最終幕「繋ぐ」

第35話 花色のリボン

○高校(放課後)


   一ヶ月後。

   雪かきしたグラウンドで部活をしている運動部。

   3階の窓に補習中の三年生が見える。


○同・教室(放課後)


   黒板に『補習』の文字。教卓には北美原。

   補習を受けている生徒の中に詩歌。

   その隣りに一華がいる。


○同・昇降口(放課後)


   白い息を吐きながら、マフラーをした一華と詩歌が外に出て来る。


詩歌「今日も行くの?」

一華「うん」

詩歌「そっか…」


   と、後ろから麻衣が追いかけて来る。


麻衣「詩歌ぁー予備校遅れるよ」

詩歌「あ、うん(一華に向かって)ゴメンね、週末には顔出すから」

一華「うん」


   行ってしまう詩歌。

   その背中を少し寂しそうに見送る一華。


○病院・廊下(夕方)


   歩いている一華。

   視線の先に『高丘蒼志』と書かれた病室。

   ゆっくりと中を覗くと、蒼志の母・恵子がいる。

   咄嗟に隠れてしまう一華。

   どうしようかと迷っていると物音を立ててしまう。


恵子「一華ちゃん?」

一華「……(おずおずと顔を出す)」


    ×     ×     ×


   ベッドの横に並んで座っている一華と恵子。

   蒼志はベッドの上で医療器具に繋がれ眠っている。

   気まずい沈黙。


恵子「あの時と一緒ね。また無茶な事して」

一華「……」


    ×     ×     ×


   中学時代。

   ビームを受けて病院に担ぎ込まれる蒼志。

   恵子が泣きながら呼びかけている。

   (フラッシュ)


    ×     ×     ×


   深いため息を吐いた後、話し始める恵子。


恵子「おばさんね、いつも思うの。一華ちゃんが幼馴染じゃなかったらなって。そしたらこんな無茶な事しなかっただろうになって……」

一華「……」

恵子「この子じゃなくても、一華ちゃんなら心配してくれる人たくさんいるでしょ?」


   黙ったままの一華。

   口を固く結んで少し俯いている。


恵子「一華ちゃんの事になると、ご飯も食べないで没頭するし。心配通り越して呆れちゃうわ本当……」


   少し冗談っぽく言った後、顔付きが変わる。


恵子「この町を守ってくれてる事は感謝してる。この町に住む人にとって欠かせない存在だって事も。もちろん、全部わかってる……」

一華「……」

恵子「けど、私はあなたが憎い。嫌い、大っ嫌いよ……あなたなんて」


   俯いたままスカートをギュッと掴んでいる一華。

   そんな一華を少し見た後、蒼志の顔を見る恵子。

   その目が少し優しくなる。

   そして、蒼志の頰をそっと撫でる。


恵子「けど、何でかな……? この子が目を覚ました時、一番側にいてやって欲しいと思うのはあなたなの……」


   両手で顔を覆う恵子。


恵子「ごめんね、一華ちゃん。おばさんを許して……」

一華「……」


   眠っている蒼志を見つめている一華。

   その頬を涙が伝っている。


○病室の窓から見える雪


   空から降る雪。その空が晴れた空に変わる。


   (回想へ)




○小学校(回想)


   いつかの運動会。

   運動会が終わった後、落ち込んだ様子で一華(7)が昇降口から出て来る。

   そこに愛華まなかの声。


愛華「一華ぁ」


   振り向くとポニーテールをした愛華。

   少し笑いかけるが、またすぐに俯いてしまう一華。

   愛華が一華の所にやって来てしゃがんで話しかける。


愛華「よく頑張ったね」

一華「何も頑張ってない……」


   俯いたままの一華。

   袖口で隠した手が見え、顔にかいた汗を拭う。


愛華「ほらもう。暑がりなのに長袖なんか着てるから」


   そう言って愛華が手を取ろうとするが、一華はさっと引っ込める。


一華「ダメ。ビームでちゃうから」

愛華「……」


   袖を伸ばして手を隠す一華。

   それを見て少し寂しそうに微笑む愛華。

   すると、ポニーテールにしていた髪を解き始める。

   不思議そうに見ている一華。


愛華「手、出してごらん」


   言われて仕方なく袖口から手を出す一華。

   すると愛華が、髪を留めていたリボンを一華の手首に巻き始める。


愛華「これね、結婚する前にお父さんからもらったの」

一華「……」


   2人の後ろに一閃がいる。少し離れて2人を見守っている。

   その後ろの昇降口から詩歌(7)が出てきて一華と愛華に気づく。


   リボンを巻き終わる愛華。


愛華「ね?こうすると可愛いでしょ。みんなにも見せてあげなきゃだね」


   そう言ってニコッと微笑む愛華。

   一華の手首に巻かれたピンク色の可愛らしいリボン。

   同じ色の一輪の花があしらわれている。


一華「……」


   そのリボンを見つめている一華。

   まだ表情は暗い。

   一華の手を見つめながら愛華が話す。


愛華「凄いね、一華の手は。この手で、みんなのこと守ってるんだもんね」

一華「……」

愛華「でもね、お母さんだって凄いんだよ?ビームは出せないけど、ちゃんと守ってあげられるの」


   そう言うと、一華の手を取って握りしめる。


一華「あ」


   一華の手が反応。

   熱を感じて愛華の顔が少し歪む。

   が、愛華は手を離さない。


愛華「こうやってね、手を繋ぐと力が沸くの。誰かを助けてあげたり、助けられたりするの」

一華「……」


   手を握ったまま一華を抱きしめる愛華。


愛華「みんなを守ってくれる一華を守るのが、お母さんの役目だから」

一華「うん……(泣いている)」


   2人を見ている一閃と詩歌。


   一華の手はもう反応していない。


   (回想終わり)




○病院・病室(夕方)


   蒼志の手を握っている手(両手)

   その手首には少し色あせたリボンが巻かれている。

   リボンにあしらわれている同じ色の一輪の花。


   蒼志の手を祈るようにして握っている一華。

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