第34話 ウスケシ作戦【結】

○ウスケシ作戦(夜)


   五稜郭の入り口まで戻って来た一華と蒼志。


蒼志「考えろ考えろ……何でだ?何でビームが効かねえんだ……」


   頭を抱えている蒼志。

   怪獣を見ると、ビーム砲に押されながらも町に向かおうとしている。


蒼志「一華、ダメだ!逃げよう!」

一華「……」


   が、一華は蒼志に背を向けたまま怪獣の方を向いて動こうとしない。


蒼志「一華!何やってんだ急げ!」

一華「逃げて。そーし……」

蒼志「は?何言ってんだ?お前も!」


   首を振る一華。


一華「私が、倒す……」

蒼志「んな事言ってもお前……」

一華「私の町は……私が守る!」


   蒼志に向かって少し微笑む一華。

   手首のリボンをギュっと握ると、怪獣に向かって走りだす。


蒼志「……」


   呆然としている蒼志。そしてハッとする。


蒼志「そうか……そういう事だったんだ……」


   怪獣に向かって走っていく一華。


蒼志「一華!一華ぁー!」


   一華の後を追いかける。


    ×     ×     ×


   五稜郭に合流した隊員達。男達の野太い声が響く。


合流隊A「函館名物いか踊りー!」

合流隊B「いっか刺し、塩辛、いっかソーメン!」

合流隊C「もう一つおまけに、いかぽっぽー!」

合流隊D「いっか、いっか、いっか、いっかー!」

合流隊E(主に親衛隊)「一華ちゃーん!!!」


   怪獣にも効果あり。

   歌声に合わせて次々と発射されるビーム砲に押され、

   どんどんと五稜郭中央へと押し戻されて行く。


   四面楚歌ならぬ、四面いか踊りの歌声が五稜郭全体を包み込んでいる。


    ×     ×     ×


   離れた場所から見守っている町の人。

   そこにも、隊員達の歌声が届き、

   共に戦うようにして力強くいか踊りを踊っている。


    ×     ×     ×


   橋の上(二の橋)で、一華に追いつく蒼志。


蒼志「一華、俺にビームしろ!」

一華「!?」

蒼志「いいか、よく聞け。お前の能力はちゃんと土偶に移ってたんだ。だからビームが効かない」

一華「……(困惑)」

蒼志「土偶が反応しないのはきっかけだ。それがないからビームが出ない」

一華「わかんない。それで何でそーしにビームしなきゃなんないの?」

蒼志「きっかけは心だ。この町を守りたいって思う、その覚悟だ。土偶に心はねえ。人がその役割をやんなきゃダメなんだ!」

一華「なら私が…」

蒼志「(遮って)ダメなんだよ お前じゃ!だから土偶も反応しない。いいか?これ自体が能力を受け継ぐ方法だったんだよ!」

一華「!!!」

蒼志「オバさんが亡くなった時、俺は能力受け継ごうとして失敗した。それは何でか?やり方が間違ってたってのもある。けどそれだけじゃねえ。俺にははなから、その覚悟がなかったんだ……」

一華「……」

蒼志「この町は好きだ。守りたいって思う。けど、どっかで迷いがあった……」

一華「そんな、私だって…」

蒼志「いいや、お前は違う!そりゃ色々思う事はあるよ。けどそれはお前の本心じゃない。だってそうだろ?今までずっとやって来たじゃねえか。ずっと…どんな時だって」

一華「……」


   一華の脳裏に今までの怪獣退治がフラッシュバックされる。


蒼志「お前には、この町を守ろうっていう誰よりも強い心が備わってる。その魂を血として受け継いでる。それが光家だ!」

一華「……」


   一華の目に一粒の涙。

   その涙が頬を伝う。


蒼志「とにかく俺にビームしろ!それで能力が移動する!」

一華「でも……でも、そんな事したらまた」

蒼志「大丈夫だ!あの時とは違う」


   自分の胸に手をやる蒼志。


蒼志「覚悟は出来てる」

一華「……」


隊員の声「止めろー!行かせるなー!」


   怪獣の雄叫びが大きくなり、隊員達が押され始める。


蒼志「時間がない!一華!」

一華「やだ……絶対いや……(首を振る)」

蒼志「町が壊されちまうぞ!それでもいいのか!」


   それでも一華は首を振り続ける。


一華「いい……蒼志がいなくなるよりいい!」


   自分を抱くようにして固く手を閉ざす一華。


蒼志「……」


   すると、蒼志がその手を引き剥がし、自分の元に引き寄せる。


一華「(驚いて声が出ない)」


   引き寄せた手をしっかりと握る蒼志。

   そしてそのまま、一華を抱きしめる。


一華「ダメ…離して……」


   離さない蒼志。

   一華の手が反応しだす。


一華「やだ……でちゃう……ビームでちゃう!」


   一華を抱きしめたまま目を閉じる蒼志。


一華「いやぁー!!!そぉしぃぃぃー!!!」


   叫び声と共に一華の手からビームが発射。


   一瞬の静寂の後、二の橋から大きな光。

   その光が五稜郭全体を包み込むように拡がり、

   稜堡りょうほに設置された土偶が反応。土偶からビームが放たれる。


   土偶から発射された5方向からのビームが怪獣に直撃。

   雄叫びを上げながら怪獣が宙に浮く。

   瞬間、眩い光。

   真っ暗だった町が昼間のように照らされる。



   そして…………静寂。



啄三「や、やりやがった……」

陣川「消えた……怪獣が消えたぞ!」

隊員達「倒した!倒したんだ!!!」


   隊員達から歓喜の声。函館山も同様。町の人も抱き合って喜ぶ。


    ×     ×     ×


   一方、橋の上の一華。頬には涙の跡。

   蒼志を抱きかかえたまま固まっている。


一華「そう……し?」


   寄りかかるようにして、一華に抱きかかえられている蒼志。

   目を閉じていて反応はない。


一華「いやぁぁぁーーーーー!!!」


   絶望の咆哮と共に暗転。

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