第21話 僕たちの町【後編】
○市役所・外
職員達との話し合いを終えた後。
漁師達が励ますようにして蒼志の肩を叩きながら出て来る。
頭を下げて歩いていく蒼志。
蒼志と別れると啄三も漁師達と別れて歩いて行く。
啄三の背中を見送りながら漁師達が話す。
漁師1「けど啄さんも思い切ったよな?俺らもつい吊られちまったけどよ」
漁師2「んだな。正直、啄さんが乗るとは思わなかったもんな」
× × ×
停めてあった軽トラに乗り込む啄三。
雑多な車内に仲間達と撮った写真がダッシュボードに貼られている。
その中の古ぼけた写真。
そこに写った青年と啄三の顔が重なる。
○同・市長室
市長室に飾られている写真。
歴代の光家当主と町の人が写った写真が何枚も飾られており、
その中の古い写真の一つに青年時代の啄三が写っている。
その啄三の隣りに蒼志そっくりの青年。そして小さな少年が写っている。
その少年の顔が現在の陣川と重なる。
陣川「……」
その写真を見ている陣川。
その目には覚悟めいた物が感じられる。
○軽トラの車内
運転している啄三。
ダッシュボードには市長室にあった写真と同じ写真。
その写真に目をやると少し笑う。
啄三「いい男になってたな、オメーさんの孫は。若え頃のあんたにそっくりだ」
写真に写る蒼志そっくりの青年時代の
啄三「力貸してやってくれ。郡さんよ」
仲良さそうに写っている啄三と郡司。
○市役所・議場(日替り)
議場では怒号が飛び交っている。
議員1「こんな無茶苦茶な事、本気にするつもりじゃないでしょうね!」
配布された資料を手に議員達が怒鳴っている。
そんな怒号の中、発言台に立ち発言する陣川。
陣川「私としても町を危険に晒す事は避けたい。ただ、反対しようとは思ってません」
議員2「は?何言ってんだあんた!」
議員3「正気か!?」
陣川「今まで光家に頼り切りになっていたのは事実です!我々もバカじゃない。その事について何も気に止めてなかった訳じゃない。ただ何も出来なかったのは、その方法を知らなかったからでもある」
野次が飛び交う中、尚も陣川は続ける。
陣川「私も光のじいさんとは昔馴染みでね。ガキの頃によく怪獣退治も見物させてもらいました」
議員の声「そんな昔話聞いてんじゃないよ!」
陣川「まあ聞いて下さい。私も子供ながらに思いましたよ。何で自分には何も出来ないんだろうってね…」
議場の隅では職員(若)(老)(女)が固唾を飲んで見守っている。
陣川「今、ようやく一つの可能性が見えた。その可能性を潰すのか、潰さないのか。私が問いたいのはそこです」
議員の声「だからと言ってね!」
陣川「だからと言って、強制はしません。怪獣に町を歩かせる事を不安に思う人もいる。当然です。ビーム砲を使うからと言って停電もしない。賛同を得られない場合は、今まで通り光家に怪獣を倒してもらう。何も変わらない。いつもと同じです。不安な事は何もない。ただ……」
そう言うと議員らに鋭い視線を向ける。
陣川「ただ、賛同を得られた場合も考え、しっかりと準備はする。私が言いたいのはそういう事です」
困惑している議員達。また野次が飛び交う。
陣川「今、この町を守っているのは一人の少女だ!この町の人間でそれを知らない者は誰もいない筈だ!」
声を張り上げる陣川。
その声に圧倒され議員達の野次が止む。
陣川「いつまで一人の女の子に重荷を背負わせるのか。我々が動かなければ何も変わらない。やらなきゃ変わらないんです。動かないと。誰かがそれをやらないと。誰も、何も救えません」
静まり返っている議場。
陣川「どうですか、みなさん?ここらで一度、腹を括ってみませんか」
議員達「……」
すると職員(老)が立ち上がって拍手する。
職員(若)と(女)が後に続く。
それを手で制した後、陣川が続ける。
陣川「我々の町を我々で守る。私がしようとしているのはそれだけです」
野次を言う者は、もう誰もいなくなっている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます