第23話 一華と詩歌【後編】

○蒼志の家・倉庫(日替り)


   倉庫は宇須岸の水作りの工房になっている。

   そこに蒼志や一太、町の人がいる。

   テキパキと作業する蒼志を戸倉が感心して見ている。


戸倉「蒼志君は、元は工学部の志望だったんだよね?」

蒼志「ああ、まあ。昔の話ですけどね」

戸倉「……」


   そこに差し入れを持った詩歌と一華がやって来る。


詩歌「お疲れさまでーす。差し入れ持って来たよー」

一太「やったー」


   差し入れに群がる一太や町の人。やいのやいのと盛り上がる。

   その様子を少し離れて見ている一華。


   一華の瞳に映る一太や詩歌、町の人。そして蒼志。


一華「……」


   そっと出て行く。


○ペリー広場


   原っぱに寝転んで、ぼーっと空を眺めている一華。

   そこに詩歌がやって来る。


詩歌「いーちか」

一華「しーちゃん…」


   一華に近づいていく詩歌。


一華「ゴメン。先に出て来ちゃった」

詩歌「ううん。いいよ」


   一華の隣りに寝転がる詩歌。同じように空を眺める。


詩歌「ねえ、小学校の頃さ、蒼志と3人で怪獣退治行った時の事覚えてる?一華と2人で裏山で特訓してたらさ急にサイレン鳴って」

一華「うんうん。覚えてる覚えてる」

詩歌「周りに大人の人誰もいなくてさ。一華も私もまだ自転車乗れない時で、どうしよって慌ててさ」

一華「うんうん。そしたらそーしが来てくれたんだよね?」

詩歌「そうそう。蒼志はその頃もう自転車乗ってたから『一華、乗れ!』って言って。けどビームでちゃうから乗れないの」

一華「(笑ってる)」

詩歌「で、どうしよってなって。で、一華だけ自転車乗せてさ、蒼志と私で押してったんだよね」

一華「本当怖かったよ。あの時」


    ×     ×     ×


   (小学校時代の回想)

   川沿いの道。

   一華を乗せた自転車を後ろから蒼志と詩歌が押している。

   泣きそうになりながら必死でハンドルを握っている一華。

   3人の自転車が川沿いの道を走り抜けていく。


    ×     ×     ×


詩歌「それから自転車乗れるように猛特訓したんだよね。あとさ…」


   詩歌の話を聞きながら笑っている一華。

   話は尽きない。


○蒼志の家・倉庫(夕方)


   中空土偶を運んでいる南茅部みなみかやべ勝見と、その弟子達。

   出来上がった中空ちゅうくう土偶が倉庫に並ぶ。


蒼志「凄い。完璧です!」

南茅部「ふぉふぉふぉふぉ(高笑い)」


   満足そうに自慢の白髭を撫でる南茅部。

   戸倉も感心した様子で見ている。

   と、蒼志が早速何かやろうとする。


戸倉「まだやるのかい?」

蒼志「はい。実際の水が入る容量を確かめて、調整しないとなんで」


   土偶の空洞になった部分を計測し始める蒼志。


戸倉「大丈夫かい?壁画が出て来てからずっと掛かりきりだろ?」

蒼志「ありがとうございます。けど大丈夫です。多分チャンスは一回あるかないかだと思うんで。休んでる暇はありませんから」

戸倉「……」


   そのまま作業を続ける蒼志。心配そうに見ている戸倉。


○ペリー広場(夕方)


   ずっと話している一華と詩歌。


一華「で、急いでしーちゃんの家行ったらさ、ストーブにビームしてって言うんだもん」

詩歌「そうそう。家のストーブ古くてさ、火の付き悪かったんだよね」

一華「早く来て!って言うから何かと思ったらさ。ヒドいよね?」

詩歌「でもビームって結構便利だからさ。よくさ、蒼志にも屋根に引っかかったボールとか取らされてたよね?」

一華「本当みんなヒドいよ」


   笑っている詩歌。一華も笑っている。

   茜色に染まった空を見る2人。


詩歌「色々あったよね」

一華「うん」

詩歌「……」

一華「……」

詩歌「悪い事ばっかじゃなかったよね?」

一華「……」

詩歌「楽しい事も、いっぱいあったよ」

一華「うん……」


   詩歌が一華の方に体を向けて。


詩歌「ねえねえ、怪獣いなくなったらさ、ドコ行きたい?」

一華「え?ドコだろ?考えた事ないや(笑)」

詩歌「じゃあさ買い物しに行こうよ。札幌とか行ってさ。一華の好きそうな服一杯あるよ。あと動物園とかもいいよね?あと東京?ディズニーとかさ、めっちゃ楽しいよ」

一華「そうだね……」

詩歌「……」


   ぼーっと空を見ている一華。

   一華の手に詩歌が触れる。


詩歌「ちょっとくらい甘えたっていいじゃん」

一華「……」

詩歌「それだけの事やって来たでしょ?」

一華「……」

詩歌「今はさ、みんなに任せてみよう」


   涙ぐむ一華。


一華「うん……」


   しっかりと繋がれた一華と詩歌の手。


○蒼志の家・倉庫(夜)


   夜食を持って来る恵子。

   倉庫では蒼志が一人で作業を続けている。

   心配そうに見ている恵子。

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