第10話 お祭り【前編】
○お祭りの会場
沿道に集まっている大勢の人。函館伝統のお祭りが行われている。
(参考 函館港まつり)
一角にあるスペースにイベント用のステージが立っている。
そのステージに立っている職員(若)。マイクを握って進行しだす。
MC「ただいまより、一華ちゃんビームでちゃうようになった記念!第11回、大声ビーム大会を開催致します!」
会場から送られる大きな拍手。
MC職員(若)の後ろに看板が見える。
『一華ちゃん、ビームでちゃうようになった記念・第11回大声ビーム大会』
港まつりと抱き合わせで行われる恒例イベントである。
MC「既に午前中に予選を終えておりますので、これより決勝を行います!」
MC職員(若)がステージ場の登場台を指さす。
MC「それでは早速参りましょう!ビーム出したい奴ぅぅぅ~出て来いや!!!」
粋な出がらしと、真っ白な炭酸ガスが噴射され、
胸に番号札を付けた出場者が姿を現す。
MC「まずはこの人!函館最古の歴史を持つ、社会人野球チームからやって来た、土方の魂を受け継ぐサムライ戦士!鬼の副将とは俺の事!函館
1番を付けた千代台次郎(20代)がポーズを決めて右手を突き出す。
千代台次郎「はー!」
ステージにパンチパーマの屈強な男のシルエット。
MC「俺のハートは活火山!熱くなり過ぎたらすいやせん!
2番を付けた御崎三郎(40代)がポーズを決めて右手を突き出す。
御崎三郎「はー!」
続いて、仙人のような出で立ちをした老人。
MC「ビームじいさんとは俺の事!若いもんにはまだまだ負けん!国宝、
3番を付けた南茅部勝見(80代)がポーズを決めて右手を突き出す。
南茅部勝見「ふがー!(入れ歯が外れる)」
そして、次の人物のシルエット(特徴的な帽子)が見える。
すると、会場から「隊長ー!」「ぜんさーん!」の声。
MC「そして、第1回大会からの出場者であり、今大会の予選を1位で追加した大本命!!コネなし、金なし、前髪なし!ないないずくしのアラフォー兄貴!光一華、
生え際を隠す為のトレードマークの帽子から、ニヒルな視線を覗かせる。
4番の番号札を付けた親衛隊・隊長こと戸井禅之介がポーズを決めて
右手を突き出す。
禅之介「一華ちゃーん!!!」
その拍子に取れる帽子。生え際が大変寂しい事になっている。
MC「そして最後は勿論この人!前回チャンピオンであり、最多の優勝回数を誇るキング・オブ・ビーム!」
噴射される炭酸ガス。
MC「函館生まれ、函館育ち、塩辛好きなら大体友達!1に塩辛、2に塩辛、3、4がなくて、5にイカ刺し!騙されたと思ったら騙された!で、おなじみの塩辛バーガー考案者!函館が生んだミスター塩辛!高丘~蒼~志!」
5番の番号札を付けた蒼志がポーズを決めて右手を突き出す。
蒼志「はー!」
出場者が出揃った所で、MC職員(若)がステージの端に設けられた席を
促す。
MC「審査員には陣川市長並びに、地元有志の方にお願いしております」
審査員席に並ぶ陣川ら審査員の面々。
そして、その端っこには一華の姿。
MC「尚、今回も特別審査員として、一華ちゃんにも来て貰っています!」
会場からの惜しみない拍手。
に対して一華の顔は無表情に近く、一点を見つめたまま座っている。
一華「……」
※注釈
一華が自分に関連したイベントで「借りて来た猫」な状態になるのは、
周りの勢いに引いているから。
が、大半の理由であるが、これはビームが出るからといって、
その力を誇ってはならないという光家の教えから来る物でもある。
MC「それでは早速参りましょう!手からビームを…」
MC職員(若)が会場にマイクを向ける。
客席「出しやがれ!!!」
横一列に並んだ出場者達が手を突き出し、
それぞれポーズを決めて「はー!」とやり出す。
尚、大声大会と銘打っているが声の大きさは競われず、
競われるのはビームを出してる感である。
様々にビームを出してる感を醸し出す出場者に向かって、
客席からも声援が飛ぶ。
観客1「出てる!出てるよ!1番出てるよ!指先からビーム出てるよ!見えてるよ!」
観客2「2番!手に小っちゃいジープ乗せてんのかい!」」
観客3「3番、出てるよ!入れ歯出てるよ!」
観客4「4番、出し過ぎ!生え際、出過ぎてるよ!」
観客5「5番!好きな子に壁ドンしてんのかい!」
客席から飛ぶ様々な声援。
いたって真剣な出場者達。
厳しい視線を向けている審査員。
一点を見つめたままの一華。
一通りアピールが終わって。
MC「それでは、早速採点に移りたいと思います。まずは1番から。それでは一斉に札をお上げ下さい!どうぞ!」
審査員達が一斉に得点の書かれた札を上げる。
MC「7点、5点、8点!そして、一華ちゃんは…70点!合計は…90点!」
会場から「おー」の声。
MC「念のため説明しておきますが、審査員は10点満点での採点、なお特別審査員の一華ちゃんのみ100点満点での採点となっております。では、審査員の方に、お話を伺ってみましょう。まずは陣川市長から」
陣川「そうですね、1番の方は決勝に残るのは今回初めてと聞きましたが、まあ、初めてにしては良かったんじゃないですかね」
MC「ありがとうございます。では、お隣の今大会の発案者でもある、この方にも伺ってみましょう」
隣りに座っているのは、いつぞやのカメラマン。
格好がバージョンアップしていて、DJ KOO並のパリピ衣裳に
身を包んでいる。
カメラマン「うーん……もっとこう出してる感じ欲しいんだよね。こう出してます!って感じ?今のじゃ、全然わかんないからさ。少なくとも俺には見えなかったね」
MC「えー、ありがとうございます。ビームが見えなかったという事でしょうか?実際、見えたら大変なんですが。では、一般枠からご参加頂きました審査員の方にも聞いてみましょう」
審査員席に座っているおばあさん。
少し耳が遠く、周りに促されてようやくマイクを取る。
おばあさん「あー今日はね、帰りに市場寄ってね、イカもええんじゃけど、真昆布と戸井マグロを買って食べようか思うとります。はい」
MC「えー…ありがとうございます。さぞ美味しく頂ける事でしょう。では、最後に一華ちゃん、いかがだったでしょうか?」
丸々とした目をして前だけを見ている一華。
MC「一華ちゃん?」
一華「あ、すいません。えっと…よく出てたと思います…」
その後も次々と発表される得点。
MC「92点!」
陣川「さすがベテランだけあって伸びがありますね」
MC「87点!」
カメラマン「出てるっちゃ出てたんだけどね。入れ歯が…」
おばあさん「えー明日のお昼はね…」
そして、予選を1位で通過した親衛隊・隊長、戸井禅之介の採点に。
MC「9点、8点、10点!おー凄い!そして、一華ちゃんの得点は…73点!となると合計は…なんとなんと100点だ!!!」
客席から今日一番の歓声が上がる。
ステージ上の得点ボードの暫定一位に『戸井禅之介』の名前が
掲げられる。
MC「これは優勝の可能性が見えて来ました!そして最後はミスター塩辛、高丘蒼志の得点だ!では、みなさんお上げ下さい!どうぞ!」
得点を上げる審査員。
MC「1点、1点、2点……おっとっと、これはどうした?そして最後、一華ちゃんの得点は……?」
得点を上げる一華。上げたのは100点の札。
MC「100点!?え?え?どういう事?どういう事?合計どうなってる?」
得点を集計するアシスタント。
そして、104点を示した『高丘蒼志』の名前が得点ボードの一番上に
掲げられる。
MC「なんとなんと、まさかまさかの大逆転!一華ちゃんビームでちゃうようになった記念、第11回大声ビーム大会チャンピオンは、ミスター塩辛!高丘蒼志!!!」
MC職(若)に腕を掴まれ、蒼志の手が高々と上げられる。
MC「何とこれで大会11連覇!まさにキング・オブ・キング!スーパー塩辛ミラクルボーイの誕生です!」
蒼志に王冠と『キング・オブ・ビーム』と書かれた襷が掛けられる。
客席から送られる大きな拍手。
客席にいる詩歌。苦笑いを浮かべながら手を叩いている。
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