第12話 一華のキモチ【前編】

○高校・廊下(放課後)


   お祭りを終えた数日後。

   廊下に学祭のポスターが貼られているのが見える。

   そのポスターの横に立っている一華。

   廊下の窓から何か見ている。


一華「……」


   そこに詩歌しいかがやって来る。


詩歌「いーちか。帰ろー」

一華「(振り向く)」

詩歌「何か見てたの?」

一華「ううん(首を振る)」

詩歌「そ。じゃ行こ(歩き出す)」

一華「うん」


   歩き出す一華。が、まだ視線は窓の外。

   校門付近に仲良さげな男女の姿。

   彼氏と手を繋いで歩いて行く女の子。


一華「……」


   手を繋いで歩いていく姿が一華の視線に留まり続ける。


○デパート


   買い物客で賑わう店内。

   クレープを2つ持って詩歌が歩いてくる。

   キョロキョロとした後、一華を見つける。


詩歌「おまたー」

一華「うん。ありがとう」


   女性用の下着売り場を見ていた一華。


詩歌「新しいの?」

一華「うーん……(どっち付かずの返事)」


   見ているのは少し大人っぽい下着。


詩歌「そういうのもいいかもね。一華持ってるの可愛い系ばっかでしょ?」

一華「……」


   詩歌も何となく物色し始める。


一華「ねえ、しーちゃん」

詩歌「ん?」

一華「してる時にビームでちゃったらどうなるのかな?」

詩歌「(絶句)」


   突然の問いに思わず固まってしまう詩歌。


一華「そもそも無理か?手も繋げないんだもんね(笑)」

詩歌「一華……」


   笑いながら売り場を離れていく一華。

   詩歌の持ってるクレープに目を付ける。


一華「もーらい」


   クレープを受け取ると、大きな口を開けて食べよう…

   とした所で怪獣サイレン。

   ハハっと自虐的に笑う一華。

   電話が鳴って出る。


一華「わかった。うん。じゃ、そこで待ってる」


   電話を切るとクレープを詩歌に返す。


一華「ゴメン!ちょっと行って来るね」

詩歌「うん。気をつけてね…」


   行こうとして、くるりと振り返る。


一華「怪獣退治、行って参ります!(敬礼)」


   飽くまで明るい一華。

   走って行く一華を心配そうに見つめる詩歌。


○高校・外(日替り)


   放課後。下級生達が学祭の準備をしている。


○同・廊下~教室


   校舎の3階では3年生達が思い思いに過ごしている。

   参考書や大学の資料を見ていたりと進学を考えている者が多い。

   そんな同級生達を横目にしながら一華が廊下を歩いてくる。

   詩歌のクラスにやって来て、声を掛ける。


一華「しーちゃん」

詩歌「あ、ゴメン一華。今日補習なんだ」


   黒板には進学者を対象とした補習の案内が書かれてある。


詩歌「ゴメンね(手を合わせて)」

一華「ううん。じゃあね」


   手を振って出て行く一華。

   そんな一華を周りの子が見ている。

   隣りにいた麻衣が詩歌に話しかける。


麻衣「ねえねえ、ひかりってさ進学とかすんのかな?」

詩歌「さあ。一華はその気ないみたいだけど」

麻衣「まーしたくても出来ないのか?この町から出られないんだもんね」

詩歌「……」


   一華を見ていた周りの子が話に入って来る。


女1「じゃあさ、就職って事?」

詩歌「さあ。わかんないけど」

男1「って言ってもさドコ行くの?高卒だとたかがしれてんだろ?」

男2「でも、市役所は決まってんだろ?」

麻衣「そうなの?」

男2「だってさ、町としても光にいて貰わなくちゃなんない訳だし。今も何らかしらの形で関わってると思うけど。卒業したら正式な所属になんじゃないの?」

麻衣「そっかーそうだよね。じゃあもう決まってんだ」

男1「いいよなー楽で。市役所だったら安定じゃん」

女1「ある意味、イージーだよね」


   詩歌が女1を睨みつける。


女1「あ、ゴメン…」

詩歌「……」


   窓外を見る詩歌。

   校門に向かって一人歩いていく一華が見える。


○町中(夕方)


   帰宅中の一華。

   自転車を漕いでいると怪獣サイレンが鳴る。


一華「……」


   が、一華は止まらずに、そのまま自転車を漕いで行く。

   電話も鳴るが出ない。やがて切れる。

   そのまま自転車を漕ぐ一華。

   その間、色んな町の人とすれ違う。


   世間話をしている主婦。元気な小学生。小さな子を連れて歩く家族連れ。


   サイレンが鳴る中、何事もなかったように過ごす町の人。

   一華も何事もなかったかのように自転車を漕いでいく。

   誰もそれが一華だとは気づかない。


一華「……」


   手首に付けたリボンを見る一華。

   自転車を止めると、スマホを取り出して掛け直す。


一華「あ、ゴメン。自転車乗ってて気づかなかった。うん、わかった。すぐ行くね」


   自転車を逆方向に向けると、立ち漕ぎして猛スピードで漕いで行く。

   手首に付けたリボンが揺れている。

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