手からビームでちゃう

よしの

第一幕「光一華」

第1話 光一華【前編】

○ベイエリア・赤レンガ倉庫内


   買い物客や観光客で賑わっている館内。

   そこに可愛らしいピンクのリボンを手首に巻いた光一華ひかり いちか(18)

   制服の着こなしも下品なく清楚な雰囲気の女子高生。

   学校帰りに寄ったクレープ屋で店員と親しげに話をしている。


一華「わぁー!おいしそー!」


   店員からクレープを受け取って喜ぶ一華。

   大きな口を開け、いざ食べようとする。

   すると突然、館内にサイレンが鳴り響く。


一華「もぉー……」


   がっくりと肩を落とす一華。

   電話が鳴って出る。


一華「もしもし……うん。わかった。近いから大丈夫。うん、じゃあね」


   電話を切ると、もう一度ため息。

   持っていたクレープを恨めしそうに見る。

   そんな一華の後ろには仲良さそうなカップル。


一華「よかったら食べて下さい!」


   持ってたクレープを強引に渡す一華。

   困惑気味のカップル。


店員「今度またサービスするからね」


   そんな店員の労いの声も一華には届かず、そのまま深く項垂れる。

   それがスタートするような構えになって……ダッシュ!して走っていく。


店員「頑張ってねー!一華ちゃーん!」


   背中で応えて走っていく。


○同・外


   飛び出して来る一華。

   外に停めてあった自転車に颯爽と股がると猛スピードで漕いで行く。


○海岸までの道


   町中を走る路面電車。

   その電車を一華の自転車が追い抜いていく。


一華M「私、光一華。地元函館の高校に通う、ごくごく普通の女子高生」

   (※Mはモノローグの意味)


○海岸沿いの道


   一華の自転車が猛スピードでやって来る。

   海岸沿いで華麗にストップ。そして上を見上げる。

   視線の先には巨大な怪獣。見た目ド迫力で猛々しい。

   自転車を降りると仁王立ちして怪獣と対峙。

   呼吸を整え、構えを取る一華。集中。


一華「クレープぐらい……食べさせろー!」


   の声と共に、手からビーム発射。

   突き出した右手から青白い閃光が伸びていき怪獣に直撃。

   雄叫びを上げる怪獣。やがて消えていく。


一華「ふぅー…」


   端で見ていたおばあさんが拍手をしている。

   気づいて軽く会釈する一華。


一華M「唯一普通と違うのは、手からビームがでる事」


   野次馬が一華に向かってスマホのカメラを向けている。

   気にせず自転車に股がる一華。そのまま漕いでいく。

   その一華の後を、お揃いのTシャツを着た集団(親衛隊)が追いかける。


○一華の家(夕方)


   坂の上にある一軒家。

   そこに自転車を押しながら登って来る一華。

   光家の表札が見える。


一華M「私の手からはビームが出る。そしてそのビームで怪獣を倒す。それが、この光家に生まれた宿命なのだ」


   ただいまーと、家に入っていく。


○オープニング


   ナレーションとヒーロー物っぽいアニメーション。


N「ここ函館には、太古の昔から怪獣が現れる。古(いにしえ)の時より人々は力を合わせ、その怪獣を倒していた」


   立ちはだかる怪獣を人間のシルエットが囲む。


N「しかし、怪獣退治に追われる日々に人々は疲れ果て、やがて立ち向かう者の数は減っていった」


   怪獣に立ち向かう人間が減っていく中、一つだけ残るシルエット。

   その人物のシルエットが次々と変わった後、

   最後に女子高生のシルエットが浮かぶ。


N「だがしかし、ここ函館には、たった一人で怪獣に立ち向かうスーパーヒーローがいたのである!」


   顔が見え、そこに右手を突き出した一華の姿。


タイトル「手からビームでちゃう」


    ×     ×     ×


○一華の家(朝)


一華「行ってきまーす」


   手首のリボンを口で結びながら出て来る制服姿の一華。

   自転車に股がると坂道を下っていく。


町の人1「おはよー、一華ちゃん」

町の人2「お、一華ちゃんおはよー」

一華「おはよーございまーす」


   すれ違う町の人に次々と声を掛けられる。

   町の掲示板や商店の窓には一華のポスターが貼ってある。


○高校・教室


   『3ーA』のクラス表示。

   授業中で、教師が教科書を朗読している。

   その教室に一華の姿。

   綺麗に纏まったノートが見え、真面目に授業を聴いている。

   と、そこに怪獣サイレン。


一華「先生!(立ち上がる)」

教師「(頷いて)頼んだぞ」

一華「はい!」


   教室を飛び出していく一華。

   そんな一華とは対照的に、もの静かな生徒達。

   サイレンに反応している様子もない。

   やがてサイレンが鳴り止むと、再び教師が教科書に視線を落とす。


教師「じゃあ次、教科書35ページ……」


   何事もなかったかのように続く授業。


○同・外


   昇降口から飛び出して来る一華。

   走りながら電話で話している。


一華「うん、わかった!すぐ行く!」


   と、そこに職員用玄関からヘルメットを抱えた北美原(38)が出て来る。


一華M「この人は担任の北美原先生」

北美原「光!(ヘルメットを投げる)」

一華「はい!(キャッチ)」

一華M「頼もしい相棒でもある」


   2人して駐車場に走っていく。


○海岸沿いの道


一華「はー!!!」


   怪獣にビーム直撃。雄叫びを残しながら消えていく。

   少し離れた所に北美原がいて、バイクに股がったまま拍手している

   (バイクの全部は見えていない)

   見物している野次馬の中に親衛隊。

   望遠のカメラを一華に向けている。


親衛隊「一華ちゃーん!」

一華「(振り返る)」


   振り向いた顔(白目)を容赦なく撮られる(ストップモーション)


一華M「これが私の日常」


○商店街(夕方)


   自転車に乗って帰宅中の一華。

   商店街を通り抜けようとすると、

   町の人が食べ物や飲み物を次々と渡してくる。


町の人1「今日も見事だったね」

町の人2「また頼むよー!」


   あっという間に自転車のカゴは一杯に。

   肩にも勝手にぶら下げられる。


一華「あ、ありがとうございます…(苦笑)」


○一華の家・リビング(夕方)


   大量のお土産を抱えてリビングに入って来る一華。

   台所にはエプロン姿の光一太ひかり いちた(10)

   手際よく夕食の準備をしている。


一太「あ、いっちゃん、おかえりー」

一華M「この可愛らしい子は弟の一太」

一華「ただいまー、いっちゃん」

一華M「と、お互い呼び合っている」

一太「今日も大量だね(土産を見て)」

一華「ねー(どさっと置く)」


   そこに光一閃ひかり いっせん(46)が帰って来る。


一閃「ただいまー」

一華M「で、これはお父さん」

一華・一太「おかえりー」

一閃「おう一華。今日もご苦労だったな」

一華「うん(笑顔)」


    ×     ×     ×


   夕食を食べている3人。


一太「いっちゃん、おかわりあるから言ってね」

一華「うん。ありがと」

一華M「一太は怪獣退治に追われる私に代わって、家事全般をこなしてくれるスーパー小学生。我が弟ながら惚れてまう」

一閃「一華、醤油取ってくれるか?」

一華「うん」

一華M「お父さんは函館山にある観測所で、怪獣を警戒する仕事をしている」


○函館山・観測所(回想)


   双眼鏡を覗いて警戒している一閃。

   レーダーに怪獣の反応。


一閃「出やがった!」


   卓上のボタンを押すと怪獣サイレンが鳴る。

   そして受話器を取って電話を掛ける。


一閃「もしもし一華か?」


○一華の家・リビング(回想戻り)


   一閃に視線を向けたままモグモグと咀嚼している一華。

   一閃の後ろに飾られている写真が見える。

   若かりし頃の一閃が手を突き出してポーズを決めている。


一華M「ちなみに、元この町のヒーローでもある」


○海岸沿いの道(回想)


   怪獣と対峙する若かりし頃の一閃。

   少し離れた所から見ている光愛華ひかり まなか(20代)

   一華の母である。

   清楚な雰囲気の女性で、ポニーテールにした髪をピンクのリボンで纏めて

   いる。

   その愛華に幼い一華が抱っこされて一緒に一閃を見ている。


一華M「怪獣を倒せるのはビームが出せる光家だけ。昔はもっと出せる人もいたらしいけど、いつからか光家だけになったらしい」


   怪獣に向かって力強く手を突き出す一閃。

   ビームが発射され怪獣に直撃。

   雄叫びを上げながら消えて行く。

   目をキラキラとさせて、その光景を見ている一華。

   小さな手で拍手する。


一華M「私は、お父さんの怪獣退治を見るのが好きだった」


○裏山(回想)


   数年後。

   自宅近くにある裏山で特訓している一閃。

   構えを取って目を閉じる。集中。

   そしてパッと目を開けビーム!

   突き出した手から、青白い閃光がほとばしる。

   物陰から一華(7)が見ている。


一華「(感動)」


   キラキラとしたその目は好奇心に満ち溢れている。


一華M「怪獣倒すのもそうだし、何かビームが出るのが面白かった」


    ×     ×     ×


一華M「そして、ある日」


   目を閉じ集中している一閃。

   そして目を開けビーム!と、そこに一華が!

   間近で見ようとして、誤ってビームが直撃してしまう。


一華「!!!」


一閃「一華!」


   慌てて駆け寄る一閃。

   倒れている一華の体からは湯気のような物が出ている。


一閃「一華!おい一華!しっかりしろ!」


   気を失っている一華。やがて目を覚ます。


一閃「一華?大丈夫か?」

一華「……」


   起き上がる一華。特にケガをしている様子はない。

   そして何となく手を翳(かざ)してみると、手からビームがでる。


一閃「……」


○一華の家・一閃の部屋(回想)


   和室で向かい合って座っている一閃と一華。

   床の間には『美威夢(びいむ)』と書かれた掛け軸。


一閃「これまで光家は代々ビームが出る家系として親から子へと、その力が受け継がれて来た。今日起きたのはそれだ。お前に力を与えた父さんは、もうビームが出せない」


   ぽかんとしている一華。

   うまく状況を飲み込めていない。


一閃「お前は女の子だし、元々力を受け継がせる気はなかったが、こうなったからには仕方がない。これからは、お前が怪獣を倒すんだ」

一華「……」


   まだぽかん顔の一華。

   と、怪獣サイレンが鳴る。


一閃「行くぞ一華!」

一華「?」


○海岸沿いの道(回想)


   棒立ちしている一華の目の前に巨大な怪獣。

   身の竦むような雄叫びを上げている。


一華「(怖い)」

一閃「一華!」


   一閃に促され、見よう見まねで手を翳す。

   するとビームが出て怪獣に直撃。

   怪獣は雄叫びを上げながら消えて行く。


一華「……」


   自分の手を不思議そうに見ている一華。


一華M「この時、私はまだ7歳」


   一閃や、見ていた町の人が歓声を上げて駆け寄ってくる。


一閃「よくやったぞ一華!」

一華「……」


   盛り上がっている周りの反応とは反対に、無表情のまま立ち尽くしている

   一華。

   愛華が心配そうに見ている。


一華M「こうして、私の終わらない怪獣退治が始まった」

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