第6話 一華の過去

○海岸沿いの道


一華「ふー」


   怪獣を倒した一華(18)

   周りには多くの野次馬。その野次馬の中には親衛隊の姿も。

   みな『IBLアイ・ビー・ラブ』とロゴの入った、お揃いのTシャツを着ている。

   その中から一人が抜け出して、一華の元に駆け寄って来る。


新入り「うわ、本当に一華ちゃんだ!スゲー本物だ!ファンクラブ、入ったばっかなんすよ!」


   一華に着ているTシャツをアピールする新入り(大学生くらい)


一華「はあ…(困惑)」


   興奮気味の新入り。

   引き気味の一華にもお構いなしで勝手に自撮りを撮り始める。

   それが終わると、ばっと手を差し出す。


新入り「握手して下さい!」

一華「あ、私、出来ないんです…」

新入り「え?なんで?」

一華「ビームでちゃうんで……」


   そこに親衛隊の隊長らしき男性 (アラフォー)がやって来る。

   被っている帽子には『IBL』の文字と『Leader』の文字。

   新入りの頭をぽかっと殴ると、そのまま連れていく。


一華「……」

一閃「一華ぁー」


   車から一閃いっせんが呼んでいる。

   車に戻りながら親衛隊の方を見る一華。

   新入りが隊長に説教されている。


一華M「こんな私でも、ちょっとした恋愛の経験くらいはある」


○函館公園(回想)


   可愛らしい私服姿の一華(中学生)

   女友達2人と待っていると男が2人(少し年上)がやって来る。


男1「わ!本当に一華ちゃんだ。本物初めて見た」

男2「実物めっちゃ可愛いじゃん」

一華「(恥ずかしい)」

女友達「じゃ行こうか」


   さあ、行こうとした所で怪獣サイレン。

   みなの視線が一華に集まる。


一華「あ、えっと、ちょっと行って来ます。すぐ戻って来るんで」


   必死に取り繕う一華。

   一人、出口に走っていく。


    ×     ×     ×


   怪獣を倒して、大急ぎで戻って来る一華。

   友人達を見つける。

   が、既にそれぞれいい感じ。


一華「……」


   合流せずに、そっと立ち去る。


一華M「まあ、こんな事はよくあった」


○中学校・校舎裏(回想)


一華M「告白した事だって」


   一華の前に爽やか男子。

   緊張した面持ちの一華。思い切って告白。

   ごめんと断られる。ショックな一華。

   物影で見ていた詩歌が駆け寄っていく。


○同・廊下(回想)


   別の日。

   一華が歩いていると教室から笑い声。

   中を見ると告白した男子。咄嗟に隠れる一華。

   男子達の話し声が聞こえてくる。


爽やか「だってさ、手からビームでるんだぜ?そんな奴嫌だろ」

一華「(ショック)」


   笑ってる周りの男子。


爽やか「しかもさ、アイツ手も繋げないらしくて。そんなの付き合っても意味ないじゃん」

一華「……」

爽やか「まぁ顔は好みだったから、ビームでなきゃ付き合っても良かったんだけどな(笑)」

男子「お前、最悪(笑)」

   

   軽薄な笑い声は廊下にまで響いている。

   と、凄い勢いでドアが開く。


一華「!!!」


   驚いて中を見る一華。

   するとそこに詩歌の姿。

   ズンズンと男子達に詰め寄って行き、

   座っていた爽やかの胸ぐらを掴んで立ち上がらせる。


詩歌「おいコラ…(静かな怒り)」

爽やか「な、何だよお前(苦しい)」

詩歌「誰が好きでビームだすんだオイ?お前もだしてみるか?怪獣倒し行くか?」


   掴んでた手を離して突き飛ばす。


詩歌「あたり前だと思ってんじゃねーよ!!!」


   圧倒されてる男子達。

   廊下で一華が涙ぐんでいる。


一華M「しーちゃんには、本当に何度も助けてもらった」


○海岸沿いの道(回想戻り)


   一閃の車に乗り込む一華(18)


一閃「ご苦労さん」

一華「うん」


   走り出す車。

   一閃の横顔を見る一華。


一華M「お父さんともよくケンカした」


○一華の家・外観(夜)(回想)


   家から聞こえる怒鳴り声。


○同・リビング(夜)(回想)


   一華(14)と一閃が激しく言い合っている。


一華「もう嫌!何でこんな事しなきゃなんないの!」

一閃「お前がやらないで誰がこの町守るんだ!」

一華「知らない!どうでもいい!(出て行こうとする)」

一閃「一華!」


   ドアの所で立ち止まる一華。


一華「いっつもいっつもそんな事ばっか言って……私の気持ちなんて全然考えてくれた事ないじゃん!」

一閃「……(辛い)」


   そこに一太いちたが起きて来る。


一太「いっちゃん?」

一華「……」


   一華の目には涙が一杯。

   そのままリビングを飛び出していく。


一閃「一華!」


○公園(夜)(回想)


   一人ブランコに座って泣いてる一華。

   と、怪獣サイレンが鳴る。

   が、一華は動こうとしない。電話も鳴っているが出ない。


一華「……(ずっと泣いている)」


○海岸沿いの道(夜)(回想)


   夜道にヘッドライトの小さな光が激しく揺れる。

   自転車に乗った一華が猛スピードでやって来る。

   止まって自転車を放り出す一華。目の前には怪獣。


一華「……」


   真っ赤な目をして怪獣を睨みつける一華。

   手を突き出してビーム!

   消えていく怪獣。

   夜道に立ち尽くす一華。涙が溢れる。


一華M「何で私だけ?は、もう100万回以上は思った」


○病院・病室(夜)(回想)


   周りを気にしながら一華が忍び込んでくる。

   『光愛華』と書かれた病室。

   眠っていた愛華(38)が気配を察して起きると、

   一華に気づいて「おいで」と手招きする。

   涙ぐむ一華。愛華の胸に飛び込む。

   声を押し殺して泣く一華。

   優しく一華を抱きしめる愛華。

   病室の窓から函館の夜景が見える。


○函館山・漁火公園(夜)(回想戻り)


   函館の町が一望出来る展望台。

   そこで夜景を見ている一華(18)

   目元が少し潤んでいる。

   そこにバーガー屋のエプロンを付けた蒼志がやって来る。


蒼志「よう」

一華「うん(慌てて目元を拭う)」

蒼志「オジさんとこか?」

一華「うん。さっきまで一緒だったから」

蒼志「そっか。どうだ?バーガー食ってくか?」

一華「いい。家で、いっちゃん待ってるから」

蒼志「そっか。ほんじゃまたな」

一華「うん」


   テナントに戻っていく蒼志。


蒼志「函館名物、塩辛バーガーいかがっすかー」

   

   蒼志を見ている一華。


一華M「私は一度、そーしにビームした事がある」


    ×     ×     ×


   泣いている一華(14)フラッシュ


    ×     ×     ×


   泣いている蒼志(15)フラッシュ


    ×     ×     ×


   蒼志を見ている一華。


一華M「けど、私はもう誰にもビームしない。そう決めてる」

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