第22話 一華と詩歌【前編】

○町中(日替り)


   町中に新しいポスターが貼られている。


   『一華ちゃんを普通の女の子に!みんなで怪獣を倒そう!』


   町の人が立ち止まって、そのポスターを見ている。


○高校・保健室


   昼休みの保健室。

   人気はなく、ベッドのカーテンが閉まっていて、

   その下に上履きが見える。


   ドアが開き、ポスターを抱えた詩歌と麻衣が入って来る。


麻衣「ここにも貼っとこうか?」

詩歌「そうだね」


   ポスターを貼りだす2人。

   詩歌が貼って、麻衣がテープを渡す。


麻衣「でもひかりも可哀想だよね」

詩歌「ん?」

麻衣「だって手も繋げないってさ、ヤバいじゃん?彼氏とか出来たとしてもさ、どうすんのって話だし」

詩歌「……(黙ってテープを貼っている)」

麻衣「手ぇ繋げるのって詩歌だけなんだよね?」

詩歌「ううん。違うよ」


   あっけらかんと答える詩歌。


麻衣「ウソだ?本当に?」

詩歌「最初は私だけだったんだけどね。中学の終わり頃かな。一緒に特訓してさ、一華も段々コントロール出来るようになって。手ぐらいは繋げるようになったんだ」

麻衣「え?でもさ」

詩歌「うん。けど繋がない。ってか、そういう風にしてんだと思う」

麻衣「なんで?」

詩歌「理由は色々だろうけど、一番は遠慮してるからだろうね」


    ×     ×     ×


   中学の体育祭。

   一華が輪に入ろうとすると、周りの子が避けるようにして離れていく。

   (大縄跳びとか百足競走的な)


    ×     ×     ×


   教室。よそよそしい感じで一華を見ている周りの子

   (以上フラッシュ)


    ×     ×     ×


麻衣「でもさ、光に好意持ってる人もいっぱい居るじゃん?ほら、追っかけしてる人とかさ」


    ×     ×     ×


   一華と握手しようとして断られる新入り(フラッシュ)


    ×     ×     ×


詩歌「それはまた別だろうね。ただ手ぇ繋ぐだけにしても一華にとっては違うから」

麻衣「どういう事?」

詩歌「だって、誰とでもキスはしないでしょ?」

麻衣「……」


   保健室の窓からじゃれ合っている男女が見える。


詩歌「みんながやってる普通でも、一華にとっては普通じゃないから」


   男女の手が触れ合って、手を繋いだような格好になる。


詩歌「特別なんだよ」


   麻衣から最後のテープを受け取る。


麻衣「あ、でもさ、高丘先輩となら」


   そう麻衣が言いかけると詩歌が少し笑う。


詩歌「それは特訓だけじゃどうにもなんないんだなー。何とも思わない人なら平気なんだろうけどね。あ、でもそれだと一華が無理か……」


   最後のテープを貼りおえる詩歌。

   一歩下がって、そのポスターを見る。


詩歌「ね?可愛いでしょ?」

麻衣「(何とも言えない)」

詩歌「可愛いんだよ。一華は……」


   そのポスターに写っている一華は、いつもの無表情ではなく

   少し微笑んでいる。

   『普通の女の子に』の言葉の通り、どこにでもいる普通の女の子である。


   誰もいない筈のベッドのカーテンが揺れている。


    ×     ×     ×


   詩歌達が出て行った後の保健室。

   ベッドのカーテンが開いていて、一華のポスターの前に誰か立っている。

   スカートからすらりと伸びた脚。上着のポケットに突っ込んだ手。

   茜の横顔が少しだけ見える。


○宇須岸の水と土偶作り(インサート)


   蒼志が中心となり町の人と協力して行う。

   滝に行っての水汲み。バケツリレーの要領で水を汲み出す。


    ×     ×     ×


   港の市場。漁師さんからイカや昆布等の海産物をもらう。


    ×     ×     ×


   恵山えさんに登って火山岩の採取。


    ×     ×     ×


   函館山。

   地質を調査している戸倉。

   掘削して土を運び出す。


    ×     ×     ×


   職人さんの工房。

   中空ちゅうくう土偶の見本を見ながら形作っている南茅部勝見。

   一太が学校の友達を連れて来て、土偶に使う粘土作りを手伝っている。


    ×     ×     ×


   港に集まっている漁師達。

   ビーム砲を並べて手入れをしている。

   啄三が監督役となって入念にチェックしている。


○駅前(日替り)


一華「……」


   駅前に貼られた『普通の女の子に』のポスターを見ている一華。

   その奥で詩歌がビラを配っている。(『普通の女の子に』のチラシ)


詩歌「一華ぁー」

一華「うん」


   詩歌に呼ばれて、一華もビラを配り始める。

   好意的にチラシを受け取っていく町の人。

   一華も笑っているが、どこかぎこちない。

   そんな一華を気にしている詩歌。


○一華の家(夜)


   夕食を食べている一華、一太いちた一閃いっせん

   みな黙々と食べているだけで口数は少ない。

   少し一華を気にしているような一閃。


一閃「蒼志君の方は順調なのか?」

一華「うん。多分」

一閃「そうか…」

一太「……」


   黙々と食べ続ける一華と一閃。

   いつもと様子が違う2人に気が気ではない一太。


○同・一華の部屋(夜)


   ベッドに寝転がって、ぼーっと天井を見ている一華。

   タブレットをほっぽり投げ、いつも楽しみにしている恋リアにも無関心。

   棚に生誕祭で撮った町の人との記念写真がある。

   一華を囲む大勢の町の人。それは一華が今まで守ってきた人達。


一華「……」


   布団にくるまり顔を埋める。

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