第4話 えちがダメなら・・・・・・。


 佐々木はシフトに入る度に、隙あらば俺に迫ってきた。

 それは酷く俺を困らせたが、嫌な気はしなかった。むしろこんなに可愛い娘に好かれるのは嬉しかった。


 だけど、立場というものがある。

 俺は、佐々木と一定の距離を保つ事に尽力し続けた。




 しかし、肝心な事を、すっかり佐々木に聞きそびれていた事に気がついた。



 俺は2人きりになれるタイミングを見計らって、佐々木の休憩時間を設けた。



「ここでも働いてるのに、どうしていきなり風俗なんか始めたんだ?何か特別な事情でもあるのか?」


 佐々木は俯いた。


「親が離婚する事になったんです。

 今まで私、ずっと実家暮らしで。

 父か母か、どっちと暮らすとか選べなくて。

 20歳超えてるから、親権とかの話もないから余計に気まづくて。


 だから、一人暮らし始めようと思ったんです。

 両親共働きなんですけど、この離婚協議含めて、それぞれお金に余裕がある訳じゃないと思って・・・・・・。それで自立する為に、少しでも稼ぎのいいバイトしようと思ったんです」


「・・・・・・そうだったのか。」


 佐々木の事だから、ブランド物のバッグが欲しいとか贅沢したいとか、そんな事じゃないだろうとは思ってたが、そんな事情があったとは。


「それは、辛かったな」


 健気に頑張ろうとする佐々木の姿に、俺はうまく言葉が出なかった。

 あの日、デレッデレで勃起した自分が、今更ながら情けなくなる。


「何か、俺に出来る事はないか?」

「え・・・・・・」

「相談に乗るとか、困ってたら飯だって食わせてやれるし。お金はあんまり多くは持ってないけど、それでも」

「マジで、言っていいんですか?」

 佐々木は澄んだ瞳で、俺を見つめた。


 俺は、覚悟を決めた。


 佐々木に出来る支援は、何でもする。


「ああ。俺に出来る事なら」


「じゃあ、えっちしてください」

「それは断る」

「はーんっっ!!!!」


 まったく、油断も隙もありゃしない。


 間髪を容れずに俺が断ると、佐々木はぐにゃりと机の上に突っ伏した。


 そもそもイケメンでもなんでもない中年男と、えちがしたいとごねるなんて、頭のネジをどっかに落っことしてきたとしか思えない。


「佐々木、俺は真剣なんだ。冗談は辞めてくれ」


「誰も冗談なんて言ってません」

 佐々木は、じとっとした目で俺を睨みつけた。


「じゃ、じゃあ、えっち以外」


「うーん・・・・・・。」


 佐々木は、しばらく考え込んだ後でいった。


「わかりました。えちがダメなら、デートしてください」


「デート?!」


「相談のって、ご飯奢ってくれるって、さっき言いました!

 お話して、ご飯して、それって立派なデートです!!」


「そう言われればそうなんだけど・・・・・・。」


 言い淀んだ俺に、いきなり佐々木は抱きついた。


「・・・・・・え?!」

 俺は固まった。


 佐々木の柔らかい胸が、俺の身体に押し付けられている。

 甘く、いい匂いがした。


「店長が、私とデートしてくれるって約束するまで、私離れませんから!」


「なんだそりゃ!」


 廊下から、人が近づいてくる足音が響いてきた。


「あ、誰か来ちゃう・・・・・・。

 店長、どーしますか?」


 佐々木は上目遣いで、いたずらっぽく微笑みかけてきた。


 辞めてくれ。

 そんな破壊的に可愛い笑顔を、俺に見せるなよ。

 これ以上、俺を困らせないでくれ。


 空気の読めない俺の息子は、どんどん熱くなってくる。

 俺は、ぐっと堪えた。


 何も言えない俺を見兼ねたのか、佐々木は不意に俺の手を掴んだ。

 そして、それをゆっくりと自分の胸に近づけていく。


 揉ませるつもりか?!

 コイツ、マジで手段選ばねぇのかよ!


 気がつくと、俺は赤面しながら叫んでいた。


「わ、わーたわーた!!

 するよ!デートする!すりゃいいんだろ!!!」



「やったーっっっ!!!ついにー!!!!」


 佐々木は俺に抱きついたまま、嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねた。


 やったーって・・・・・・。

 子供みたいに無邪気にはしゃぐ姿に、俺は複雑な気持ちになった。


 俺なんかとのデートが決まり、こんなに大喜びしてくれるなんて。

 そりゃ俺だって、本当は嬉しい。


 だけど、これでいいんだろうか。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る