第24話 みんなのキモチ【前編】

○函館山・観測所(日替り)


   双眼鏡を覗いて監視している一閃いっせん

   その横で戸倉が職員と話している。


戸倉「この間はありがとうございました」

職員1「いえいえ、とんでもない。一華ちゃん上手くいくといいですね」

戸倉「ええ」

職員2「けど反対してる人もいるって聞きますよね?」

職員1「まあ、町歩かせなきゃなんないからな。ポスターなんかも剥がされてる所があるらしいってな」

職員2「それ僕も聞きました。酷い事しますよね」

職員1「そこまでしなくてもな」

職員2「ですよね」


   何となく室内を見渡す戸倉。


戸倉「ここにはポスター貼ってないんですね?」

職員1「あれ?そんな筈ないんだけどな。どこやったっけ?」

職員2「前まで貼ってありましたよね?」

職員1「だよな。どこ行ったんだろ」

戸倉「……」


   そんな話を気にする様子もなく監視をしている一閃。

   そんな一閃を戸倉が見ている。


○駅前


   ビラ配りをしている蒼志達。

   好意的に話を聞く人や、ビラを受け取らない人など反応は様々。

   親衛隊もいて、お揃いの『IBLアイ・ビー・ラブ』のTシャツを着て

   協力を呼びかけている。

   と、親衛隊の新入りが大きくため息を付いて座り込む。

   気づいた隊長の禅之介ぜんのすけが近づいて来る。


禅之介「どうした?」

新入り「なんかちょっと複雑で……」

禅之介「何が?」

新入り「だって、コレが上手くいったら一華ちゃんもう怪獣倒さなくなるって事ですよね?」

禅之介「まあ、そうなるだろうな」


   さらに深くため息を付く新入り。


新入り「そりゃ、一華ちゃんにとっては良い事かもしんないですけど。俺、怪獣倒してる一華ちゃんが好きだったんですよね」

禅之介「お前、それ本気で言ってんのか……?」

新入り「え?まあ、はい」

禅之介「バカ野郎!!!(思い切り殴る)」

新入り「イタい!(倒れる)」

禅之介「俺も同じだよ!あんな可愛い子が怪獣倒してんだ!ゾクゾクするよ!!!」


   頬を抑えている新入り。じゃあ何で?の顔で禅之介を見る。


禅之介「けどな、それだけじゃねえだろ?ビーム出すだけが一華ちゃんじゃねえだろ!」

新入り「!?」


   禅之介がシャツにプリントされた『IBL』のロゴを指す。


禅之介「この意味何だか知ってるか?」

新入り「一華、ビーム、ラブ…」

禅之介「バカ野郎!!!(食い気味に殴る)」

新入り「アギャ!(舌噛んだ)」

禅之介「それだけじゃねえ!この『B』にはな、ブリリアントって意味もあるんだ。輝くって意味だ。俺らが応援してんのは輝いている一華ちゃんだ!怪獣倒してるだけが一華ちゃんじゃねえ!」

新入り「……」


   頬を抑えて呆然としている新入り。


禅之介「それがわかんねえなら、今すぐそれ脱いで消えろ」

新入り「……」


   気づいた蒼志が駆け寄って来る。


蒼志「隊長さん、もうそのぐらいで」

禅之介「けど会長、わかってない奴には言ってやらないと」

蒼志「いや。俺、会長じゃねえから」

禅之介「またまた」


   そんな蒼志達を横目に、駅前を一閃が通りがかる。

   親衛隊からビラを渡される一閃。

   ビラを見ると握りつぶすようにしてポケットにしまって歩いて行く。


○五稜郭(日替り)


   奉行所の前に蒼志や一華、詩歌、戸倉、親衛隊や町の人が集まっている。

   中空ちゅうくう土偶を模して作った土偶が5体並んでいる。


    ×     ×     ×


   土偶に宇須岸の水を注いでいく。


    ×     ×     ×


   稜堡りょうほに作った祭壇に土偶を設置する。

   (五稜郭のそれぞれの頂点の箇所)


    ×     ×     ×


   一華が土偶にビームしていく。


    ×     ×     ×


   5体目の土偶にビームする一華。

   町の人が見守っているが特に反応は見られない。


戸倉「これで土偶に能力が移ったって事か……」

蒼志「どうだ、一華?」

一華「うん……(自分の手を見る)」


   手をかざしてみる一華。するとビームが出る。


蒼志「!」


   見ている周りも戸惑っている。


戸倉「これだけじゃまだ何とも言えないな。もう少し様子を見てみよう」

一華「……」

詩歌「……」

蒼志「……」


   不安そうな面々。


○公園(夕方)


   3日後。

   ブランコに座っている一華と蒼志。

   表情の暗い蒼志。


蒼志「そっか。まだビーム出るのか……」

一華「うん」

蒼志「土偶も何も反応しねえし。何か方法間違ってたのかな……」


   頭を抱える蒼志。一華が心配そうに見ている。


一華「そーし」

蒼志「(顔を上げる)」

一華「このままでいいよ。私が怪獣倒す」

蒼志「……」

一華「みんな一生懸命やってくれてたの知ってるし。すっごい嬉しかった」


   笑顔を向ける一華。

   が、蒼志の表情は優れないまま。

   一華は少し微笑むと、キリっとした目つきになる。


一華「いいかそーし、よく聞け!」

蒼志「?」

一華「何たって私は…」


   そう言うと、ブランコからぴょんと飛び降りる。


一華「この町を守るスーパーヒーロー!(振り返って)一華ちゃんなのだ!」


   手を突き出して決めポーズ。


一華「でしょ?」


   ニコっと笑う一華。


一華「ありがとう。蒼志」

蒼志「……」


   一華の顔をうまく見れない蒼志。

   2人だけの公園が、夕日色に寂しげに染まっている。

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