第18話 この町の歴史【後編】
○蒼志の家(夜)
ノートに壁画の絵を書いて考え込んでいる蒼志。
机には人体の本も見え、それらを見ながら頭を悩ましている。
大きくため息をついて椅子にもたれると、チラと横に目をやる。
部屋の壁に貼られた写真の中に、幼い頃の一華と蒼志が写った
写真がある。
蒼志におんぶされた一華がピースして写っている。
(一華は足を怪我している)
一華の声「いちか、大きくなったら、そーちのお嫁さんになる!」
少し笑う蒼志。また机に向かう。
○博物館・事務所(日替り)
事務所にいる蒼志。
郡司に見せてもらった壁画と新たに出て来た壁画の写真を
並べて見ている。
ドアが開いて詩歌が入って来る。
詩歌「お疲れー」
蒼志「おう。戸倉さんトコか?」
詩歌「うん。ちょっと手伝いにね。私も力になりたいし」
蒼志「そっか」
詩歌「これ?前出てきたのって?」
蒼志「うん。何か手がかりになるといいんだけどな」
壁画の写真を見る詩歌。
詩歌「この波線みたいなのがビームなんだよね?」
蒼志「そう。んで、この外側の丸が人で、この中心の大きいのが怪獣。みんなで囲んで怪獣にビームしてるんじゃないかって事」
詩歌「ふーん。そうなんだ」
ビームに見立てられた波線を見ている詩歌。
詩歌「私さ、最初真ん中の丸の方から出てるのかと思ってた」
蒼志「そりゃないだろ?怪獣はビームださねえし」
詩歌「だよね」
蒼志も改めて壁画の写真を見る。
外側の丸から中心の丸へと波線が伸びている……ように見える。
蒼志の顔付きが変わる。
蒼志「いや、待てよ……だとしたら……どういう事だ?」
詩歌「?」
考えを巡らす蒼志。
そしてハッとすると、慌てて事務所を飛び出して行く。
詩歌「ちょっと、蒼志?」
詩歌も後を追う。
○同・展示室
走って
蒼志「……」
蒼志の脳裏に今まで調べて来た事が思い浮かぶ。
× × ×
古文書の『それ人の器なりし』の記述。
× × ×
× × ×
自宅で見ていた人体の本。
× × ×
壁画に刻まれた5つの丸。
× × ×
そして、目の前にある中空土偶。
じっと中空土偶を見ている蒼志。詩歌がやって来る。
詩歌「ちょっと蒼志、どうしたの?」
蒼志「戸倉さん、戸倉さんはどこ?」
詩歌「お父さんなら、さっき外にいたけど」
また走りだす蒼志。詩歌も後を追う。
○同・事務所
壁画の写真を見ている蒼志、詩歌。そこに戸倉もいる。
戸倉「確かに中心からビームしてるようにも見えるな」
蒼志「そうです。周りの丸より少し大きい事で、中心の丸が怪獣じゃないかってずっと思われてた。その先入観で、外側からビームしてるようにも見える。けど、方向が示されてる訳じゃない」
外側の丸と、中心の丸の間に示されている波線。
蒼志「詩歌の話を聞いてて、もしかしたら同じ画でも意味が違うんじゃないかって思ったんです。例えばこっち(郡司の壁画)は中心、こっち(新たな壁画)は外側に向かってビームしてるんじゃないかって」
戸倉「怪獣じゃないとしたら、何に向かってビームしてるんだ?」
蒼志「中空土偶です」
戸倉「中空土偶?」
蒼志「そうです。中空土偶は中が空洞になってる。それは器だったからなんじゃないかって」
詩歌「どういう事?」
蒼志「俺、前に宇須岸の水について調べた事があるんです」
戸倉「ああ。あの祭事で奉られる水か」
蒼志「そうです。ただ宇須岸の水は言い伝えだけで、その用途は明確にはわかってない」
戸倉「確かにそうだ」
蒼志「その唯一の手がかりとなるのがこれです(古文書を見せる)」
戸倉「それ人の器なりし。か」
蒼志「そうです。俺はコレが人に対しての物だと思ってた。けど本当はそうじゃなくて、コレは中空土偶の事を言ってるんじゃないかって思ったんです」
戸倉「それはつまり、土偶の中に宇須岸の水を入れるって事か?」
蒼志「そうです」
詩歌「ちょっと待って。全然わかんない。それに何の意味があるの?」
蒼志「人に見立てる」
詩歌「どういう事?」
蒼志「宇須岸の水は、函館に縁のある物で作られている。俺、その成分を調べてみたんだ。何であの水に人とか器とかの意味があるんだろうって。で、その時気づいたんだ。人間に似てるって」
詩歌・戸倉「?」
蒼志「聞いた事ありませんか?人間のほとんどは水分で出来てるって」
詩歌・戸倉「!」
蒼志「人の成分は大雑把に見ると、水、タンパク質、アミノ酸、ミネラルで構成されてる。宇須岸の水の成分も、それに近いんです」
戸倉「ちょっと待ってくれ。だとすると…」
蒼志「はい。おそらく昔の人が、人をイメージして作ったのが宇須岸の水だったんです」
戸倉「そうか。ならそれを土偶に入れる事で…」
蒼志「人に見立てる。それが人の器っていう意味なんだと思います」
詩歌「ちょっと待ってよ。それだけでさ……」
戸倉「……確かに人の成分と同じといっても明確な物じゃないし、実際それで人間が作れる訳でもない。特に昔なんて専門的な知識もなかっただろうからな」
蒼志「……」
戸倉「ただ、人に見立てたそれにビームする事によって、何らかの化学反応が起きてもおかしくない」
詩歌「それで能力が土偶に移るって事?」
戸倉「可能性はないとは言い切れない」
詩歌「けど何で人じゃなくて土偶なの?わざわざ物に能力移動させようとしなくたって…」
蒼志「あんな頻繁に出て来る怪獣をその都度人が対処してたら何も出来ない。今の一華と同じだ。それを人以外の何かに託せないかって、昔の人が考えたとしても不思議じゃない。寧ろそう考える方が自然だ」
詩歌「……」
戸倉「その為の中空土偶だとしたら、人の形なのも頷ける…」
蒼志「はい。あと、これは推測なんですけど、今回出た壁画を描いた時代には、もうビームを出せる人間は一人だけになってたんじゃないですかね?それで、一人だと怪獣を倒せない事を知った」
資料を調べ始める戸倉。
戸倉「最初に出た壁画は縄文時代前期。そして今回出たのは後期と推測されている」
蒼志「その間にビームが出せる人間が減った…」
詩歌「それで代わりになる方法を考えたって事?」
戸倉「それだけじゃない。今回出た壁画と中空土偶の作られた時代は、ほぼ同じだ。それを考えても、この絵が中空土偶を表してる可能性は高い」
蒼志「ビームを出せる人間の数が減って怪獣を倒せなくなった。それをどうにかしようとして作ったのが中空土偶だった」
戸倉「辻褄は合ってるな」
詩歌が壁画にある五カ所に配された丸を指す。
詩歌「でも、この丸が土偶だとしたら全部で5つあるよね?確か能力を受け継げるのって一人だけじゃなかった?」
戸倉「確かにそうだ。ただ、それは人の場合で、物の場合は違うとか……」
蒼志「後は大きさですよね。人に見立てるならもっと大きくてもいい筈だ。けど中空土偶は人に比べて大分小さい。それも関係あるんじゃないんですか?」
戸倉「確かに。それにも意味はありそうだ」
詩歌「でもだとしたら、一体ずつの能力は弱まるって事にならない?」
戸倉「いや、そうとも限らない。元々土偶は守り神という意味で作られたとされている。地母神と言われるもので、つまり大地の神だ。土偶の元となる土には計り知れない力が宿っている。そこが人との違いとも言えるし、それがビームの力を増幅させたとしても不思議じゃない」
改めて考える3人。
蒼志「人に見立てた土偶にビームして能力を移動させる。その土偶が人の代わりとなって怪獣を倒す……これが本当なら、一華を解放してやれるかもしれない」
詩歌「凄い……凄いよ蒼志!」
戸倉「可能性がある事はわかった。肝心なのはそれをどうするかだ。もう少し細部を詰めて考えてみよう」
蒼志「はい!」
いつの間にか日が落ち、事務所の窓から夕日が射し込む。
その光が反射して、蒼志達の目を輝かしている。
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