第3話 同一人物?!


 あの、体験入店ぽっきりで辞めてしまった美少女アイカちゃんが、今目の前にいるアルバイトの佐々木だと?!


 俺は、喉の奥までカラカラに乾ききっていた。


 佐々木もたしかに可愛いらしい顔立ちだったが、アイカちゃんとは印象がまるで違った。


 アイカちゃんは、ふわふわの腰まで伸びたロングヘアだったが、佐々木はこざっぱりしたショートヘアだった。


 声も喋り方も違う。


 体育会系女子のような印象の佐々木と、女の子らしさの塊のアイカちゃんは、別人としか思えなかった。


「絶対嘘だろ・・・・・・。ほら、髪型とか全然違うし」

「あれは、ウィッグです」

「声も違う」

「ぶりっ子かましました」


 佐々木は、コホンと喉を鳴らすと、

「はじめまして、アイカです♡」

 マジであの時のアイカちゃんと同じ声、同じトーンで再現して見せた。


 頭が真っ白になった。


「なぁ、佐々木」

「はい」

「ちょっと、トイレ・・・・・・。」


 どうしていいのか分からなくなった俺は、トイレへと逃げた。


 〇


「ねぇ、店長どうして逃げるんですか?!話はまだ終わってませんよね?!」


 終わっていないと言えば、終わっていない。

 あの面談以来、俺は佐々木を避けていた。



「あの日から、店長の事が頭から離れないんです!」


「なぁ、佐々木。俺につきまとうのは辞めてくれ。もう、この話は無かった事にしよう。

 いいか?あの日の事は、俺達だけの秘密だ。

 それがお互いの為だ」


 俺は、佐々木の肩をポンと叩いた。

 佐々木は、悲しそうな表情を浮かべた。


「もしかして私の事、汚いとか思ってます?」

「いや、そんな事は・・・・・・」

「私、あれっきりで店辞めたんです」

「うん、知ってる」

「え?」

 佐々木は、まじまじと俺の顔を見つめてきた。

 俺は、恥ずかしさのあまり目を逸らした。


「辞めて、よかったと思うぞ。あそこで起きた事は、早く忘れた方がいい。それに、もっと自分を大事にしろ」

 俺は、店長の立場として大人っぽく振舞った。

 しかし心の中では、自分に言い聞かせていた。


 アイカちゃんは、死んだ。

 もうこの世にはいない。

 佐々木とは、別人だ。


「どうして、私が店辞めたか知ってます?」

 佐々木は、上目遣いで俺を見つめた。


「それは、俺に身バレすると思ったからだろ」

「そんなんじゃないです!」

「お、俺とそーゆう事するのが気持ち悪かったから、、とか」

 だとしたら、ちょっと傷つく・・・・・。

「違います!」

 佐々木が速攻で否定してくれたので、俺はそっと胸を撫で下ろした。


 佐々木は瞳を潤ませ、ギュッとエプロンの裾を掴みながら言った。


「店長、あの時すごく優しくしてくれたじゃないですか!

 話す時も、触り方だって。キスも凄く柔らかくて・・・・・・。


 今まで付き合ったどの男の子より、私のこと大事にしてもらえた感じがしたんです。

 それに、あの、お仕事だったはずなのに、私凄く感じちゃって・・・・・・。私ったら、ほんとダメですね」


 佐々木は、恥じらうように頬を赤く染めた。


「私、元々店長の事、いいなーって思ってたんです。お仕事出来るし、頼りになる大人って感じで。

 だからあの時、余計にキュンってしちゃって。

 それで、もう店長以外とえっちしたくない!って思って・・・・・・。即効辞めました!!」


「ええええええええええ」

 これ、なに?告白なの?!


「店長、もうあんな店に行っちゃダメです!

 もし行きたくなったら、私を使って下さい!

 てゆーか、ふつーに、私とえちさせてくれませんか?!」


 ストレート過ぎだろ!!!!

「お前、曲がりなりにも女の子なんだから・・・・・・」

 俺は、爆走する佐々木を落ち着かせようとした。

 それでも佐々木は食らいついてきた。


「あのえちが、忘れられないんです!!

 私、店長がその気になるまで、絶対諦めませんから!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る