第二幕「高丘蒼志」

第14話 蒼志少年【前編】

○一華の家・外(夜)(回想)


   4年前。


蒼志の声「もう限界だ!」


   家の中から蒼志の怒鳴り声が聴こえる。


○同・一閃の部屋(夜)(回想)


   一閃いっせんの部屋に蒼志(15)が押し掛けている。


蒼志「もう見てらんねえ!一華をもう、あのままにしておけねえ!」


   詰め寄る蒼志に、一閃は腕を組んで険しい表情。


蒼志「光家の人間じゃなくてもビームが出せる方法があるって聞いた。光家じゃなくても能力が受け継げるって」


   そう言うと、蒼志が一閃の前に古い書物を差し出す。


蒼志「この水を使えばそれが出来る。それって本当なのかオジさん?」


   開かれたページには『宇須岸うすけしの水』と書かれている。


一閃「……」   


   腕を組み黙ったままの一閃。


蒼志「教えてくれオジさん!コレが本当なら一華を救えるかもしれねえんだ!」


   黙ったままの一閃。蒼志も力なく項垂れる。


蒼志「頼むよオジさん。一華をもうあのままにしておけねえんだ……」

一閃「……」


   険しい表情のままの一閃。

   項垂れる蒼志を見て、ゆっくりと口を開く。


一閃「……確かに、宇須岸の水にはそんな言い伝えがある……」

蒼志「(顔を上げる)」

一閃「宇須岸の水は、函館に古くから伝わる神聖な水で、君の言う通り、ビームの能力伝承についての逸話が残っていると言われている」

蒼志「それ人の器なりし……」

一閃「(頷いて)そうだ。その言葉が、能力を受け継ぐ側の人間を表している。そう言ってる人もいる」


   書物に見える『それ人の器なりし』の記述。


一閃「ただ何の保証もない。その言葉と能力伝承の言い伝えを都合よく解釈したに過ぎない」


   唇を噛み締める蒼志。そんな蒼志を一閃が厳しく見据えながら続ける。


一閃「確かに能力の伝承については、光家以外の人間でも出来ると。そんな話を俺もガキの頃にじいさんから聞いた事はある。ただ、それは言い伝えに過ぎない。その方法を知っている者は誰もいない」


   唇を噛み締めている蒼志。

   拳を力強く握りしめる。


蒼志「じゃあどうすりゃいいんだ?どうすりゃ一華を解放してやれんだよ……」


   悔しそうに畳を叩き付ける蒼志。


一閃「蒼志君、君の気持ちはありがたい。俺だって、一華に不憫な思いをさせてる事は勿論わかってる。ただ、これは光家に生まれた宿命でもあるんだ。それは一華もわかってる」

蒼志「……」

一閃「光家の人間じゃない君には、わからん事もある」

蒼志「……」


   俯いている蒼志。その顔付きが変わる。


蒼志「能力受け継ぐのにビーム受けなきゃなんないなら俺がやってやる……俺が一華から食らってやる!」


   一閃の眉間に深い皺。


蒼志「そもそもビーム食らったって、どうって事ないんだ(独白)」


   立ち上がって出て行こうとする蒼志。


一閃「待ちなさい!」

蒼志「(立ち止まる)」

一閃「確かに少し触れたぐらいなら熱を感じるくらいで済む。ただ、まともに食らえば話は別だ」


   睨みつけるようにして蒼志を見る一閃。


一閃「死ぬぞ」

蒼志「……」


   唇を噛み締めたまま部屋を出て行く蒼志。


○同・外(夜)(回想)


   一華の家から出て来る蒼志。

   悔しそうに何度も地面を蹴る。


   そんな蒼志を2階の窓から一華(14)が見ている。


○神社(回想)


   数日後。神社を訪れている蒼志。

   宮司から古い書物を見せてもらう。

   そこには図解入りで宇須岸の水の作り方が書かれている。


○宇須岸の水作り(インサート)


   ※文献に書かれた記述と蒼志の行動をダブらせる。


   滝の絵(水)

   函館に流れる滝に行き、流れ落ちる水を汲む。


    ×     ×     ×


   海産物の絵(タンパク質などの栄養素)

   港にある市場に行き、イカや昆布などの海産物を集める。


    ×     ×     ×


   山、岩の絵(ミネラルなどの鉱物)

   活火山である恵山に登り、火山岩を採取する。


○蒼志の家・倉庫(回想)


   作業中の蒼志。

   文献を見ながら、それぞれの分量を計り、混ぜ合わせている。

   そこにやって来る詩歌(14)

   滝から汲んで来た、水の入ったポリタンクを運んでいる。


詩歌「ココでいいの?」

蒼志「おう。ありがとう」


   タンクを置く詩歌。不安そうに蒼志を見る。


詩歌「本当にやるの?」

蒼志「この水飲んでビーム受けりゃ、能力が移動出来るかもしれねえんだ」

詩歌「でも、何の保証もないんでしょ?」

蒼志「だからって黙って見てられんのか?」

詩歌「……」


   作業する手を止めない蒼志。


蒼志「一華を救ってやるにはコレしかねえんだ……」


   見守るしか出来ない詩歌。


   倉庫の片隅で様子を見ている郡司ぐんじ(72)

   蒼志の祖父である。

   厳しい眼差しをして、じっと蒼志を見つめている。

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