第13話 一華のキモチ【後編】

○高校・外


   学祭1日目。文化祭。

   多くの売店が出ていて賑わっている。


○同・廊下


   『案内係』と腕章を付けた一華が歩いている。

   そこにクラスTシャツを着た詩歌しいかがやって来る。


詩歌「あ、いた!そろそろ始まるってさ。行こ!」

一華「うん!」


   笑顔で走っていく2人。


○同・体育館


   詩歌に手を引かれながらやって来る一華。

   体育館は既に大勢の生徒達でごった返しており、

   ステージではメインイベントのライブが始まろうとしている。


詩歌「もっと前行こ、前」

一華「うん」


   人を掻き分けながらステージに近づいていく一華と詩歌。

   なるべく手が触れないように手はずっと胸の前。

 

   すると、軽快なMCの後にバンドメンバーがステージに現れる。

   高まる熱気。一華と詩歌も楽しそう。


   と、怪獣サイレンが鳴る。


詩歌「うそ……」


   一華を見る詩歌。

   一華は詩歌に笑顔を向けると、手を胸の前にやり

   自分を抱くようにして人波に逆らって出口に向かう。

   茜が体育館に入って来て、出て行く一華とすれ違う。


茜「……」


   演奏が始まり生徒達から歓声が上がる。


○町の遠景


   遠くに聞こえる怪獣の雄叫び。


○公園(夕方)


   怪獣を倒した後。

   一人ブランコに座っている一華。

   ぼんやりと町を眺めている。


一華「もう慣れたさ……」


   そのまま座っていると、おばあさんがやって来る。

  (冒頭に出て来たおばあさん。一華に拍手をしていた人)

   持っていた袋からりんごを取り出すと一華に手渡す。

   そして一華の手を優しく握る。


一華「!?……ありがとうございます……」


   拝むようにして一華に向かって手を合わせると去っていくおばあさん。


一華「……」


○高校・グラウンド(日替り)


   学祭2日目。体育祭。

   グラウンドから生徒達の声援が聞こえる。

   教員用のテントに座っている制服姿の一華。

   同級生達が汗を流す中、一人だけ制服を着ている。

   同級生達を見ながら、昔の自分を思い出す。


    ×     ×     ×


   小学校。

   一人、隅っこに座って運動会を見ている一華(7)

   見ている一華の顔が6年生に。


    ×     ×     ×


   校庭から修学旅行に行く子達を見送る一華(12)


    ×     ×     ×


   教室で帰って来た子達が盛り上がっている。

   一人席に座って、ぼーっと外を見ている一華。

   同ポジで中学校に。


    ×     ×     ×


   中学校の教室。

   ぼーっと外を見ている一華(15)

   教室ではクラスの子が修学旅行の写真を見ながら盛り上がっている。

   一華が見ているグラウンドが体育祭の日に。


    ×     ×     ×


   中学の体育祭。大縄跳び。

   一華が輪に入ろうとすると、周りの子が避けるようにして離れていく。


    ×     ×     ×


   一人テントに座り、体育祭を見ている一華

   (回想終わり)


    ×     ×     ×


   現在。

   一人テントに座り、体育祭を見ている一華(18)

   同級生達のはしゃぎ声が耳を通り過ぎていく。


一華「……」


   そこに詩歌の声。


詩歌「一華ぁー」


   テントに駆け寄って来る詩歌。

   一華も小さく手を振る。


一華「しーちゃん走るの?」

詩歌「おう。足速い女はモテるからな」

一華「そうだっけ?(首を傾げて)」


   笑いあう2人。

   詩歌は一華を気にしている。


詩歌「いいの?なーんも出なくて」

一華「うん」

詩歌「……」


   一華は どこか遠慮しているように見える。

   すると詩歌が一華の手を取り、両手でギュッと握る。


一華「しーちゃん?」

詩歌「私は、あんたと一生付き合うからね」

一華「……」


   まっすぐとした目で一華を見る詩歌。


詩歌「地獄の果てまで付きまとってやるから。覚悟しときな」


   握られた手から詩歌の体温が伝わってくる。


一華「……」


   と、リレーの開始を告げるアナウンス。


詩歌「応援しくよろ(ピース)」


   走っていく詩歌の背中を見送る一華。


    ×     ×     ×


   ピストルが鳴ってリレーが始まる。


    ×     ×     ×


   最下位でアンカーの詩歌にバトンが渡ると超人的なスピードで走り出す。


一華「しーちゃーん!」


   声援を送る一華。

   あっと言う間にごぼう抜き。そのまま1位でゴールする。

   ゴールした詩歌が一華に向かってドヤ顔でピース。

   一華も喜んでいる。と、そこにアナウンス。


アナウンス「次は最終種目のフォークダンスです。生徒のみなさんは入場門に集まって下さい」


   入場門に集まり出す生徒達。

   隣り合った男女が、どちらからともなく手を出して手を繋ぎだす。

   何となく感じる青春のそわそわ感。


一華「……」


   教師もみんな出て行って、テントの中には一華だけ。

   手首に付けたリボンをギュっと掴む。

   入場門にいる詩歌。こっちを見ている一華に気づく。


詩歌「……!」


   生徒達の輪から抜け出して一華の元に駆け寄って行こうとする。

   と、怪獣サイレンが鳴りだす。


一華「……」


   テントに北美原がやって来る。


北美原「しょうがない、光。行くぞ」

一華「はい」


   立ち上がって行こうとする一華。


詩歌「一華ぁー!」


   大声で叫ぶ詩歌。

   茜も気づいて一華を見る。

   詩歌に向かって小さく手を振る一華。


詩歌「……」

茜「……」


   サイドカーにちょこんと座ると走っていくバイク。

   オクラホマミキサーの音楽が流れ始める。


○函館山・漁火公園(夜)


   バイト終わりの蒼志。

   片付けを終え帰ろうとしていると、

   ぼーっと景色を見ている一華に気づく。


蒼志「一華?」

一華「(気づく)」

蒼志「よう。今日もオジさんトコか?」

一華「うん…まあ……」

蒼志「そっか」


   一華の隣りにやって来て、柵にもたれかかる蒼志。


蒼志「今日も綺麗だな」


   景色を眺めながらしみじみと呟く。


蒼志「これも全部、一華のおかげだな」

一華「……」


   一華の瞳に映る、光り輝く函館の夜景。


蒼志「けど怪獣の野郎も本当懲りねーよな?何も学祭の時まで出なくたっていいのによ。ちったぁ空気読めってんだよな?」


   そう言って一華を見る蒼志。

   俯いている一華。

   横顔に髪が掛かって表情が見えない。


蒼志「一華?」


   小さな嗚咽が聞こえだす。


蒼志「おい、一華……?」


   一華の頬を大粒の涙が伝う。

   顔を上げ、子供のように泣き出す一華。


蒼志「……」

   

   何も出来ない蒼志。


   何も出来ず、一華の横に ただ立ち尽くしている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る