城壁前ーお猫様との別離
かわいらしく人間臭い猫について歩いて5分、あれだけ遠かった地平線の先が今目の前にある。
大きな門だ。ゲームの城壁みたいな。
少し離れたところには人の列も見える。城壁ってことはあれが入り口だろうか?何はともあれ人―らしき影―がいるってことは食べ物やなにがしかがあるはずだ。あとは言葉が通じるかどうかだが、最悪ジェスチャーでどうにかなるだろう。異端として排除される可能性もあるが、形がよく似てるものに突然暴力をふるうことはない、だろう。ない、はずだ。
「猫様、ありがとうござっ、てあれ?」
とりあえずここまで連れてきてくれた猫にお礼を言おうとしたがさっきまで足元にいたはずなのにいない。パッとあたりを見渡したが見当たらない。
「お猫様ぁ~」
気ままな猫だからしょうがないが、一気に心細くなる。
元が野良猫なんだ探してもしょうがないのは重々承知ではあるがみっともなくはいつくばって周囲の物陰などを探してみる。
まぁ見つからない。情けないが半泣きになった。いやいや、しょうがない。だって俺は一人前の男になる直前の17歳。あと数時間とはいえまだ17歳だからな!まだ子供といっても過言ではない、はずだ。
「どうした兄ちゃん」
心細く半泣きになっていたら突然声をかけられた。
「ひゃいっ!」
驚きすぎて甲高い声が出た。半泣きなのも相まって恥ずかしい。今度は羞恥で涙が出そうだ。
「どうした、財布でもなくしたか?」
しゃがみこんだ俺に合わせてしゃがみこんでくる気配を感じる。
にしても、言葉がわかる、な?こちらの言葉も通じるか?
「い、いえ…っ大丈夫」
振り返ってみるとガタイの良いおっさんが心配そうに俺を見ていた。服装は俺と変わらない感じである。似ても似つかないがなぜか親父に重なって見えた。年が近いからだろうか。朝顔を見たばかりなのにひどく懐かしい。
「お、おい!なにも泣くことないだろ?どうした?財布に大事なもんでも入ってたか?」
振り向いた瞬間に目にたまっていた涙が落ちたようだ。けして親父が懐かしくて泣いたとかではない、はずだ。
それにしてもいいおっさんである。見ず知らずのガキに声かけて、しかも突然泣き出したにもかかわらず立ち去る様子もなく声をかけてくれる。この人にどうにか城壁内に連れて行ってもらえないだろうか?
「猫が…」
「ネコ…?」
ってちがうっ!なにおっさんに言うつもりだったんだ俺ぇ!猫とはぐれて心細いですって馬鹿正直に言うつもりか?!いくら何でもそれはないだろ。さすがに恥ずかしすぎるだろ!
「いや、ちがっ…」
「ネコってのが連れか?なんだ連れにおいてかれたのか?それとも…だまされたのか?」
「……」
なんかとても都合よく勘違いしてくれている。いや、でもさすがに猫を悪者にするのは気が引ける。
「ちが、違います。猫は俺をここまで連れてきてくれて…」
「あぁ、分かった分かった。お前さんがそいつを信じたいのはわかった。とりあえずこのままだと目立つから立てって。」
そういっておっさんは俺の腕をとって立ち上がらせた。一瞬このままどっかに連れていかれるのかとも思ったがそんなこともなくすぐに腕は離された。
「ありがとうございます。」
「で?兄ちゃんはなんでこんなとこでしゃがみこんでたんだ?ヘキサの街になんか用事か?」
「ヘキサの、街」
「うん?街の名前も知らなかったのか?ヘキサの街ったら今年一番盛り上がってんだろ?観光かなんかできたんじゃねぇのか?」
至極不思議そうにおっさんは俺を見ている。どうする?記憶喪失の振りでもするか?いや、どこでぼろが出るかわからないしド田舎からやってきて常識がないってことにでもするか。
「いや、観光のつもりだったんだけど。街の名前までしっかり覚えてなかったんだ。」
「おいおい、それでどうやってここまで来たんだよ…」
ごもっとも
「俺の生まれたとこ、めっちゃド田舎で。数か月に一回旅商人が来るんだけど、その人たちが今年はどっかででかい祭りみたいのがあるからって言ってたので途中まで連れてきたもらいました。」
「その旅商人ってのはどうした?」
「途中の街でも商売あるから人生経験もかねてそこからはひとりで」
「っはぁ。おまえなぁ。名前も知らない街にどうやって来るつもりだったんだよ」
「その人たちにも言われたんですが、多くの人が動く方向に行けばいいかなって。それに俺、この街に興味があったってよりは外の世界を見てみたかったってのが本音で…」
かなり苦しい言い訳だよな…俺がおっさんの立場でもちょっと信じられない。
「なるほど?まぁなんか訳ありなのは分かったけどよ…」
どこまで人がいいんだこのおっさん…
いや、この人にもなんか後ろ暗いこともあるのか?
「まぁいい。俺たちもこの街に用があるんだ。何ならお前も一緒に行くか?その形なら大した金も持ってねぇんだろ?ヘキサの街に入るにはそこそこの登録料がいるぜ。」
どうする?人は良さそうだが、なんとも胡散臭い。だが、ここでこの人たちについていかないと街の中に入るのはとても難しいだろう。
「登録料っすか?ちなみに。いかほど…」
「あぁ。いつもなら300。今年は特別だからな1200って聞いたぜ」
4倍…繁忙期のホテルでもそんなに暴利な金額設定しないだろうに。
そんな気持ちが顔に出ていたのかおっさんに笑われた。
「ははっ。お前顔に出すぎだろうがよ。まぁしょうがない。金額を高くすることで浮浪者やならず者なんかをふるい落としてんのさ。あまりに有象無象が入ってきても大変だからな。」
なるほど?
「んで?どうする?一緒に行くっていうなら少しばかり手伝ってほしいことがある。」
なるほど、やっぱりなんかあるんだな。
どうする?このままおっさんの手伝いをするってのもありだが…人殺しや盗みなんかはしたくねぇし。
「だから、お前顔に出すぎだって。心配すんな、別に人殺すわけでもなんか盗ませるわけでもねぇよ」
「ま、兄ちゃんが街の中に入りたいっていうなら断るのは悪手だと思うぜ?」
おっさんの言う通りだ。どっちみちこの意味不明な状況の中で正解なんてわかるわけない。なら流れに任せるのがいいか…
「俺はハヤト。おっさ…あなたは?」
「ハヤト、な。おっさんでいいぜ。俺はガーゼスってんだ。どこまでの付き合いになるかはわからんがよろしく頼むぜ。」
改めておっさんの顔を見る。やはりどこか親父に雰囲気が似ている気がする。とりあえずはこの街の中に入るまで、んでできるだけこの世界の情報を手にいれねぇとな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます