」


「なんですか?」


「花蓮の兄として、お前を試しにきた」




まさかのドンピシャやないかい。




「と、いいますと…」


「お前が花蓮の、俺の妹の彼氏として相応しいかどうかを確かめる」


「具体的にいうと?」


「俺が考えるに、学力こそこの世の中において絶対的存在だ。だから、俺と勝負をしよう。俺が勝ったらお前には妹と別れてもらう」


「!?」


「お前が勝ったら認めてやる。今後口出ししないと誓う」




いや、似たセリフどっかで聞いたことあるぞ。いや、昨日聞いたは。




「メリットがない気がします僕に」


「何を言っている。家族に認めてもらわないでどうやってこの先やっていくつもりだ?これはチャンスだ。どうする?やるか?やらないか?」


「…………やります」


「分かった。では、今度の中間テストの総合点で勝負をしよう」


「分かりました」


「それじゃぁ健闘を祈るよ」


「………………」




「よかったの?お兄ちゃんと勝負だなんて、お兄ちゃん前回学年1位だよ?」


「受けざるを得なかったんだよ」


「そっか、頑張ってね!応援してる!私はあんまり頭良くないから何もしてあげられないけど……あ!」


「ん?」


「花ちゃんも呼んで、匠君の家で勉強会開こうよ!」


「勉強会か、いい案だな……ってなんで花?」


「え?だって花ちゃん賢いから」


「わ、私はいいよ!別に」


「じゃあ今日の放課後って事で……匠君いける?」


「あ、あぁ大丈夫」


「じゃあ決まりだね」


「でも、私なんかで大丈夫なの?あまり自信はないけど……」


「おやおや、お困りのようだね諸君」


「「「!?」」」


「どうもどうもワイは高畑健斗や」


「高畑君?」




 高畑健斗たかはたけけんと。同じクラスで、テストでは常に500点をたたき出し、学年トップを降りたことがない天才だ。背が低く、メガネが特徴的なその顔は、学校では知らない人なんて一人もいないほどの有名人だ。




「健斗が俺に教えてくれんのか?」


「そういうわけや」


「マジで?いいの?」


「かまへんかまへん、特に何かを取るとかはないから安心してくれたまえ」


「じゃ、決まりだね」






 そして放課後、早野家。




「相変わらず割と広いんだよな〜匠の家は」


「なんで上村がいんねん。私らだけやと思ってたのに」


「いやいや陽菜ちゃんそれはお互い様やろ?」


「そうだ康晴、お前よくわかってんじゃねぇか」


「あ、匠。今日りせはパスだってさ」


「おい聞いてんのか、おい」




 こいつは後で締めとくか、うんそうしよう。てか、りせにも声掛けたのかよ……パスか、そうだよな〜




「お、お、お邪魔します。早野くん」


「匠君の家って綺麗だね」


「新築だからね、まだ立ったばっかりみたいだからな、このマンション」


「そうなんだ」




 なんやかんやいって、康晴以外は俺の家上がんの初めてなのか。片付けといてよかったは、まじで。






「ちゅうわけで、この問題やけど、ΔXを計算して…………」




 健斗の説明って分かりやすいな。なんか的確以外の何物でもない。さすが学年トップの天才。ここまでの差があるとは……




「ありがと、だいぶ分かってきたよ」


「お役に立てたなら光栄ですは」


「うん、この勝負なんとしても勝たなくてはならないから、ありがとう」


「ようやくワイに張り合えそうなやつが出てきたんや、気にせんでええ」




 天才にも苦労はあるんだな。張り合えないっていうのも辛そうだな。


 風紀委員長と学年1のモテ男、こんな化け物達と戦うわけだが……弱音なんて吐いてる暇はない、勝つ。ただそれだけの事だ。何としてでもだ。




「ところでさ、一旦勉強休憩にしてさ、恋バナでもしようぜ」


「おい!康晴お前俺の邪魔しにここに来たのか?今すぐつまみ出すぞおい!」


「花蓮ちゃんと匠って今んとこ上手くいってんの?」


「へ?私たち?私たちは……」


「お前たちは割と順調だよ」


「へー、そうなのか」


「花ちゃんは?好きな人とかいんの?」


「上村、それは……」


「私はあんまり順調じゃないかな」


「え?花って好きな奴いんの?」


「へ?えーと、うん。いる」


「そうなんだ、まぁ花なら誰でもなんとでも出来んだろ!頑張れ!応援してるから」


「…………うん」




「花……無理したあんからな」


「うん、大丈夫陽菜ちゃん。ありがと」




 でた、女子の大好きなこしょこしょばなし。これめっちゃ気になるんだよな




「で、陽菜ちゃんは?」


「え?私?私は特になんもないかな、恋愛には興味あるんやけど、相手がおらんねん」


「そっかー。みんなそれぞれあるって感じなんやな」


「ワイには聞いてくれんのやな」


「だって、どうせおらんねんやろ?」


「せやけどやな、流れがあるやろ」




 誰も聞かないから、俺も聞かないけど、あいつは自分についてはひとつも語らなかった。これが、あいつのやり方だから、つっこむつもりもないけど、ちょっと気になるな。康晴の好きな奴。






 そんな感じで楽しい時間はあっという間に過ぎ、時計の針は、19時を指していた。




「もうこんな時間だな」


「うわ、ほんとだ」


「じゃあそろそろ帰ろうかな」


「そうだね、じゃあ今日はお開きってことで」


「おう!じゃな、みんな」


「うん、ばいばい」


「ほな、また明日」


「またね匠君」


「早野くん、お邪魔しました」


「ありがとね早野」


「じゃあな匠」




 俺は、静かになった部屋の片付けをしながら、もう一度決心した。


「やっぱり何があっても負けてはいけない」と。






 今日は、中間テスト当日。本当に1日って24時間なのか疑うぐらい早かった。けど


 その分濃い時間を過ごせた。あとは、全力を尽くすだけ、か。




「おはよう匠君」


「おはよう花蓮」




 あの日以来、挨拶がぎこちなく無くなったという事はさておき、今は勉強をしよう。最後の悪あがきもしたらしたで効果あるかもしれないから。




「それじゃ、試験を始めるよ〜。1時間目国語よーい始めー」






 ■ ■ ■








「終わった。この勝負、負けた」


「え?嘘。どうして?匠君あれだけ頑張ってたのに」


「数学、1問解けなかった……」


「まだわかんないよ!まだ何があるかわかんないよ!」


「そうだね……結果発表を待つしかないね」


「ちなみにワイは満点の自信以外ないけどな」




 相変わらず健斗は化け物だ。だか、俺も今のところは1問のみ。割と接戦だったかもしれないな。






1週間後、テストの結果発表当日。




「おはよう匠君、いよいよ今日だね 」


「おはよう、うん。いよいよ今日だよな、まぁあんまり緊張してないんだけどな」




 俺たちは、2人で張り出してある順位表を見に行った。




中間テスト順位表




第2学年


1位 高畑健斗 500点


2位 早野匠 498点


3位 伊藤花 495点


4位 田神陽菜 484点


5位 豊嶋ルン 479点


6位 町田晴也 473点



59位 上村康晴 388点


60位 東川りせ 382点



120位 岡田花蓮 295点



239位 新宮一希 173点


240位 門田正午 39点


第3学年




1位 飯田桃子 500点


1位 和泉初音 500点


3位 岡田広樹 497点


4位 東盛愛 463点


5位 節木吉野 458点



239位 椎名朱音 213点


240位 小野虹 31点






「あ、俺2位じゃん」


「私は何故か知らないけどずっと120位なんだけど」


「勝ってる」


「そうだね、勝ってるね」


「よかったー、まじで緊張したー」


「なんとかクリアだね」


「まさか私まで負けるとは思はなかっまたよ早野くん」


「俺もびっくりしたは」


「2位か、なかなかやるやないか、今度はワイを越えてみ、というか追いついてみ、いつでも満点で待っとるから」


「おう!いつでまでも待っといてくれ」




 やっぱり健斗は良い奴なんだよな、頭いいけど鼻にかからないし。




「それにしても生徒会長と副会長、いつもはそれとお兄ちゃんだけど、頭いい人揃いだね、あんなにおちゃらけてる生徒会長も、テストでは別人みたいだし」


「そうだよなー、あんなけ奇抜な発想してるし、頭いいのは分かるっちゃ分かるけど……」


「あっ!」


「ん?」


「どうやらお前の勝ちのようだな早野」


「ふ、風紀委員長……」


「どうやらお前は俺の思っている以上の男のようだな。花蓮を託しても大丈夫そうだ」


「え?お兄ちゃんどうゆうこと?」


「あぁ、今回早野が俺に負けたら別れて貰うよう言っていた」


「!?」


「だが、心配するな。この男はとてもいい男だ」


「当たり前じゃない!だって私が選んだ人だよ?」


「まぁな、心配する必要もなかったかもな」




 これで、ひとまず一件落着ってことだな……ん?何か忘れているよな…………






 放課後、とある教室




「君の勝ちだね匠君」


「町田……」




 そういや、町田との勝負をわすれてた。だいたい進学校でもないのに勉強ガチ勢多すぎだろ。と言うのが素直な気持ちだね!




「約束通り、今後一切君には口出ししないよ」


「あ、あぁ」


「楽しかったよ匠君」


「そうだな、確かに俺も楽しかったよ」


「僕もまだまだのようだね」




 ハハハと笑いながら言っている町田だが、どこか不自然だ




「なぁ町田」


「なんだい匠君?」


「お前の素はどっちだ?」


「どういう意味だい?」


「その透かしたクールなのか、真っ黒に染まったほうか」


「そんなの決まってるじゃないか」


「……」


「どちらも僕だよ」




 本気で言っている。ただそれだけは分かった。蔑むような目で、どこか遠くを見ているような目で、俺を見ている。教室の窓から差し込む夕日が反射している目は、まるで闘志のように燃えていた。こいつの過去は知らないが、花の話になった時だけ黒になる。これがどういう意味を示すかは分からないが、おそらく、昔花となにかあったということだけは分かる。


町田晴也……、どこまでも謎に包まれた男だ。だが、興味はないし、これ以上の深追いは、タブーだろう。




「それじゃぁね、匠君。君とはまた縁がありそうだよ」


「それだけはごめんだよ」




俺たちは、それぞれ違う方向に歩き出した。






「は、早野くん!」


「何?花」




 翌日の放課後、突然花が話しかけてきたので、少しだけ視線が痛い……




「テストも終わった事だしさ、もうすぐ修学旅行あるでしょ?」


「あるけど……それがどうかしたのか?」


「準備もそろそろ始めないといけないしさ、買い物付き合ってくれない?」


「ん?いいぞ」


「!?」




 なんでそんなに驚いてんだ?てか、なんか俺変なこと言ったか?いや、言ってないよな……じゃあ、なんでだ?俺の顔そんなに変なのか?




「は、早野くん、彼女いるのにそんなにあっさりしてていいの?」


「え?だってさ、買い物に付き合うだけだろ?それの何が悪いんだ?」




 そんなことで咎めてくるような彼女じゃないっての。てか、そんなやつの方が少ないと思うしな。まぁ、最悪一緒に行けばいいけど




「そ、そうだけど……2人だけだよ?で、デ、デートだよ?」




 あーなるほど。それを気にしてたのか




「そんなの気にしない気にしない、花だし心配はしてないよ」


「そ、そっか。じゃあ今週の日曜日っていける?」


「うん、大丈夫」


「じゃあ、また明日」


「おう!またな」




 また、デートか。今度は誰かに尾行されてないか注意しとかないとな。






 こうして、花とデートにいくことになった俺だが、この日には大事な予定があったことを俺は当日に、しかも目的地に着いてから、気付かされるのであった。

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