第36話 塩辛の約束

○山道(回想)


   いつかの遠足。

   山の中に2人だけでいる一華(6)と蒼志(7)

   一華の胸に名札が見え「ひかり いちか 6歳」と書いてある。


   一華は泣きべそをかいてる。


蒼志「ったく、はしゃぎ過ぎっからだろ?」

一華「(泣いてる)」


   足を擦りむいていて血を流している一華。


蒼志「お前、元気過ぎんだよ。色んなトコ行こうとすっから迷子になるんだろ?俺が見つけなきゃ大変な事になってたぞ」

一華「だって……」

蒼志「しゃあねえな。ほら、乗れ」


   そう言って一華の前にしゃがむ蒼志。


一華「……」


   蒼志をじっと見つめる一華。

   そして抱きつくようにしておぶさる。


蒼志「いてて、そんな思いっきり掴むなって」

一華「……(含みのある顔)」


   おぶさったまま、蒼志を見つめる一華。


一華「いちか、大きくなったら、そーちのお嫁さんになる!」

蒼志「は?急に何言ってんだよ」

一華「なる!」


   少し驚いている蒼志。けどすぐに笑って。


蒼志「じゃあお前、俺の塩辛毎日作ってくれんのか?」

一華「ちおから……?(何かよくわかんないけど)うん!」

蒼志「本当にわかってんのかお前?俺、味にはうるせえかんな」

一華「うん、頑張る!」

蒼志「よし!じゃあ嫁さんにしてやる」

一華「うん!」


   にっこりの一華。またギュっと抱きつく。

   また「いてて」と言ってる蒼志。

   そのまま暫く歩いて。


一華「そーち」

蒼志「ん?」

一華「ドコにも行っちゃダメだからね」

蒼志「は?そんなんあたりめーだろ?」

一華「約束だよ?」

蒼志「ハハ(笑って)なに言ってん…」


   と、蒼志の表情が急に固まる。

   ハッとして一華を見る蒼志。

   おぶさっていた一華がいない。


蒼志「一華?おい一華!?」

 

   辺りを見渡す蒼志。

   振り返ると、そこに現在の一華(18)が立っている。

   気づくと自分も現在の姿。


蒼志「……」


   またハッとする蒼志。自分の手を見る。透けている。

   そして、どんどんと透けていく蒼志の体。


蒼志「あ…あ…」


   一華が必死に何か呼びかけている。

   が、口が動いているだけで声は聞こえない。

   一華に向かって手を伸ばす蒼志。

   一華も蒼志に向かって手を伸ばしている。


   求め合う2人の手。が、届かない。


蒼志「行かねえ!ゼッテードコにも行かねえから!」


   遠のいていく叫び声。


蒼志「一華……一華ぁー!」



   (ホワイトアウト)





○病院・病室(現在)


   一華と詩歌が蒼志の病室にやって来る。

   と、ベッドに蒼志の姿がなく、看護師が片付けをしている。


詩歌「あの、すいません…」


   声を掛けると看護師は慌てたようにして病室を出て行く。

   その顔は泣いてるように見える。

   顔を見合わせる一華と詩歌。

   慌てて病室を出て、通りがかった別の看護師に尋ねる。


詩歌「あの、ここの病室の高丘蒼志なんですけど……」


   が、その看護師も顔を伏せて行ってしまう。

   何が何だかわからない一華と詩歌。

   と、廊下の先に恵子を見つける。


一華「おばさん!」


   思わず大声を出す一華。

   恵子は一華に気づくと泣き崩れるようにして座り込む。


一華「……(呆然)」

詩歌「やだ……嘘でしょ?」


   青ざめる2人。

   呼吸が浅くなり時間の流れが遅くなる……


   と、その時。


誰かの声「一華!」


   後ろから一華を呼ぶ声。

   見なくとも、その声の主が誰か分かる。

   一華の目に涙が溢れる。


   そして、振り返る。


蒼志「よう(笑顔)」

一華「(泣き崩れた顔)」


   意識を取り戻した蒼志が立っている。

   嬉し泣きしている恵子や看護師達。

   力が抜けその場に座り込んでしまう一華。

   そして子供のように泣き出す。  


   慌てて駆け寄っていく蒼志。その顔は少し笑っている。

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