公開時なろう限定番外SS

幕間:146.5話 マニア

 ※



「うわぁ、これは凄い、素晴らしい、浪漫じゃ、昂ぶるのう……。何故わしは、この国に召喚されなんだか……」


 何やら、似合わぬ歓声をあげる童女が一人、目をキラキラ輝かせて、格納庫の、そこら中を走り周り、うろついている。


「……アルは、一体どうしちゃったんですか?」


 子供な外見には似合いの行動なのだが、実際の年齢を考え、普段が普段である。つき合いの短いゼンであったが、余りにらしくないハイエルフのはしゃぎっぷりに、いささか引き気味なのであった。


【……アルティエールが、“魔王討伐”の旅に、しばし同行した異世界の勇者なのだが、彼の固有スキルに、『自分の持ち物に限り、異世界から取り寄せるアポーツ事が出来る』というのがあってな、自分の趣味の漫画、小説等の書物や、人形(フィギュア)等を見せて、自慢した者がおるのだ】


【種族名『オタク』、とか『マニア』、とか言われる特殊な嗜好の者達じゃな】


「……それで?」


【その中に、この様な巨大な鉄人形を操って戦う、正義の英雄(ヒーロー)物があったり、純粋にそれらに乗り込んで戦争する物があったりして、アルティエールのツボに、それがはまったのじゃろうな】


【一応は兵器、戦う為の武具に相当する物だからな。アルティエールが好んでも、決しておかしくない部類のオモチャと言ってもいい】


「異世界では、こんな物が造れる程に科学が発達してるんですか?」


【いや、そこまでではないぞ。『巨大ロボ』というのは、あくまで空想の産物。もう少し科学が発達したら、こう言う物が造れるようになる、と予想した上での物語を作り、楽しむ。そういう文化が、異世界では流行りの様じゃな】


「そうなんですか……」


 ゼンも冒険者で、剣士で、男の子だ。


 武器や防具の店に行き、これは実用的だ、これは見た目がいい。格好いい物がある、とそれなりに楽しく見れるが、あそこまでの入れ込みようはない。


 もしかしたら、本来見れる物ではないからこそ、あんなにはしゃいでいるのかもしれない。


「どうせなら、わしが単独で乗って戦いたいのう……。“スルト”なんかはないのか?」


【神殺しの、炎の剣を持つ、炎の巨人か。ありはするが、それに乗られても困るぞ。ラグナロクよりも、格段に弱い。出力が桁違いなのでな。その、左の方にある赤っぽい機体だ】


【神の信徒が“スルト”に乗りたがるとか、背信行為っぽいのじゃがな……】


 珍しくミーミル知恵の神が、ブツブツ愚痴らしきものをこぼしている。


「おお、赤黒い!3倍速く動けそうじゃ!何と、羽飾りまでついておるではないかや!ここの技術者は、わかっておるのう!」


 また、何かのツボに来たらしい。


 微笑ましく、見えないでもないのだが、その狂乱ぶりは、ちょっと怖い……。


「お、この小型機、ずんぐりむっくりで、肩だけ赤い!“れっどしょるだー”じゃ!」


「それ、赤い肩で、まんまなんじゃ……」


 ゼンには、何が面白いのかまるで分からない。


【それらの情報を送るか?】


「いえ、結構です」


 ドきっぱりと、ゼンはミーミル知恵の神に返答する。余り知りたくない世界な気がしたからだ。


 料理ならともかく、異世界のそんな情報を知っても、大して得にならないだろう。


「しかし、偉大なる戦士の魂、エインヘリヤルは、戦乙女(ワルキューレ)によって、ヴァルハラに運ばれる、でしたっけ。それが機体名ってのは、人間の勇者だからギリギリ分からなくもないですけど、確かそれって、大神(オーディン)の護衛になるんですよね。それで神を討つのも、変な話なような……」


【まあ、それっぽい名前にしたかっただけなんじゃろ】


【勝てば官軍。神話を、何とでも書き換えられる、と考えたのかもしれんな】


 一通り見て満足したのか、こちらに走って戻って来るアルティエール。


「中々デザインも凝っておるな。その時代に、大〇原氏の生まれ変わりでもおったのじゃろうか」


「……アル、あんまり適当な事言って、どこからか文句が来ても、俺は知らないよ」


「むう……。ゼンは堅物よな、遊び心というものが足りんのじゃ。じゃから主人公なのに、白い悪魔に乗せてもらえんのじゃぞ」


「?どうとでも言ってくれ」


「でもじゃな、魔術理論で機神(デウス・マキナ)とすると、ネクロノミコンでも組み込んでおるのかや?」


「??」


【アルティエール、異世界の架空の物語と、現実をゴッチャにするのはよしなさい。少年が困惑しているぞ】


「……しかし、二人乗りでそう来るのなら、普通は……そうか、わしが、アレの役なのじゃな。成程、同じアル始まりじゃ!」


 何かくだらない類似点に気づいたアルティエールが、表情を明るく輝かせる。


「???」


 ゼンの困惑は、増す一方だ。


【アルティエール、別に、アルで始まる名前なぞ、いくらでも、“ある”じゃろ?】




 ……シーン……




 ありふれた駄洒落を言ったミーミル知恵の神に、周囲の温度は零度以下まで下がり、凍り付いたのであった……。




後書き

元ネタ、ガン〇ム、ボト〇ズ、デモ〇ベインとか~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る