第33話 ウスケシ作戦【急】

○ウスケシ作戦(夜)


   蒼志のバイク(サイドカー付き)で五稜郭にやって来た一華と蒼志。

   バイクから降りると橋を渡って、土偶を設置した稜堡りょうほへと走って行く。

   一華と蒼志の耳には交信セット。

   そこに一閃から無線が入る。


一閃「一華、もうすぐ怪獣が五稜郭に入る」

一華「うん(走りながら)」

一閃「土偶が反応して、ビームが出そうならお前ならわかる筈だ」

一華「うん」

一閃「もし、何も反応がなかったら、その時はお前がやれ。いいな?」

一華「うん。わかった!」


   そして五稜郭に怪獣が差し掛かる。


五稜郭班長「こちら五稜郭!目標、入り口に差し掛かりました!」

五稜郭隊員1「いいか!中央まで追い込むんだ!行くぞぉー!!!」


   「メーン!」の声と共に五稜郭を囲んだビーム砲からビームが発射。

   怪獣を中央へと追い込んでいく。


    ×     ×     ×


   稜堡に設置した土偶の前に着いた一華と蒼志。


一閃「どうだ一華!反応してるか?」


   土偶を見る一華。


蒼志「どうだ?」

一華「ダメ(首を振る)」


   ドンっと机を叩く陣川。

   暗雲立ちこめる作戦本部。

   陣川が一閃を見る。無言で頷く一閃。


一閃「しょうがない……一華、お前がやれ」

一華「わかった……」


   怪獣に向かって走り出す一華。


蒼志「クソ!」


   蒼志も後を追う。


    ×     ×     ×


   五稜郭の中央で暴れている怪獣。

   そこに一華がやって来る。

   構えを取って集中。そして、手を突き出してビーム!


   が、怪獣は消えていかない。


一華「あれ?あれ?」


   何度もビームするが怪獣はビクともしない。


蒼志「……?」


   作戦本部も異変に気づく。


一閃「どうした一華?」

一華「効かない……ビームが効かないよ!」


蒼志・陣川・一閃「!!!」


   間近で聞こえる怪獣の雄叫び。


蒼志「一華!ここにいちゃマズい!」


   その場を離れ、入り口に向かって走って行く一華と蒼志。


五稜郭班長「目標!五稜郭から出ようとしてます!」

五稜郭隊員1「行かせるな!食い止めろ!」


   怪獣は雄叫びを上げながら町に向かって出て行こうとする。


   作戦本部でも慌て出す。


本部隊員1「どうしますか?このままじゃ……」

陣川「……」

本部隊員1「市長!」


   黙ったままの陣川。そして…


陣川「退避命令を出すしかない……」

本部隊員2「え?でも、それだと町が……」

陣川「町が壊れても、また建て直せばいい!だが、隊員達の命はそうは行かない……」

一同「……」

陣川「ウスケシ作戦は失敗だ……」


    ×     ×     ×


   現場に作戦本部から無線が入る。


本部隊員1「こちら作戦本部!作戦本部より全隊員に告ぐ!ウスケシ作戦失敗!総員退避せよ!繰り返す!ウスケシ作戦失敗!」


   唖然としている五稜郭の隊員達。


五稜郭隊員1「作戦失敗って……」

五稜郭隊員2「でもこのままじゃ町が」


   雄叫びを上げて暴れている怪獣。


五稜郭隊員3「俺たちが逃げちまったら誰が町守るんだ?」

五稜郭隊員4「けど残ってたら、俺たちも危ねーべ」


   隊員達のビーム砲を操作していた手が止まる。

   

   と、その時……


啄三の声「バカ野郎!!!」


   啄三の怒号が響き渡る。


陣川「!?」


   その声は無線を通して作戦本部にも届く。

   班長の無線をぶんどっている啄三。

   感情を押し殺したようなドスの効いた声で話し出す。


啄三「市長さんよ、戦ってるのは俺らだけかい?ちげーだろ!」

陣川「!」


    ×     ×     ×


   真っ暗の中、外に出て固唾を飲んで見守っている人達がいる。

   一太、詩歌や茜達、北美原、おばあさん、そして町の人。


   みんな、みんながいる。


    ×     ×     ×


啄三「俺らは町の魂しょってココにいるんじゃねえのか?シッポ巻いて逃げるには、ちと早過ぎやしねえか?」

陣川「……」


   と、無線に他の隊からの声が入ってくる。


海岸隊班長「こちら海岸隊!今、五稜郭に向かってます!諦めないで下さい!」

亀田隊班長「同じく亀田隊!すぐ行くから待ってて!」

イカ刺し隊長「こちらイカ刺し!俺たちゃまだ負けちゃいねえぞ!」

塩辛隊長「おうよ!俺らの塩辛根性は、まだ腐っちゃいねえ!」

禅之介「僕らが一華ちゃん達 信じないで、誰が信じるんですか!」

親衛隊の男達の声「一華ちゃーん!待っててねーっ!!!」


陣川「……」


   次々と入って来る隊員達の声。

   その声を聞いて五稜郭の隊員達に闘志が湧いている。


啄三「(笑ってる)」


   と、啄三の視線の先に、橋の上を走る一華と蒼志が見える。

   啄三が無線を取る。


啄三「元はオメーさんが言い出した事だ。消えかけた光をまた付けたのはオメーさんだ。そうだろ?陣坊」

陣川「啄さん……」

啄三「なーに心配はいらねえさ。この町の光はまだ消えちゃいねえ。最後まで見届けてやろうじゃねえか、せっかく宿った光をよ」


   啄三の視線に映る一華と蒼志。

   2人の目は、まだ光を失っていない。


陣川「(その目に覚悟が宿る)」


   無線を返す啄三。そして隊員達の方を見る。


啄三「せっかく町中の電気が集まってんだ。函館の夜をよう、いつも以上に景気よく照らしてやろうじゃねえか」


   隊員達の顔に闘志がみなぎる。


啄三「行くぞお前ら!俺らのウスケシ魂、怪獣野郎に見せてやれぇ!」

五稜郭全員「セイヤァ!」


   無線のマイクの前に立つ陣川。そして大きく息を吸う。


陣川「ウスケシ作戦 、、、作戦続行ッ!!!」


全隊員「ソーレ!!!」


   隊員達の魂の声が五稜郭の空へと響く。

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