第5話 『おれ』と『おれ』、『絶対神』と『大神丹次郎』
今度こそ、さすがに今度こそ平和が訪れた。
なんと言っても俺は全ての世界、つまり全宇宙を支配する『絶対神』であるからして、もはや歯向かう者などいようはずがなかったのだ。
ようやく腰を落ち着けることができた俺は、神なる庭『ヴァルハラ』にて2人の超越進化嫁と心行くまでスローライフを堪能した。
「はははっ、こいつぅ」
「もうオーディン様のえっちー」
「お前が可愛すぎるのがいけないんだぞぉ」
「ちょっとオーディン、私のことも見てよね!」
「はははっ、悪い悪い」
そうして安らかなる時間が100万年ほど過ぎたころ、超越進化嫁の1人『煉獄の炎柱嫁』が亡くなった。
何かあったという訳ではない。
いかに超越存在になったといえども、『絶対神』である俺と違って永遠の命を持たない彼女に与えられた天寿を全うしたのだった。
「あんたと出会えてよかった――ありがとね、オーディン」
その言葉を最後に息を引き取った『煉獄の炎柱嫁』を看取った俺は、あまりの喪失感に心にぽっかりと大きな穴が開いてしまったようだった。
しばらくは何も手につかなかった。
そしてそれから少しした後、『煉獄の炎柱嫁』に続くようにして、今度はもう1人の超越進化嫁『エルフの大天使嫁』もその生を全うしようとしていた。
「オーディン様、あなたと出会えて幸せでした。思い残すことはありません。願わくば、生まれ変わったらもう一度オーディン様と出会うことができますように」
『エルフの大天使嫁』はそう言って優しく微笑みながら亡くなった。
俺はまた1人になってしまった。
それからの俺は、何をするでもなくただひたすらに孤独の日々を送っていた。
もちろん『絶対神』である俺の側に新たに
だけど俺はそれらを全てシャットダウンした。
俺の心はもう、2人の超越進化嫁たちの思い出でいっぱいだったから。
俺にはもう、それ以外の何かなんてこれっぽっちもいらなかったから。
『絶対神』となってからのスローライフは本当に楽しかった。
だけどそれは2人の超越進化嫁がいたからこその、楽しい楽しいスローライフだったのだ。
俺はそのことを今さらながらに痛感していたのだった。
それからの俺はほとんどの時間を1人で過ごすようになった。
そして1人の時間を過ごすようになったことで、遠い遠い昔に同じような感情を抱いたことを俺は思い出すようになっていた。
まだ地球という世界で人間をしていたころの、頭の片隅にほんのかすかに残る記憶の欠片だ。
ところで実のところ『絶対神』の俺に時間という概念はない。
100万年とかいっているのはあくまで人間時間に換算したものに過ぎなかった。
そして時間の概念がないということはつまり、過去・現在・未来という時間の流れが存在しないということであり。
俺にとって現在は過去でもあり、同時に未来でもあった。
俺は『絶対神』オーディン、この宇宙そのものである。
そんな俺がなんとなく懐かしくなって遠い過去の地球を覗き見るのは、だから造作もないことだった。
遠い記憶に誘われるようになんとはなしに過去の地球を眺めていると、
なんの変哲もない平凡で冴えない男だ。
そしてそれはかつての俺だった。
どこにでもある平凡な人生を送っている大神丹次郎の人生を覗き見ながら、俺はふとあることに気がついた。
「大神丹次郎が歴史を繰り返せば、『俺』はもう一度あの2人の嫁たちとスローライフを送ることができる――」
しかし大神丹次郎はどうしようもなく平凡かつ凡庸な男であり、それに見合った当たり障りのない平穏無事な人生を全うすることになっていた。
これはいけない!
大神丹次郎には何が何でも俺と同じ人生を送ってもらわなければ!
俺はすぐに大神丹次郎の人生パラメータに手を加えることにした。
人ひとりの人生に介入するくらい『絶対神』の俺には余裕のよっちゃんだ。
俺が与えた人生パラメータは『およそ日本とは思えないどうしようもない悲惨な人生』。
そのパラメータに導かれるようにして大神丹次郎の平凡だけど幸せな人生は一転。
嫁に裏切られ、娘に嫌われ、最後はおやじ狩りにあって死ぬという悲惨な転落人生を送っていく。
そして俺の筋書き通りに異世界に転生した大神丹次郎は、俺の力を一部封じた最強チートスキル『グングニル』を手にし、最愛の嫁たちと再び出会うことになったのだ――。
「厳密には『
そして『
2人の超越進化嫁が亡くなってからずっと空虚だった俺の心が、一気に華やいだ気がした。
年甲斐もなくウキウキしていた。
さぁぐずぐずしてはいられないぞ。
最後の仕上げ、『ラグナロク』の準備をしようじゃないか!
「『
神々の饗宴の幕開けだ――!
「『
ああ、その時が待ち遠しい――!
「【☆彡】ラグナロク【☆彡】異世界転生」 完
【☆彡】ラグナロク【☆彡】異世界転生 マナシロカナタ✨2巻発売✨子犬を助けた~ @kanatan37
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