第2話 恩人と花火(夜空の過去編)
「なんでこんなにお前は無能なのだ?」親父が怒鳴りつけテーブルをひっくり返す。普通ならあまりの異常な行動に怯えてしまうだろう。でも、これは僕の家では日常茶飯事だ。お母さんはもうとっくに僕を置いて逃げてしまった。やっと最近分かりあえたと思っていたのに、成績表を手に取った瞬間これだ。親父は超がつくほどの完璧主義者で気に食わないとすぐに物に当たる。
「もうお前はいらない。この家から出てけ」親父そう言い、僕の首根っこを掴まれて外に放り出して鍵を閉める。
僕はこの家にいる意味がないと感じ、いっそ自殺しようかと近くの河川敷まで歩いた。
河川敷近くになると賑やかでとても明るい。僕にとっては初めての光景だった。いつも暗い部屋に閉じ込められ、学校以外での外室を許してくれないのだ。だから初めてだ。こんなにうるさいのも、美味しそうな匂いも、空に浮かぶ綺麗な光も。
でもそれは一部であって、少し進めば暗く、緩やかに水が流れているだけだ。
「この辺りでいいかな?」川の様子を伺う。
水に触れると冷たい。でも心地よいものでもあった。体に身を委ねてフラっと体ぐらつく。そのまま川の流れに流れて、意識がぷつと途絶える。
ここはどこだ?真っ暗な世界が広がっている。
「も···もし」女性の声だろうか?うっすらとしか聞こえない。暗闇に視界が慣れて、見えるようになったが驚くことにそこには川に入る前と同じ風景が見えた。あれ?川に流れてたはずなんだけどな。
「やっと目が覚めたのね?びっくりしたよ。たこ焼き食べようと河川敷に来たら人が流れてるんだもん」たこ焼き?知らない食べ物だ。
「あそこで何やってたの?」心配そうな顔で聞いてくる。懐かしいと思える。たしかお母さんがよくそんな顔をしていた。
「消えようとしていた」素直にそう言葉が零れた時思わず涙があふれる。
「わわ、どうしたの。ほーら男の子なんだから泣かないの」温かい彼女の言葉に心が安らぐ。
「お父さんに家を追い出されて、お母さんはどこにいるわからなくてもう何すればいいのか分かんないよ」自分でも情けない。今日初めてあった人に弱音を吐くなんてね。
「うーん思ったり重い話だったね。でも自殺しようとしていたしある程度とは思っていたけど予想を越したよ。私から言えることは君自身が好きなように生きればいいんじゃない?」僕は無能なのだ。何も出来ない。そう言われ続け、それが当たり前だと思っていた。だから、
「無能な人間が好きなよう生きてもいいの?」と彼女に聞いた。
「そんなの当たり前じゃん」彼女の言葉に反応するかのように空に浮かぶ綺麗な光が激しさを増す。
「ありがとう、好きなよう生きてみるよ。さっきから空に浮かんでは消えるあの光はなに?」
「あれはね〜花火っていうの。とても綺麗でしょ?」花火の光に映る彼女の笑顔は何故か頭から離れなくなっていた。
「私は、小夜華。如月小夜華だよ。君は?」
「僕は··春雨よ、夜空です。」緊張して噛んでしまった。
「また会えたら今度はゆっくり雑談しよ。またね」
とだけ言い小夜華は夜の闇へ消えていった。
何故だろう?彼女が頭から離れない。それは残り香のせいか、はたまた別の感情が芽生えたのが分からない。
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