第20話 僕たちの町【中編】

○市役所・外観(日替り)


蒼志の声「お願いします!」


○同・会議室


   職員達に向かって頭を下げている蒼志。


職員(若)「って、言われてもね…」


   蒼志に厳しい視線を向けている職員達。

   蒼志の横にあるボードには中空ちゅうくう土偶の写真。

   ビーム砲を使って怪獣を五稜郭まで誘導する図が貼られている。

   (啄三ら漁師も部屋の隅にいる)


職員(老)「100歩譲って土偶まではいいよ。それを五稜郭に設置する事もね。ただ怪獣をそこまで誘導するってのは……」

職員(女)「町を歩かせるなんてね」

職員(若)「それにビーム砲使うのに函館中の電気が必要ってさ。そんな無茶な事、出来る訳ないでしょ?」

職員(女)「一華ちゃんが不憫なのはわかるけど。一太君もいる訳だし、もう少し待ってればね」

蒼志「……」


   職員の意見はみな否定的。


職員(若)「蒼志君、君の気持ちはわかるけど…コレはちょっと幾ら何でも……」


   言いながら、陣川に視線を向ける職員(若)

   黙って聞いていた陣川が口を開く。


陣川「確かに君の気持ちはわかる。我々も光家に頼り切りになっている現状に何も思ってない訳じゃない。何か出来ないかと、今までもずっと考えて来た……だが、コレは幾ら何でも無茶だ」

職員(女)「そうよ。失敗したらどうするつもり?」


   職員達の冷たい視線が蒼志に向けられる。


蒼志「……失敗したら、また一華 一人に怪獣押し付けるだけです」

職員(老)「押し付けるって君ね!我々だって一華ちゃんの事についてはちゃんと考えてるよ!この町の人だってね…」

蒼志「(遮って)じゃあ、何で誰もサイレンに反応しねえんだ?」


   一瞬、言葉に詰まる職員達。


蒼志「反応してんのは一華だけ。みんなサイレンがどんだけ鳴ろうがお構いなしだ。どうせ一華が倒すからいいってか?おべっか言って盛り上げてりゃそれでいいってか?」


一同「……」


    ×     ×     ×


   町中。サイレンが鳴るが、何事もなかったような町の人。


    ×     ×     ×


   海岸沿いの道。怪獣を倒す一華に群がる野次馬達。


    ×     ×     ×


   商店街。一華に食べ物や飲み物を渡す人達。


    ×     ×     ×


   祭りの日。サイレンが鳴る中、一華だけが走って行く

   (以上フラッシュ)


    ×     ×     ×


   机を叩く蒼志。


蒼志「アイツが相手にしてんのは怪獣だぞ!」

陣川「……」

啄三「……」


   静まり返る会議室。

   蒼志が職員(女)を見る。


蒼志「一華は一太に能力譲る気はねえ。それがどういう事か、アイツが一番よくわかってる」

職員(女)「……」

蒼志「一華は7歳の頃から怪獣倒すようになって、周りに騒がれて、それ目当ての観光客がいる事も知ってる。一華 使って町を盛り上げようとしてんのもだ」


   会議室には通常版の一華のポスター以外にも、

   一華を起用した町おこし的なイベントポスターが幾つも貼られている。

   その扱いはアイドルのようである。


蒼志「みんな一華だ。みんな一華に頼ってる!」


   何も言えない職員達。少し興奮気味の蒼志。

   啄三と目が合って少し落ち着くと、改めて職員達を見る。


蒼志「何で怪獣は何度も出て来るのか?その疑問を解消してくれたのがあの壁画です。元から一人じゃ無理だった。けど5人なら倒せる。この方法ならそれが出来るかもしれない」

陣川「……」

蒼志「確かにリスクはあります。けど、これが成功すれば怪獣を倒せるかもしれない。一華を解放してやれるかもしれないんです」

職員(若)「や、やるにしたって君一人じゃ出来ないんだぞ?君が要に思ってるビーム砲だってそうだ。使える人間だって限られてるし、漁師の人達だって無茶だって言ってんだろ?誰がそんな危険な目に合ってまでやろうとするんだ!」

蒼志「……」


   会議室の隅に座っている漁師達。黙って聞いていた啄三が口を開く。


啄三「俺ら、やらねえとは一言も言ってねえぞ」


蒼志・陣川「……」


   鋭い眼光を職員達に向け、啄三が話し出す。


啄三「俺ら漁師にとっても怪獣は厄介もんだ。ビーム砲が出来た時にゃ、一目散に使い方教わりに行ったよ。だから俺たちゃ漁師は全員がビーム砲使える。今でも月イチの訓練は欠かした事はねえ」

漁師1「んだ。まあ一華ちゃんのおかげで出番はねえけどな」

漁師2「この時の為に取っておいたってもんだよな」

啄三「俺ら漁師はこの坊主に乗るつもりだ。いつまでもあんな嬢ちゃん一人に頼ってる訳にはいかねえからな」


   啄三が陣川に視線を向ける。


啄三「後は町がどうでるかだ。どの道、電気がねえ事には何もできねえ」

陣川「……」


   改めて職員達を見る蒼志。


蒼志「確かに今言ってる事は仮説に過ぎねえ。本当に怪獣に通用するかはやってみねえとわかんねえ。けど、この町が、函館の町が積み上げてきた歴史が、それが全ての可能性を示してるんです!」

職員達「……」

蒼志「じいちゃんは言ってた。怪獣倒そうとしてんのは今の俺達だけじゃねぇって。この町を信じろって」

啄三「……」

陣川「……」

蒼志「一華はこの町の為に人生捧げて来た。この町から出た事もねえ。普通の子がやれるほとんどの事を普通にやれた事がねえ」


   床に膝を付く蒼志。そして頭を下げる。


蒼志「お願いします!アイツを、一華を、普通の女の子に戻してやって下さい!お願いします!お願いします!」


   頭を下げ続ける蒼志。

   懇願するその声が会議室に響いている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る