第2話 光一華【後編】

○一華の家・外(朝)


   家から出て来る制服姿の一華(18)

   手首にはいつものリボン。


一華「行ってきまーす!」


   自転車に乗って坂道を下っていく。


一華M「ハッキリ言って、怪獣はめちゃ弱かった」


○海岸沿いの道(回想)


   海岸に現れる怪獣。

   見た目ド迫力で猛々しい。

   が、一華(7)がビームすると、すぐ消えて行く。


一華M「ただ、この怪獣さん。とことん空気を読まない」


○インサート(回想)


   小学校。

   授業を受けている怪獣サイレンが鳴る。


    ×     ×     ×


   遠足に来ている一華。

   お弁当を食べようとした所でサイレンが鳴る。


    ×     ×     ×


   夜。自宅。

   お風呂に入ってる時にサイレン。

   慌てて湯船から立ち上がる。 

   (体は上手いこと隠れて見えない)


    ×     ×     ×


   大晦日の夜。自宅から聞こえる笑い声。

   家族揃って年越し番組を鑑賞中……と、怪獣サイレンが鳴る。

   顔を見合わせる面々。さっきまでの笑顔が消える。

   立ち上がる一閃いっせん。一華も続く。

   

   雪の降り積もる寒空の中、2人で出て行く。


一華M「こんなだから、私はこの町から出た事がない」


○小学校(回想)


   修学旅行の日。

   みんなが乗っているバスを、一人校庭から見送る一華(12)


一華M「だから旅行は勿論。修学旅行にも」


    ×     ×     ×


   部屋で一人寂しく過ごしている一華。

   窓外に見える町を何となく眺める。


一華M「けど、そんな時に限って出なかったり」


   がっくりと項垂れる。


一華M「本当、意地悪」


    ×     ×     ×


   数日後の教室。

   帰ってきた子達が写真を見ながらわいわいやっている。

   その輪に入れない一華。

   一人離れて席に座り、ぼーっと外を眺めている。


一華M「ビームが出るようになってから、私は『普通』が出来なくなった」


○商店街(回想戻り)


   町の人に「おはよー」と声を掛けられながら通り過ぎていく一華(18)

   その顔は、どことなく冷めて見える。

   商店に貼られている一華のポスター。

   右手を突き出してポーズを決めている。が、その顔は無表情。


一華M「とはいえ、私はこの町を守っている訳で…」


○写真スタジオ(回想)


   白ホリの前に立たされている一華(7)


カメラマン「はーい!いいね、いいねー!もっと笑ってみようか?」

一華「……」


   派手な格好をしたカメラマンが一生懸命煽るが、

   一華はもじもじとしていてカメラマンのノリに付いて行けてない。


カメラマン「もっとこうビーム出してる感じ欲しいんだよね。今のじゃ全然わかんないからさ」


   カメラマンが「はー!」といった感じで手を突き出す。


カメラマン「こう出してます!って感じ?そういうの欲しいんだよね!」

一華「……」


   言われるがまま手を突き出す一華。


カメラマン「いいね~!じゃあ行くよ!出してます!出してます!もっとー出してます!出してます!」


   言いながらシャッターを切っていくカメラマン。

   無表情のまま、手を突き出している一華。


○町中(回想)


   その写真がポスターとなって駅前や商店に貼られている。


○小学校・校門(回想)


   出て来た一華をマスコミが取り囲む。

   恥ずかしがりながらも、まんざらでもない様子。

   そんな一華を、どこか冷ややかな目で見ている同級生の子供達。


○市内のホール(回想)


   お姫様席に座らされている一華。

   『一華ちゃん 怪獣倒してくれてありがとう!』の垂れ幕。

   壇上に町の大人達が勢揃いし、歌って踊って盛り上げる。


一華「……(目をぱちくり)」


   大人達の乱痴気騒ぎに目が点の一華。


一華M「たまに、こんな扱いをされたり」


○海岸沿いの道(回想)


   怪獣と対峙している一華。ビームして倒す。

   見物していた野次馬から拍手が起きる。


○商店街(回想)


   通り過ぎて行く一華に、町の人が飲み物や食べ物を次々と渡してくる。

   苦笑いの一華。


一華M「こうして私は、この町のヒーローになった」


○小学校・教室(回想)


一華M「だから勿論学校でも人気者」


   教室に一華が入って来る。が……。


一華M「という訳にはいかないようで…」


   避けるようにして離れていく子供達。

   みんなよそよそしい感じで一華を見ている。

   一人で立ち尽くしてる一華。


一華M「同年代からのウケは、すこぶる悪かった」


○同・校庭(回想)


   子供達が校庭で鬼ごっこ(手つなぎ鬼)をしている。


一華M「基本、人に向かってビームをする事はない」

男の子「タッチ!」


   捕まえて手を繋ごうとする男の子。

   手を出す事を少し躊躇う一華。


男の子「何だよ?早くしろよ」


   仕方なく手を繋ごうとする。

   と、誤ってビームが出てしまう。


男の子「あち!何だよお前?」


   気味悪そうに一華を見る男の子。

   怖がって行ってしまう。


一華「……」


○同・体育館(回想)


先生「はーい。じゃあ、みんな手繋いで」


   先生の号令で一華と手を繋ごうとする男の子。

   するとビームが出て「あち!」となる。

   泣き出す男の子。


子供「せんせー、一華ちゃんがタカシ君泣かしましたー」


   一華を見て怖がっている周りの子。


一華「……」


   自分の手をじっと見ている一華。


一華M「私はビームをコントロールする事が出来なかった」


○同・校庭(回想)


   運動会。

   校庭から元気な子供達の声が聞こえる。


一華M「意識したり、感情が高ぶるとダメ」


    ×     ×     ×


   綱引き。

   一生懸命引っ張っているとビームが出てしまい、一華の所で切れてしまう。


    ×     ×     ×


   玉入れ。

   玉を投げているとビームが出てしまい、カゴを壊してしまう。


    ×     ×     ×


   リレー。

   バトンを受けて走りだす一華。

   「出てる!出てる!」と周りの声。

   バトンを握りしめた一華の手からビームが出ている。

   周りはビームが当たらないようにと、てんやわんや。

   不満そうな顔で一華を見ている子供達。


    ×     ×     ×


一華「……」


   みんなから離れて、一人隅っこに座っている一華。

   体操服の上着を着ていて、その袖で手を隠している。


子供「せんせー、一華ちゃん見学するって言ってまーす」

先生「え、どうして?」

子供「ビームでちゃうからって」


   笑っている周りの子。


一華M「けど、こんな私にも友達はいた」


   子供達の中に一人、一華を見ている女の子がいる。

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