第28話 詩歌と茜【後編】

○海岸沿いの道(回想)


   ビームして怪獣を倒す一華(14)


詩歌「一華、早く!」

   車から詩歌(14)が叫んでいる。

   急いで車に乗り込む一華。戸倉が車を走らせる。


○病院(回想)


   病室に駆け込んで来る一華。

   病室には一閃と一太。

   愛華はベッドの上で眠っている。


一華「はっ……はっ……」


   荒い呼吸をしながらベッドに近づく一華。

   そして、崩れ落ちる。

   愛華は既に息を引き取っている。

   ベッドにすがりついて泣きじゃくる一華。


   その声が、廊下にいる詩歌にも聞こえている。


詩歌の声「それから一華、ちょっとおかしくなっちゃったんだ」


○一華の家(回想)


   一華の部屋の前に蒼志(15)と詩歌がいる。

   ノックするが反応はない。不安気な2人。と、怪獣サイレンが鳴る。

   すると扉が開いて一華が出て来る。

   その顔に表情はなく、頬に涙の跡だけが残っている。

   声を掛けるが無反応で、無言で階段を降りていく。


詩歌の声「ずっと部屋に引きこもってんのにさ、サイレン鳴った時だけ律儀に出て来るんだよ」


○海岸沿いの道(回想)


   怪獣の前に立つ一華。怪獣に向かってビームする。

   怪獣が消えると振り向いて帰っていく。

   その間もずっと涙が流れている。

   そんな一華を心配そうに見つめる詩歌と蒼志。


詩歌の声「もう見てらんなくてさ。それから何か出来ないかって調べ始めたんだ」


○インサート(回想)


   古い書物が並ぶ倉庫にいる蒼志と詩歌。

   古ぼけた書物の中に『宇須岸うすけしの水』の記述を見つける。


    ×     ×     ×


   一閃に詰め寄る蒼志。


    ×     ×     ×


   一華にビームを食らって倒れる蒼志。詩歌が駆け寄る。


    ×     ×     ×


   病院のベッドで目を覚ます蒼志。


    ×     ×     ×


   病院の屋上で悔し泣きしている蒼志。


詩歌の声「でも結局、何も出来なかった」


    ×     ×     ×


   遺跡で発掘作業をする蒼志。


詩歌の声「けど、蒼志は諦めなかった。遺跡のこと知って、ずっとそこに通ったり」


    ×     ×     ×


   バイト中の蒼志。


詩歌の声「その遺跡に通う為にバイトしてバイク買ってさ」


    ×     ×     ×


   海岸沿いを走る蒼志のバイク(サイドカー付き)


詩歌の声「そのバイクもさ、普通の奴だと一華が乗れないからって、わざわざサイドカー付けたりさ」


    ×     ×     ×


   函館山でバイト中の蒼志。


詩歌の声「頭いいのに大学にも行かないでさ」


   ふと視線を動かす蒼志。


詩歌の声「ずっと一華の側から離れようとしなかった」


   蒼志の視線の先には一華がいる。


   (回想終わり)


○駅前(夕方)


   ビラ配りをしている蒼志。


詩歌「で、ようやく今って訳」

茜「……」


   と、蒼志の所に自転車に乗った一華がやって来る。

   仲良さげに話し出す一華と蒼志。

   そんな2人を見ている詩歌と茜。


茜「あの2人って付き合ってんの?」

詩歌「(少し笑って)ううん」

茜「何で?付き合えばいいじゃん」

詩歌「手も繋げないんだよ?」


   少し鋭い視線を茜に向ける詩歌。


詩歌「って、一華は思ってる」

茜「……」


   蒼志と話しながら笑っている一華。


詩歌「全部引っ括めて受け止められないんだよ」


   蒼志を見ている詩歌。

   その表情は何となく切なそうに見える。


茜「……」


   少しして視線を戻す詩歌。茜を見る。


詩歌「ありがとね」

茜「?」

詩歌「私なんて、なーんも出来なかったから」

茜「……別に。ただムカついただけだし」


    少し笑う詩歌。


詩歌「私、リア充ってずっと苦手だったんだけどさ。リア充の中にもアンタみたいな人いるんだね」

茜「……リア充って言うのやめてくれる?」


    ×     ×     ×


   ビラ配りが終わって。

   茜と一緒に帰っていく詩歌。ちょっと仲良くなっている2人。

   そんな2人を不思議そうに見ている一華。

   そのまま自転車に乗って帰ろうとする。すると、


蒼志「一華ぁー」


   呼ばれて振り返る一華。


蒼志「お前、卒業したらどうすんだ?」

一華「え?ああ、就職。お父さんトコ」

蒼志「……」


   あっけらかんと答える一華に蒼志の表情は険しい。


蒼志「大学行く気あんなら、ちゃんと勉強しとけ」

一華「どうしたの急に?」

蒼志「お前、この町出ろ」

一華「……」

蒼志「絶対成功させっから。だからちゃんと考えとけ」

一華「……」


   それだけ言うと行ってしまう蒼志。

   一人立ち尽くしている一華。

   ぼんやりと走っていく蒼志のバイクを見ている。

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