手からビームでちゃう
よしの
第一幕「光一華」
第1話 光一華【前編】
○ベイエリア・赤レンガ倉庫内
買い物客や観光客で賑わっている館内。
そこに可愛らしいピンクのリボンを手首に巻いた
制服の着こなしも下品なく清楚な雰囲気の女子高生。
学校帰りに寄ったクレープ屋で店員と親しげに話をしている。
一華「わぁー!おいしそー!」
店員からクレープを受け取って喜ぶ一華。
大きな口を開け、いざ食べようとする。
すると突然、館内にサイレンが鳴り響く。
一華「もぉー……」
がっくりと肩を落とす一華。
電話が鳴って出る。
一華「もしもし……うん。わかった。近いから大丈夫。うん、じゃあね」
電話を切ると、もう一度ため息。
持っていたクレープを恨めしそうに見る。
そんな一華の後ろには仲良さそうなカップル。
一華「よかったら食べて下さい!」
持ってたクレープを強引に渡す一華。
困惑気味のカップル。
店員「今度またサービスするからね」
そんな店員の労いの声も一華には届かず、そのまま深く項垂れる。
それがスタートするような構えになって……ダッシュ!して走っていく。
店員「頑張ってねー!一華ちゃーん!」
背中で応えて走っていく。
○同・外
飛び出して来る一華。
外に停めてあった自転車に颯爽と股がると猛スピードで漕いで行く。
○海岸までの道
町中を走る路面電車。
その電車を一華の自転車が追い抜いていく。
一華M「私、光一華。地元函館の高校に通う、ごくごく普通の女子高生」
(※Mはモノローグの意味)
○海岸沿いの道
一華の自転車が猛スピードでやって来る。
海岸沿いで華麗にストップ。そして上を見上げる。
視線の先には巨大な怪獣。見た目ド迫力で猛々しい。
自転車を降りると仁王立ちして怪獣と対峙。
呼吸を整え、構えを取る一華。集中。
一華「クレープぐらい……食べさせろー!」
の声と共に、手からビーム発射。
突き出した右手から青白い閃光が伸びていき怪獣に直撃。
雄叫びを上げる怪獣。やがて消えていく。
一華「ふぅー…」
端で見ていたおばあさんが拍手をしている。
気づいて軽く会釈する一華。
一華M「唯一普通と違うのは、手からビームがでる事」
野次馬が一華に向かってスマホのカメラを向けている。
気にせず自転車に股がる一華。そのまま漕いでいく。
その一華の後を、お揃いのTシャツを着た集団(親衛隊)が追いかける。
○一華の家(夕方)
坂の上にある一軒家。
そこに自転車を押しながら登って来る一華。
光家の表札が見える。
一華M「私の手からはビームが出る。そしてそのビームで怪獣を倒す。それが、この光家に生まれた宿命なのだ」
ただいまーと、家に入っていく。
○オープニング
ナレーションとヒーロー物っぽいアニメーション。
N「ここ函館には、太古の昔から怪獣が現れる。古(いにしえ)の時より人々は力を合わせ、その怪獣を倒していた」
立ちはだかる怪獣を人間のシルエットが囲む。
N「しかし、怪獣退治に追われる日々に人々は疲れ果て、やがて立ち向かう者の数は減っていった」
怪獣に立ち向かう人間が減っていく中、一つだけ残るシルエット。
その人物のシルエットが次々と変わった後、
最後に女子高生のシルエットが浮かぶ。
N「だがしかし、ここ函館には、たった一人で怪獣に立ち向かうスーパーヒーローがいたのである!」
顔が見え、そこに右手を突き出した一華の姿。
タイトル「手からビームでちゃう」
× × ×
○一華の家(朝)
一華「行ってきまーす」
手首のリボンを口で結びながら出て来る制服姿の一華。
自転車に股がると坂道を下っていく。
町の人1「おはよー、一華ちゃん」
町の人2「お、一華ちゃんおはよー」
一華「おはよーございまーす」
すれ違う町の人に次々と声を掛けられる。
町の掲示板や商店の窓には一華のポスターが貼ってある。
○高校・教室
『3ーA』のクラス表示。
授業中で、教師が教科書を朗読している。
その教室に一華の姿。
綺麗に纏まったノートが見え、真面目に授業を聴いている。
と、そこに怪獣サイレン。
一華「先生!(立ち上がる)」
教師「(頷いて)頼んだぞ」
一華「はい!」
教室を飛び出していく一華。
そんな一華とは対照的に、もの静かな生徒達。
サイレンに反応している様子もない。
やがてサイレンが鳴り止むと、再び教師が教科書に視線を落とす。
教師「じゃあ次、教科書35ページ……」
何事もなかったかのように続く授業。
○同・外
昇降口から飛び出して来る一華。
走りながら電話で話している。
一華「うん、わかった!すぐ行く!」
と、そこに職員用玄関からヘルメットを抱えた北美原(38)が出て来る。
一華M「この人は担任の北美原先生」
北美原「光!(ヘルメットを投げる)」
一華「はい!(キャッチ)」
一華M「頼もしい相棒でもある」
2人して駐車場に走っていく。
○海岸沿いの道
一華「はー!!!」
怪獣にビーム直撃。雄叫びを残しながら消えていく。
少し離れた所に北美原がいて、バイクに股がったまま拍手している
(バイクの全部は見えていない)
見物している野次馬の中に親衛隊。
望遠のカメラを一華に向けている。
親衛隊「一華ちゃーん!」
一華「(振り返る)」
振り向いた顔(白目)を容赦なく撮られる(ストップモーション)
一華M「これが私の日常」
○商店街(夕方)
自転車に乗って帰宅中の一華。
商店街を通り抜けようとすると、
町の人が食べ物や飲み物を次々と渡してくる。
町の人1「今日も見事だったね」
町の人2「また頼むよー!」
あっという間に自転車のカゴは一杯に。
肩にも勝手にぶら下げられる。
一華「あ、ありがとうございます…(苦笑)」
○一華の家・リビング(夕方)
大量のお土産を抱えてリビングに入って来る一華。
台所にはエプロン姿の
手際よく夕食の準備をしている。
一太「あ、いっちゃん、おかえりー」
一華M「この可愛らしい子は弟の一太」
一華「ただいまー、いっちゃん」
一華M「と、お互い呼び合っている」
一太「今日も大量だね(土産を見て)」
一華「ねー(どさっと置く)」
そこに
一閃「ただいまー」
一華M「で、これはお父さん」
一華・一太「おかえりー」
一閃「おう一華。今日もご苦労だったな」
一華「うん(笑顔)」
× × ×
夕食を食べている3人。
一太「いっちゃん、おかわりあるから言ってね」
一華「うん。ありがと」
一華M「一太は怪獣退治に追われる私に代わって、家事全般をこなしてくれるスーパー小学生。我が弟ながら惚れてまう」
一閃「一華、醤油取ってくれるか?」
一華「うん」
一華M「お父さんは函館山にある観測所で、怪獣を警戒する仕事をしている」
○函館山・観測所(回想)
双眼鏡を覗いて警戒している一閃。
レーダーに怪獣の反応。
一閃「出やがった!」
卓上のボタンを押すと怪獣サイレンが鳴る。
そして受話器を取って電話を掛ける。
一閃「もしもし一華か?」
○一華の家・リビング(回想戻り)
一閃に視線を向けたままモグモグと咀嚼している一華。
一閃の後ろに飾られている写真が見える。
若かりし頃の一閃が手を突き出してポーズを決めている。
一華M「ちなみに、元この町のヒーローでもある」
○海岸沿いの道(回想)
怪獣と対峙する若かりし頃の一閃。
少し離れた所から見ている
一華の母である。
清楚な雰囲気の女性で、ポニーテールにした髪をピンクのリボンで纏めて
いる。
その愛華に幼い一華が抱っこされて一緒に一閃を見ている。
一華M「怪獣を倒せるのはビームが出せる光家だけ。昔はもっと出せる人もいたらしいけど、いつからか光家だけになったらしい」
怪獣に向かって力強く手を突き出す一閃。
ビームが発射され怪獣に直撃。
雄叫びを上げながら消えて行く。
目をキラキラとさせて、その光景を見ている一華。
小さな手で拍手する。
一華M「私は、お父さんの怪獣退治を見るのが好きだった」
○裏山(回想)
数年後。
自宅近くにある裏山で特訓している一閃。
構えを取って目を閉じる。集中。
そしてパッと目を開けビーム!
突き出した手から、青白い閃光がほとばしる。
物陰から一華(7)が見ている。
一華「(感動)」
キラキラとしたその目は好奇心に満ち溢れている。
一華M「怪獣倒すのもそうだし、何かビームが出るのが面白かった」
× × ×
一華M「そして、ある日」
目を閉じ集中している一閃。
そして目を開けビーム!と、そこに一華が!
間近で見ようとして、誤ってビームが直撃してしまう。
一華「!!!」
一閃「一華!」
慌てて駆け寄る一閃。
倒れている一華の体からは湯気のような物が出ている。
一閃「一華!おい一華!しっかりしろ!」
気を失っている一華。やがて目を覚ます。
一閃「一華?大丈夫か?」
一華「……」
起き上がる一華。特にケガをしている様子はない。
そして何となく手を翳(かざ)してみると、手からビームがでる。
一閃「……」
○一華の家・一閃の部屋(回想)
和室で向かい合って座っている一閃と一華。
床の間には『美威夢(びいむ)』と書かれた掛け軸。
一閃「これまで光家は代々ビームが出る家系として親から子へと、その力が受け継がれて来た。今日起きたのはそれだ。お前に力を与えた父さんは、もうビームが出せない」
ぽかんとしている一華。
うまく状況を飲み込めていない。
一閃「お前は女の子だし、元々力を受け継がせる気はなかったが、こうなったからには仕方がない。これからは、お前が怪獣を倒すんだ」
一華「……」
まだぽかん顔の一華。
と、怪獣サイレンが鳴る。
一閃「行くぞ一華!」
一華「?」
○海岸沿いの道(回想)
棒立ちしている一華の目の前に巨大な怪獣。
身の竦むような雄叫びを上げている。
一華「(怖い)」
一閃「一華!」
一閃に促され、見よう見まねで手を翳す。
するとビームが出て怪獣に直撃。
怪獣は雄叫びを上げながら消えて行く。
一華「……」
自分の手を不思議そうに見ている一華。
一華M「この時、私はまだ7歳」
一閃や、見ていた町の人が歓声を上げて駆け寄ってくる。
一閃「よくやったぞ一華!」
一華「……」
盛り上がっている周りの反応とは反対に、無表情のまま立ち尽くしている
一華。
愛華が心配そうに見ている。
一華M「こうして、私の終わらない怪獣退治が始まった」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます